ホンダZR-Vは全長4570mmのCセグミッドサイズSUV。ホンダのSUVラインナップとしてはヴェゼルよりもひと回り大きく、日本国内での販売を終了したCR-Vよりもひと回り小さいサイズ。他メーカーのSUVだと、ハリアーやエクストレイルと比べると全長は50~100mmほど短く、また全高が1620mmと低いこともあって、かなりコンパクトに見える。
ZR-Vはパッと見ただけで感じる存在感の高さと走りのよさをアピールポイントに、今人気のSUVカテゴリーのど真ん中にホンダが満を持して送り込んだ意欲作。そんなZR-VのSUVとしての魅力度をはかる大きな指針となる雪道での走りを試してみた!!
ホンダZR-Vの雪上性能を山形県内を走って確認した。蔵王周辺は気温がマイナス8℃程度と低く、雪深いコンディションだった
文:梅木智晴(ベストカー編集委員)/写真:平野学、編集部
ドライ路での操安のよさは雪道でも感じられるのか?
ZR-Vのモデル構成は、2リッター直噴エンジンを搭載し、主に184ps/32.1kgmのモーターで走行するe:HEVと、直列4気筒1.5リッターターボエンジンを搭載するコンベンショナルなパワートレーンの2タイプ。それぞれにFFモデルと4WDが設定されている。今回は雪上試乗ということで、e:HEVの4WDを試すこととした。
ZR-Vのパワーユニットは2リッター直噴エンジンを主に発電用として184ps/32.1kgmのモーターで駆動するe:HEV(右)と、178ps/24.5kgmを発揮する1.5リッターターボ(左)の2タイプだ
ZR-Vにはこれまでも幾度となく試乗する機会があったが、そのたびに基本的なシャシー性能の高さを実感していた。ドライ路面の群馬サイクススポーツセンターでの試乗(クローズドコース)では、アップダウンが激しく、先の見えないタイトなコーナーが連続する林間コースをヒラリヒラリと走り抜け、一般的に車高が高く重心が高いSUVとは思えない軽快なフットワークを体感した。
下り込みのタイトターンなど、ブレーキングしながらターンインしていくような場面でもしっかりとリアサスが伸びて後輪イン側が接地を逃さない。4輪の接地感が高く、追い込んでいってもしっかりと舵が効くので、山道を走っていてコーナーが思いのほか深く曲がり込んでいた! なんて場面でも落ち着いてステアリングを切り込んでいくとスッとノーズが曲がり込んでくれる懐の深さを見せるのだ。
山形駅前でZR-V e:HEV Z 4WDを受け取って走り出す。外気温はマイナス3℃。寒波の影響もあって路面にはガチガチに凍った雪が固まっている。国道などの幹線道路は除雪に加えて交通量が多いためドライ路面が顔を出している部分も多いが、右折レーンだけ真っ白だったり、幹線から一本外れると轍のできた真っ白な圧雪路だったりと、路面状況は刻々と変化する。
取材当日の山形駅前。外気温はマイナス3℃。前夜に降った雪で、路面はうっすらと雪がかぶっており、その下はところどころブラックアイスという状況だ
最初は慎重に路面の滑り具合を確認しながら走る。後続車がいないことを確認して強めのブレーキを掛けたり、信号待ちの発進でちょっと強めにアクセルを踏み込んで滑り具合を確認する。信号待ちで止まった時にドアを開けて足を路面につけてみると、きれいに磨かれたミラーバーン。旭川などのように気温が低くないため、氷上には水が浮いて特に滑りやすい、一番危険な路面状況だ。
圧雪路面の蔵王周辺。特に上りのコーナーではアクセル操作でコーナリング姿勢を自在にコントロールして、テンポよく走る楽しさを味わえた
ちなみにタイヤはブリヂストンの『ブリザックVRX2』を装着している。最新の『ブリザックVRX3』ではないのはなぜ? と思い開発陣に聞いたところ、今回の路面コンディションやZR-Vとのマッチングを総合的に判断してVRX2を選択した、と言う。
敢えてメカニカル式4WDを採用したメリットを実感
ZR-Vの4WDはe:HEVも1.5リッターガソリン車も、電子制御カップリングを介したメカニカル式を採用する。近年では後輪を独立したモーターで駆動するeAXLEが増えている。トヨタのE-Fourや日産のe4ORCEなどがそれ。ホンダだってe:HEVは前輪をモーターで駆動するのだから、後輪もモーター駆動にしてもよさそうなもの。しかし開発陣に聞くと、「敢えてメカニカル4WDにこだわった」のだという。最大の理由は、前後トルク配分をメカニカルに50対50にすることで、発進の瞬間からしっかりと後輪にもトルクを伝え、4輪でしっかりとトラクションを生み出すため、という。コーナー脱出時のアクセルオンでも、4輪に均等にトルクが配分されているので、姿勢変化が少なく、安定した走りが可能となる。また、後輪をモーター駆動にするとその分バッテリー容量を大きくしなければならないなど、重量増加の問題もある。総合的に判断してメカニカル4WDを採用したのだ。
実際、路面状況が刻々と変化する街中を走っていても、変にリアが押し出すような挙動はなく、発進時もアクセル操作を意識することなく、自然にスッと加速する。ナチュラルなドライブ感覚はやはりメカニカル4WDのメリットだ。雪深い蔵王の山道で、撮影のために路側の駐車帯に止め、そこからの発進でもアクセルを踏み込んだ「最初のひと掻き」からしっかりと後輪が雪面を蹴り出し、前輪のみがホイールスピンするようなことはなく、安定した発進姿勢を維持してくれる。
わざと強めのアクセルで発進を試みた。見てのとおり、後輪が力強く雪を掻いていることがわかるだろう。安定した発進加速を見せてくれた
これは、e:HEVのモーター駆動によるメリットも大きいように感じた。ホンダのハイブリッドはシリーズ方式を基本としたシステムで、エンジンの負荷が低く、逆にモーターが不得手とする高速巡航時はエンジン動力が駆動に加わるが、100km/h以下ではモーター動力で走行する。
雪道でも操安性の高さがより光った!!
今回の雪道走行はもっぱらモーター動力での走行となる条件だ。モーターのトルク制御が絶妙で、発進時にややラフにアクセルを踏み込んでも急激にトルクが立ち上がることなく、タイヤがジワリと雪面を掴みながら速度を上げていく。トラクションコントロールの制御も内燃機関よりもモーターのほうが緻密にできるため、失速感なく、ストレスなく発進加速をしていくのだ。これは走り出した後の加速時などでも同様。右足の微妙な操作にモーターのトルクがちょうどよく反応し、ドライバーの意に沿ったトラクションで加速をしてくれる。
蔵王の山道でもアクセルコントロールで自在に姿勢を操れる懐の深さを感じた。スッと伸びるリア内輪側のサスペンションが絶妙に後輪の接地を保ち、アウト側前輪への荷重集中を抑え込む。しっかりと4輪が接地するので雪道でも安定したグリップを感じられ、安心して走ることができるのだ。この操安性はドライの群サイで感じたものと同じだった。
4輪の接地がしっかりとしており、タイヤの接地面をフルに生かした安定したグリップが得られるのがZR-Vの「足のよさ」なのだ
蔵王での深い雪上区間での試乗ののち、上山市方面で国道13号線に抜け、米沢市を経由して国道121号線で喜多方市を目指すルートで最終的に都内へ向かうこととした。国道13号線は除雪が行き届き、基本的にはドライ。米沢から喜多方への国道121号線は峠越えがあり再び圧雪路。
ZR-Vの足は雪道でもドライ路同様、コーナリングでのロールやブレーキングでのノーズダイブなどで発生する車体上物の動きに対してはダンピングを効かせながらしなやかに足が伸びる動きをして、タイヤをしっかりと接地させる動きをするのだが、直進する一般道を走っていると、路面側からの入力に対してはややゴツゴツした硬さを感じさせるのがちょっと気になった。ここがもうちょっとスッと抜けてくれるとより心地よい乗り心地になるだろう。
雪上走行を終えた喜多方でちょっと遅めの昼食にラーメンを食べ、会津若松からはドライ路の磐越道~東北道で都内を目指した。高速道路の速度域だとは一般道で感じたゴツゴツ感を感じることなく、快適な乗り心地。早朝山形駅前出発し、撮影をしながら約500kmを一気に走るドライブだったが、そんな長距離ドライブでも疲労は少なかった。そして、ZR-Vの雪上試乗は快適で楽しかった!
新たに雪が降り積もり、路面は完全な圧雪路となっていた蔵王周辺
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