ランドローバーの「ディフェンダー90」に設定された特別仕様車「75TH リミテッド エディション」に小川フミオが試乗。今や日本市場では希少な3ドアのオフローダーの魅力に迫る!
魅力的なファブリックルーフ
英国の老舗、ランドローバーが手がける「ディフェンダー90」は、今なお魅力的だ。デザインも個性的だし、運転も楽しめる。しかも、90、110、130と3種類のボディが選べるのもおもしろい。
1948年に初代が誕生し、本格的なモデルチェンジがおこなわれたのが2022年。初代のイメージを残した3ドアのボディは、4510mmの全長に対して、全高は1970mmと背が髙い。
90は、ディフェンダーのラインナップにあって、もっともパーソナル性が強いモデルだ。ちょっと寸詰まりのようなプロポーションと、あえて3ドアという割り切りのいいデザインが魅力だ。
今回乗ったのは、ランドローバー・シリーズIの発表から75周年の節目に発表された75TH リミテッド エディションと呼ぶ特別仕様車。
上位グレードである「HSE」をベースに、専用カラーである「グラスミアグリーン」で、車体とホイールを塗装。魅力的な中間色だ。内装の一部にも本色が使われている。
エンジンは、2.0リッター直列4気筒ガソリンターボで、最高出力は221kW、最大トルクは400Nm。なんの予備知識もなしに乗ったら、2.0リッターとは思えないほど力強い。かつての常識は通用しないのだ。
私がこの75周年記念モデルを気に入っているのは、デザインにとどまらない。ルーフは大きな開口部を持ち、ファブリックルーフがはめこまれている点だ。
ファブリックとかビニールをルーフに使う元祖といえば、シトロエン「2CV」とかフィアット「トポリーノ」(ヌオーバ500のご先祖)が思いつく。
私がかつて乗っていたルノー「5」もビニールルーフ装着車だった。こういう大衆車では、ビニールルーフを使うと車内にこもりがちなエンジン音とかギア音とかを逃がす効果が得られる。
1101万3000円のディフェンダー90は、そもそも室内が静かで、ルーフを大きく開けたときの効果は、とりわけ後席の乗員に、すばらしい開放感をもたらしてくれるところにある。
ディフェンダーと呼ばれるようになったのは、1991年からだが、そのずっと前からソフトトップのモデルは存在した。もちろんそれ以外にもあらゆるボディタイプがあった。
エアコンもない昔のモデルの場合、ソフトトップは、車内の熱気を逃がす効果を持っていた。私は、幌をもったランドローバーの“特殊用途的な雰囲気”が好きだったなぁ。
そんなことも、今は昔である。そもそも快適性を多少犠牲にしている3ドアのディフェンダー90を選んだからには、外気に髪の毛を乱されるのもいいもんだ、と、思う。
夏だったらストローハット、冬ならニットキャップとかマフラーぐるぐる巻きで乗っていたい。もちろん、ショートホイールベースを活かして悪路を走りまわるのもいいし、泥だらけの車体もサマになる。
90ならではの魅力むかしのランドローバー(ディフェンダー)といえば、合目的的に設計されているけれど、悪路を走るという合目的的すぎて、市街地に乗るのは多少の根性が必要だった。
あたらしい90の、たとえば、エンジンフィールを例にとっても、洗練ぶりにはいたく感心する。
それに全長が約4.5mしかないので、都市部での取りまわしはかなり良い。全幅こそ2.0mに迫る1955mmもあるけれど、全長が短いうえにアイポイントも高いから、車庫入れなどは容易だった。しかも高性能な360°カメラも搭載するから狭い道でも、そこまで気を遣う必要はない。
3ドアのショートボディといっても2100kgと、けっこう重量級だけど、ぐいぐいと加速していく感覚は、なかなかの快感だ。
ステアリングフィールも、クロスカントリー型ヨンクというより、乗用車的にしっかりしたもので、走る場所を選ばない。高速でも瞬発力があるし、ワインディングロードも得意科目のひとつのようだ。
気になるリヤシートの居住性も、足まわりは少々タイトかもしれないが、しっかりとしたヘッドレストを持った厚みのあるシートや専用エアコンなどによって快適性は高い。それに、ファブリックルーフをあければ開放抜群だ。
美しいデザインと、すぐれた操縦性能と、なにより他に類のないコンセプト。それらをひとつにまとめたランドローバーの企画力に感心されるディフェンダー90である。
3ドアで問題なければ、このクルマ、きっと満足いくんじゃないかと思う。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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