■オジサンの乗り物が若者のトレンドへ
ホンダの250ccスクーター『フォルツァ』がフルモデルチェンジし、7月下旬に新発売されました。この新型で『フォルツァ』は5代目となります。今回はその歴史を振り返ってみようと思います。
フルフェイス? ジェット? タイプもいろいろ<前編> バイク用ヘルメットの違いとは?
初代誕生は2000年3月のことでした。記憶に新しい“ビッグスクーターブーム”の始まりの頃です。250ccスクーターが突如売れ出したのは、ヤマハ『マジェスティ』の登場からです。『マジェスティ』は1995年8月にデビューすると、年間計画販売台数4000台をわずか4ヶ月で予想を上回る5000台を販売。1996年の軽二輪(126ccから250cc)クラスでは1万台近くを売り、トップセールスとなりました。
その頃、ホンダには『フュージョンSE』がありましたが、それはまだ“オジサン”が乗るものでしかなく、若者にフュージョンが注目されるのはもう少しだけ後のことです。彼らはまだ「トラッカーブーム」のさなかにいて、ヤマハ『TW200/E』をストリートカスタム“スカチューン”するのに夢中でした。1986年に初代が発売されていた『FTR』が再び脚光を浴び、2000年9月に再登場し“ティーダバー(TW200/E)”人気に対抗します。
「キムタク」こと元SMAPの木村拓哉さんがテレビドラマでTWに乗って話題になりましたが、その放送は2000年のことです。スズキも『グラストラッカー』をその年に発売していますから「ビグスクブーム」だったというのはまだ少し早い時期だったのかもしれません。
そういう意味では、ホンダもかなり早い段階に次なるブームを予感していたことが、今となってわかります。1997年6月に新発売したホンダ『フォーサイト』や1998年のスズキ『スカイウェイブ タイプI/II』らは、まだまだ“オジサン”向けの匂いがしていましたが、2000年にデビューした『フォルツァ』は「ニュースタイリッシュスポーツ」をキーワードに開発したもので、フロントからリアまでシャープなボディラインで統一するなど、そのスタイルはもう“ビグスクブーム”のときによく目にしたお馴染みのシルエットとなっていました。
『フォーサイト』で実績のある水冷4ストロークエンジンは、低中回転域から高回転域まで滑らかで力強く、街乗りメインの若者にしてみれば「ちょうどいい」ものでした。トラッカーブームで、もうバイクは肩肘張らずに乗るという価値観ができていて、シフトチェンジやクラッチ操作の要らないビグスクへ抵抗なく移行できたのです。
ロー&ロングなほどにカッコよく、ウインドシールドはショートスクリーンに変更され、マフラーを交換するのも当たり前のカスタムメニュー。ライダーは両足を前方に投げ出し、寝そべるようにして乗る人もいるほどでした。
低く長いスタイルに、ショートスクリーンやメッキハンドルを備える。そんなカスタムトレンドを新車時から盛り込んだのが、2002年のヤマハ『マジェスティC』です。これで“ビッグスクーターブーム”は一気に過熱していきます。
■ ブームを牽引した2代目は先進技術も次々投入!
2004年4月に、フォルツァは2代目となる『フォルツァ X』となって新発売。2灯ヘッドライトを継承しながら、流麗かつ躍動感あふれるスタイルをより強調したものとなり、ウインドシールドはもちろんショート化しました。さらに7月には『フォルツァ Z』もラインナップし、こちらは「Honda S マチック」を採用したことで6段変速できるスポーティな走りも楽しめるモデルに進化して行きます。
「Honda S マチック」は、DモードとSモードのオートマチックモードと6段のマニュアルシフトモードの選択が可能で、この頃からフォルツァはスポーティな走りを重視していることがわかります。
シート下トランクの収納力もライバルらと競い合い、この2代目フォルツァではクラス最大の62Lという容量を誇りました。ワンタッチで開錠でき、フルフェイスヘルメット2個はもちろんゴルフクラブなどの長尺物も入ってしまうという広さです。
2004年5月から2006年4月の軽二輪車届出台数の車名別で、第1位を獲得する人気ぶりとなり、ビグスクブームを牽引します。いずれの時代も高級感が求められ、上級仕様も存在し続けます。たとえば2007年の「フォルツァZ Sパッケージ」は、カーボン調のメーターパネルやシートのバックレスト、ディンプル調表皮のシート、ゴールドエンブレムなどが装備され、大人も唸らせる上質さも合わせ持っていました。
3代目は2007年12月に『フォルツァ Z』『フォルツァ Z ABS』として登場しています。このとき水冷エンジンを2バルブから4バルブ化し、ボア×ストロークを従来のショートストロークタイプから、よりスクエアな数値(68.0×68.5mm)に変更。力強い走行フィーリングに磨きをかけています。
まだ3代目ですが、こうしてフォルツァの歴史を振り返ると、先進装備が次々と惜しみなく投入されたことにも気づきます。2000年8月発売の『フォルツァ S』から前後輪連動ABSが採用されていますし、「アイドルストップシステム」も搭載されました。
2004年発売の2代目では、スマートカードキーシステム(双方向通信電子照合式キー)を二輪車としては世界初で標準搭載していますし、専用設計の車速感応式(音量が車速の増減により自動で変化)オーディオスピーカーをオプションで設定。音楽を聴きながらバイクに乗るというスタイルも、このときの若者たちを魅了します。
そして2008年3月には、ついに新車時からオーディオシステムを搭載した「オーディオパッケージ」も全タイプに設定します。ビルトインタイプの「フォルツァ エクスクルーシブ オーディオシステム」は高指向性スピーカーシステムだけでなく、イコライザーや車速連動のオートボリュームなど、バイクのオーディオとして最適な機能を備えました。これは最上級バイク『ゴールドウイング』にも匹敵する充実したもので、フォルツァは音楽のあるバイクライフをより身近なものとしたのです。
3代目では2010年1月発売の『フォルツァ Z/ABS』で7速変速の「Honda Sマチック Evo」も採用され、走行モードの選択肢を広げています。フロントカウルのスクリーンガーニッシュを一体化し、より流麗でスタイリッシュなデザインとなったこのモデルは、3.5代目といっていいかもしれません。
4代目となったのは、2013年7月の『フォルツァ Si』からです。前後13インチだった足まわりをフロントのみ14インチ化。アルミキャストホイールは、新デザインのY字型スポークを採用しています。
ビグスクブームの時代はもはや終焉を迎えており、4代目発売以来大きな変更がなく5年が経ってしまいました。
■スタイルを一新し、新境地に突入!
そしてまったく新しいスタイルとなって5代目が今回登場したのです。ターゲットはもはや若者ではなく大人。開発陣がイメージしたのは、都市に勤務し、高速道路を使用した通勤を日常とするビジネスマンです。家族と暮らす郊外の自宅から、オフィスのある街の中心部まで、通勤距離はおよそ30kmを想定。高速道路を降りれば、混雑した市街路をフォルツァに乗って駆け抜けるというイメージです。
家族や友人と過ごしたり、仕事あるいは趣味に打ち込む時間など、良質な時間を過ごしたいと願い、通勤に時間を費やしたくはない。都会的なスタイリッシュさを漂わせつつ、実用性も兼ね備えるものをチョイスしたい大人たちに向けて、新型『フォルツァ』はつくられたのです。
開発責任者の山田広司さん(本田技術研究所 二輪R&Dセンター)は「足まわりはフロント15インチ、リア14インチに大径化し、新設計フレームは従来比約20%の軽量化を図りながら必要な剛性を保っています。車両重量を従来モデルから約5%軽量化。ホイールベースは従来モデルから35mm短縮しました」と教えてくれました。
また、山田さんは「同排気量クラスのスクーターにおいてトップクラスの走り。2人乗りでも余裕がある」と、動力性能にも自信アリで、「より低速でのドライバビリティーに優れた出力特性に仕上げた」とのことです。ちなみに燃料タンクの容量は11Lで、これは「1週間の通勤に必要十分な航続距離を想定した」と言います。
電動式の可動スクリーンは140mmの可動範囲で、無段階調整が可能。風を感じて爽快に走るローポジション、高速巡航を快適にするハイポジションを状況や好みに合わせ設定できます。
フルフェイスヘルメットが2個入るラゲッジスペースは、セパレータープレートで内部を仕切ることもでき、プレートに収納例をイラスト表示することで、ひと目でわかりやすく、さまざまな用途に対応しました。
「俊敏さと高い質感を感じさせるスタイリングとしつつ、長距離移動の際にも安心を感じる頼りがいのあるフロントデザインです」と話すのは、デザイン モデル担当責任者の清水健児さん(二輪R&Dセンター デザイン開発室 第三ブロック所属)です。スタイリングテーマは、“AGILE & CLASSY”とのことで「“走りの良さ“がひと目で分かるフォルム。踏ん張る足を強調した“台形バランス”で、街中でも機敏に扱えるサイズ感を表現しました」と教えてくれました。
第5世代となってスタイルを一新し、新時代に突入した「フォルツァ」ですが、いつの時代も実用性の高さはもちろん、快適な高速走行性能と都市に似合う洗練されたスタイルが自慢であることが、歴史を振り返ってみてもわかります。
そして新型「フォルツァ」は、その持ち味をさらに進化させつつ、スポーティさをプラスしています。
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