アメリカ車を代表するプレミアムブランドいえば、真っ先に頭に浮かぶのがゼネラルモーターズが展開しているキャデラックだろう。
1950年代には隆盛を極め、巨大なテールフィンを備えたキャデラックは、アメリカ文化やアメリカンドリームを象徴するアイコンとして、その後も世界の高級車に影響を与え続けた。
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2000年代以降になると、モダンなスタイリングに統一し、ニュルブルクリングサーキットで開発テストを行うなど、欧州メーカーをターゲットとするようになった。
そして、2010年代に入り、セダン最小モデルのATSや高級SUVのSRX、エスカレードの人気に火が付いた。
特にアメ車らしい豪華絢爛なSUVのエスカレードは、日本でも富裕層を中心にブームを巻き起こした。
またグローバル戦略の一環として新しい車名を採り入れたこともトピックス。セダンやクーペにはCT、SUVにはXTが車名として付けられ、その後ろに車格を示す数字を付ける方式となっている。
最新のキャデラックは、60代以上の方がイメージしているであろう、1990年代初頭までの優雅なイメージとは大きく変わっているのだ。
そこで、いまいち、よくわからないという方のためにキャデラックの最新事情について、モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。
文/岩尾信哉
写真/ゼネラルモーターズ
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最近のキャデラックは何が違うのか?
アメリカの自動車文化、富の象徴といえるキャデラック。写真は巨大なテールフィンを備えた1959年モデルのキャデラック・エルドラド・ビアリッツ
1976年モデルのキャデラック・フリードウッド・エルドラド
1992年モデルのキャデラック・ブロアム
1989年モデル、キャデラック・デビルのインテリア
大統領専用車、ビースト。写真は2009年モデル
キャデラックといえば、米国生まれの大手自動車メーカーが抱えるブランドの中で、1902年創業と118年を超える歴史を持つ、アメリカを代表するプレミアムブランドである。
たとえば最近ではトランプ大統領の来日時に大統領専用車「ビースト」が姿を見せたことが話題に上ったが、大統領専用車を手がける特別なブランドとしてなど、そのステイタスは揺らぎのないものだ。
いっぽうで20世紀末に将来に向けて打ち出された、斬新なデザインコンセプト「アート&サイエンス」が注目を浴びるなど、キャデラックは欧州のプレミアムカー市場での拡販も視野に入れつつ、商品開発に注力してきた。
日本市場でも最近のキャデラックは、大型SUVのエスカレードの人気が際だっていたこともあって、SUVを軸に新たな商品戦略を展開し始めている。
はたして、親元であるゼネラルモータース(以下GM)はキャデラックについて、どのような戦略を打ち出そうとしているのか。
将来日本市場に展開が噂されるモデルなどを含めて、新世代「キャディ」の動きを追ってみよう。
進化し続けるプレミアムブランド キャデラックの現在地
ファストバックスタイルのミドルセダン、キャデラックCT5、2020年モデル。エンジンは237psの2L、直4ターボ+8速ATと335psの3L、V6ツインターボ+10速AT。ボディサイズは全長4924×全幅1883×全高1452mm
コンパクトセダン(アメリカではそう呼ばれる)のキャデラックCT4、2020年モデル。エンジンは237psの2L、直4ターボ+8速ATと310psの2.7L、直4ターボ+10速ATの2種類。ボディサイズは全長4756×全幅1815×全高1423mm
キャデラックの2000年代のモデルの変遷については、頂点に君臨するエスカレードを除いて、ネーミングの変化などを辿っていけばその動きがわかってくるのだが、近年のキャデラックの北米市場の動きは慌ただしさを増している。
まずのセダンに関しては、北米市場では従来のミドルレンジのCTSと日本市場に正規では未導入のXTSを、ニューモデルとして2019年4月に発表したCT5に集約。
続いて前述のようにATSの代替わりとして、同年9月にコンパクトセダンのCT4を米国で発表した(2018年にATS、2019年にCTSの生産が終了)。
対して日本市場では、後述するビッグセダンのCT6が2015年の本国発表に続き2016年に、ネーミングを変更した新世代キャデラックの先駆けとして導入された。
SUV系の新車種については、最近では2019年に改良を受けたミドルクラスSUVのXT5(日本市場では後ろに“クロスオーバー”が付く)と、XT5とフルサイズSUVのエスカレードの間を埋めるモデルとしてXT6を2020年1月に同時に導入している。
新たなSUVモデルとしてフロントデザインを改め、横方向に伸びるLEDヘッドライトと大型グリルなどを備えた共通のコンセプトが与えられている。
キャデラックXT5プレミアムラグジュアリーの2020年モデル。日本仕様は314psの3.7L、V6+9速AT。価格は650万円。ボディサイズは全長4825×全幅1915×全高1700mm
2020年モデルのXT6プレミアムラグジュアリー。日本仕様のXT6の価格は870万円。えんじんは314psを発生する3.7L、V6+9速AT。ボディサイズは全長5060×全幅1960×全高1775mm
ビッグセダン CT6の魅力とは?
キャデラックCT6、2018年モデル
CT6の2019年モデル。日本仕様の価格は1045万円。エンジンは340psを発生する3.7L、V6+10速AT。ボディサイズは全長5230×全幅1885×全高1495mm
日本市場にセダンとして唯一導入されているビッグサイズサルーンであるCT6(Cadillac Touring 6の略称)について触れておくと、新世代プラットフォームとして後輪駆動仕様の“オメガ・アーキテクチャー”を採用した4WD仕様モデル(旧世代のXTSは前輪駆動プラットフォームを採用)となる。
ちなみに、これまでキャデラックではミドルクラスではセヴィル→STS、デゥビル→DTS→XTSとつながり、現在のCT6にたどり着いたことを見れば、伝統的なアメリカンセダンの名残を感じさせる。
21世紀での第2世代への移行を意味するアルファベットと数字の組み合わせた初めてのモデルであるCT6は、2015年に米本国で発表、2016年に発売され、日本市場でも2016年5月に導入された。
全長は5180mm、ホイールベースが3110mmの大柄なボディにはアルミニウムを約6割使用するなど、100kgの従来モデルから軽量化が施された。
過去を見れば1990年代のセヴィルやドゥビルは、ドイツ勢にはない作りでアメリカンな鷹揚さを讃えていた。
いっぽう、2000年代から続いてきたシャープなデザインとハンドリングを備えたATS/CTSといったモデルは、欧州プレミアムブランドを意識して開発されて魅力的に仕上がったことを考えれば、新世代のCT5とCT4によって反転攻勢を仕掛けようとしているようだ。
販売の軸はやはりSUV系
一大ブームを巻き起こしたキャデラックエスカレードの2020年モデル。日本仕様の価格は1377万円。エンジンは426psの6.2L、V8+8速AT。ボディサイズは全長5195×全幅2065×全高1910mm
エスカレード2020年モデルのコクピット
キャデラックエスカレード2020年モデルのインテリア
キャデラックエスカレードは2021年モデルから、他のモデルとほぼ共通するイメージのフロントマスクを採用。写真はブラックのメッシュグリル仕様
改めて振り返ると、米国市場では2008年9月のリーマンショックの影響などを受け、GMが2009年6月に経営破綻したことをきっかけとして、2010年代にはキャデラックも従来のコンセプトの方向性を変化させて、SUVの商品開発に力を入れることで復活を遂げようとしてきた。
具体的には2010年代後半から、欧州生まれのライバルたちが世界的なブームに乗ってSUVカテゴリーのラインナップの拡充を図るなかで、北米市場を含めたキャデラックのラインアップもSUV中心に構成されるようになった。
メルセデスベンツやBMW、レクサスと比べて、いわゆる流行のスタイリング重視といえるSUVの数は控えめでも、北米市場では際だったブランドイメージが成立していることがキャデラックの強みといえる。
日本市場でもエスカレードへの高い注目度合いが一段落した後も、輸入車における生粋の高級ブランドとしてのキャデラックが、現在どのような車種で構成しているのか確認してみよう。
前述のように、アルファベットと数字で組み合わせたネーミングで区別されるモデルへの移行が進み、ビッグセダンのCT6に続き、前述のように新世代SUVとしてXT5、XT6が投入。
そして頂点のエスカレードでラインナップを構成され、輸入車マーケットでは販売台数の上ではニッチ的な立場にある。
日本における2019年度のブランドとしての販売台数は512台。輸入車市場でのシェアとしては0.15%と小規模といえ(2018年度:569台、シェア:0.16%)、トップセリングモデルはSUVのXT5となっている。
セダンの反転攻勢は実現できるか?
このXLRからキャデラックの新時代が始まった
少々時代を辿ってみると、コンセプトカーの「エヴォーク」からキャデラックが生み出した数少ないオープンスポーツである1999年登場のXLRから、「アート&サイエンス」のデザインコンセプトを打ち出してキャデラックの“新時代”が始まり、第4世代のエスカレードもこのコンセプトに沿って登場した。
GMが前述の2008年のリーマンショックでの経営破綻を経験した後も、欧州の高級モデルを意識した中小型セダンであるATSやCTSなどは、ドイツのニュルブルクリンクサーキットでのテストで鍛え上げた足回りを仕立て、ドイツ勢と変わらぬコンセプトと上級な作りを目指して生み出されたことで、エッジの効いたスタイリングとしっかりとした感触をもたらすサスペンションなど、「新世代」といえる印象をもたらした。
話を2019年に戻せば、米本国では先代と言えるCTS同様に、最新のCT4/5/6にも高性能仕様のVシリーズを追加設定した。
Vシリーズはこれまで欧州高級ブランドのハイパフォーマンス仕様(メルセデスではAMG、BMWのM、アウディのRSなど)に対抗すべく、ATS/CTSの世代からスポーティかつパワフルでマッチョなイメージを加えることで、積極的なモデル展開を図ってきた。
キャデラックのスポーツモデル、Vシリーズ。写真はCT4-V
新たに登場したCT4-Vは、2.8L、直4ターボ(320ps、500Nm)を搭載。CT5-Vには335ps/ 542Nmの3L、V6ツインターボを与え、CT6-Vに550psと850Nmを発生する4.2L、V8ツインターボを搭載。それぞれ10段ATを組み合わせている。
キャデラックは従来から最新技術の採用を積極的に進めてきたブランドだが、装備面ではこのCT5やCT4でも、高速道路における半自動運転を実現した先進運転支援システムである、「スーパークルーズ」が2020年から設定される予定だ。
このシステムは、最新の地図情報データベースや高精度GPS、3次元スキャナーを備えたLiDAR機構や最新のドライバーの注意喚起システムなど、カメラとレーダーセンサーのネットワークを組み合わせた機能によって、運転者が介在する余地を残した段階での自律運転機能を備えている。
CT4とXT4、そして新型エスカレードの導入に期待
2020年モデルのキャデラックCT4スポーツ
キャデラック最小のSUV、2020年モデルのキャデラックXT4。搭載されるエンジンは237psを発生する2L、直4ターボ。ボディサイズは全長4599×全幅1881×全高1627mm
ニューモデルとして注目されるのは、前述のセダンのCT4とともに日本市場では未導入のコンパクトSUVであるXT4だ。
2018年3月の米国ニューヨークショーでのデビューから多少の月日が悔過しているのは、今や日本市場では輸入車に限ってもライバルたちに伍して争うのは容易ではないと判断されているのか、近い時期での導入が慎重に検討されているのかもしれない。最新の情報では2020年内に500万円前後での日本導入が予想されている。
北米市場での直近の動きで見逃せないのが、2020年2月に発表されたエスカレードのフルモデルチェンジだ。5代目となった新型では、独立式リアサスペンションや内装でも「湾曲型OLEDディスプレイ」を採用した。
これまでのオラオラ顔から洗練された顔に変更されたエスカレード2021年モデル。搭載されるエンジンは420psの6.2L、V8と277psの3L、直6ターボ。ボディサイズは全長5382×全幅2059×全高1948mm
自動車業界として初の「湾曲したOLEDパネル」を採用。38インチを上回る巨大な画面サイズをもつ高精細ディスプレイは、4Kテレビの2倍のピクセル密度を実現
特にエクステリアの変化は大きく、ボディの前後端を垂直方向にフラットに大胆に変更。XT4とXT5同様に大型グリルと横長のヘッドライトを採用することで新世代のキャデラックのデザインが行き渡ることになった。
エスカレードはトップモデルとしてのイメージリーダーだけあって、今回の変更をマーケットがどのように評価するのか気になるところだ。
GMの「売れる商品を絞って売る」という、従来から続く日本市場でのビジネスコンセプトを展開することはクレバーな手法と認めよう。
それでも、SUVをメインとしたラインナップによって、キャデラックの魅力のすべてを表現できるとは思えない。
たとえば、今後の日本市場導入が期待されるセダンに関しては、先に触れたVシリーズはプレミアム性とスポーツ性を兼ね備えているから、生粋の高級ブランドとしての「キャディ」の存在感を示す有効な手段となるはず。
ぜひとも、新世代セダンとともに元気の良さを備えたモデルの日本市場への導入を検討してもらいたい。
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まあ、今後も作りませんね。