2005年に登場したE90型BMW 3シリーズはどこがどのように進化したのか。また、なぜそこまで進化することができたのか。2004年に登場し、新しくBMWのエントリーモデルとなった1シリーズと新型3シリーズはどういう関係にあるのか。2台を比較しながら新型3シリーズの本質に迫っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年6月号より。タイトル写真はBMW 320iと120i)
自分のクルマとしても考えることが可能なセダン
「うわぁ~。ずいぶん大きくなっちゃうんだねぇ~」というのが、新型3シリーズ登場の報に接した時の、正直な第一印象だった。基本的に道が狭い日本で、このサイズはやっていけるのだろうか。BMWのエントリーモデルとして存在してきた3シリーズだが、ユーザーに受け入れられるのか。常識的には一方通行としか考えられないような狭い交互通行道路や、曲がりくねった狭路に取り囲まれた地域に住んでいる私としては、どうしてもそのサイズが気になってしまうのだ。
1800mmを超えた全幅は、5シリーズと比べても30mmしか変わらない。コンパクトで取り回しのよい、BMWのエントリーモデルという感覚はその数値からはおよそ伝わってこない。そしてエントリーモデルというと、現在は1シリーズがある。その1750mmという全幅は、それ単体では決して小さいとは言えないが、大きくなってしまった3シリーズと比べれば、十分に納得感のある数値だ。
しかし、セダンとハッチバックでは印象がまったく違う。自分一人での普段使いだけでなく、後席にも人を乗せるとなれば、やはりセダンとハッチバックではスタイルから伝わってくるおもてなし度が違ってくる。
1シリーズでも、大切な人をもてなすのに十分な質感は備えているけれど、それでもハッチバックというだけでカジュアル感がある。大切な人を後席に乗せるとなったら、やはりセダンの方が「襟を正した」感があるに違いないと私は思う。
その延長線上のような理由で、自分のクルマとしてチョイスする場合では、セダンは避けていた。セダンというと、それだけでオウチのクルマの借り物みたいに見られてしまう気がするのと、何だか一気に落ち着いてしまう気がしていたからだ。つまり、3シリーズと1シリーズならば、1シリーズの方が現在の自分らしさを演出できる気がしていたのである。
と、ここまでが実際に出会うまでの正直な感想。しかしいつも思うのだが、クルマというものは(クルマだけではなく、すべからくそうなのだが)実際に見て触れて乗ってみないとわからない。今回も、実車に出会った後での印象は、それまでに私が想像していたものとはかなり変わることになった。
何しろ、今度の3シリーズはスタイリングが「オウチグルマ」っぽくない。5シリーズほど先鋭ではなく、挑戦的な躍動感の中にも何となく取っ付きやすさを感じるこのデザインは「今の私にもそんなに似合わないことはないんじゃないかしら」と正直思えた。
確かに、「大きさ」を感じないと言えばウソになる。見た目的には、全高が抑えられているせいか、凝縮された感じが伝わってくるが、実際に走らせてみると意外なことに、運転席に座ってポジションを取り、ほんの数百mを走らせただけでその大きさを感じていない自分に気が付いたのである。
さらには、想像以上にクルクルと小回りも効いてくれる。これならば、我が家の周りの狭い道でも、それほど恐れを抱かずに挑めるに違いない。
正直、5シリーズだと、どんなに長距離を走っていても、どこかである種の「乗せられている感」が存在することを常に意識している。だが3シリーズには、それがない。「自分」の範疇で動かせるのだ。その印象は走らせる距離を増すごとに大きくなり、そして確信へと変わっていった。
この感覚は、1シリーズでも同様のものを覚えていた。「乗せられている感」がないからこそ、自分のクルマだと感覚的に伝わってくるものがあり、そこにまた心地よさが感じられていたのだ。しかしこの両車を直接比べてみると、あたり前だがやはり「伝わってくるもの」が違っていた。
320iと120iは同じN46B20B型エンジンを搭載していて、発表されているスペック的にもまったく同じだ。しかし今回の試乗に限って言えば、320iのエンジンの方に「元気の良さ」があるように感じた。ただしこれにはエンジンそのものの個体差や、これまでの走行歴も関係してくるだろうから、一概には言い切れないが。
実は私は、この320iには1週間を置いて2度、乗る機会があった。最初に乗ってからの後、120iと同時に比較できた2回目までの間に距離もそれなりに伸びており、クルマそのものも馴らしがほぼ終わった状態だったので、1回目のコンディションから考えると新車時特有の「硬さ」がずいぶんとこなれていた。BMWのクルマは、5000km以上を走ってからその本当の良さが表れてくるとも聞くが、実際にエンジンも足回りのフィーリングも、グッと良くなっていた。というわけで、特に高回転域の軽さで、320iの方が120iよりも上に感じられたのだ。
エントリーとトップ、位置づけは明らかに違う
さて320iと120iの乗り味の差は、端的に言えば120iは「スポーティ」でカッチリした感じであり、比べて320iはBMWらしいスポーティさはあるものの「しなやかさ」がクローズアップされた感じである。
たとえば、ワインディングという場面では、自分で操れる感覚がより強く、手足のようにこちらの意図通り動いてくれる120iの方が運転する楽しさが伝わってくる。オンザレール感覚でビタッと吸い付くようにコーナーを回ってくれるその様子からは、胸のすくような爽快感が十分に味わえる。ところが、これが高速道路の長距離ドライブとなると、逆に120iの「硬さ」が気になってきてしまう。
その点、320iからは「硬さ」というものの存在はまったく感じないと言い切っていい。特に驚いたのが、路肩などにある駐車スペースなどへ出入りした時だった。ちょっとした段差があったのだが、頭の中にBMW特有のカッチリした味わいが根付いている私は、そこを乗り越える瞬間に自然と身構えていた。だがそこを、あっけないほどしなやかに、ドスンとしたショックなどをまったく伝えずに320iは乗り越した。思わず拍子抜けしてしまったが、これはかなりアッパレなことである。どうやったら、このようにスポーティさとしなやかさを共存させることができるのだろうか。それ以降、ちょっとした段差などを乗り越えるたびに、私はひとりで唸っていた。
楽しいと思える走りの性能と、快適にツーリングができるという癒しの性能のバランスが、実に巧みに取られている。こう言葉にしてしまうと簡単なようだが、これは出そうとしてもなかなか出せない味わいだ。
320i(セダン)と120i(ハッチバック)は、想定している使われ方やユーザー層からして異なる。だが、このフィーリングの差は、それぞれのシリーズ内での位置づけの違いによるものも大きく関与していると思う。
日本に導入されているモデルで見ると、320iは3シリーズのエントリーモデル。対して120iは1シリーズのトップモデルだ。トップモデル=スポーティモデルと決められているわけではないが、スポーティさを身上とするクルマに関して言えば、価格的にもヒエラルキー的にも、そのように位置づけられていることが多い。
従って、スポーティモデルという位置づけがあるトップモデルには、間違いなく特化した性能が与えられるのだ。シリーズ内の他モデルと比較して、たとえば静粛性や乗り心地には少々目をつむっても、極めつけの運動性能を持つことが必須とされるのだろう。
そう考えれば、この320iと120iの味付けの違いは至極納得がいく。シリーズの最上級モデルならではの特化した性能を与えられた120iと、シリーズのエントリーモデルという位置づけの320i。エントリーモデルというのは、そのシリーズの性格をわかりやすく表した、また表れているものであると思うから、特化した性能よりも、バランスの良さが求められる。これは当たり前のことだ。そしてその役割を、320iは十二分に果たしていると言っていい。
実際にデートをしてみたら、至極印象の良かった320i。だが、ひとつだけ気になることがあった。それは、ドライビングポジション。身長161.5cmの私にとって、先代3シリーズの運転席の調整量は、世界一と言っていいものに思えていた。だが今度の新型3シリーズは、それがほんの少し物足りない。あと一段階だけシートの座面が上がり、相対的なステアリング位置が下がってくれれば、もう言うことなしなのだが。
私にとって最近の輸入車での悩みの種は、シートリフターを最も上の位置にまで調整してしまうと、かかとを床につけてペダル操作できないモデルが増えていることだ。しかしBMWのモデルでは、どの車種でもそんなことがない。それだけに、セダンのエントリーモデルである3シリーズには、あと一段の座面調整量の上増しを(自分のボディ改革は棚に上げておいて)是非ともお願いしたいところなのである。(文:竹岡圭/Motor Magazine 2005年6月号より)
BMW 320i(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●トランスミッション:6速AT(6速MTも設定
●駆動方式:FR
●車両価格:399万円(2005年当時)
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