6月も下旬になり、ドイツでは自動車ディーラーがCOVID-19感染対策を十分に行いつつ、営業を再開しています。一方で、COVID-19流行以前からの懸念事項として挙げられていた、イギリスのEU脱退の影響も出はじめています。2020年3月31日には、日産の高級車ブランド・インフィニティがヨーロッパでの新車販売からついに撤退(メンテナンスや保証サービスは継続)。自動車業界も「新しい常識」で動く世界に舵を取り始めた段階といえるでしょう。
今回のドイツ現地レポは「ドイツ人は日本車をどのように見ているのか?」についてフォーカスしていきます。インフィニティの撤退については、ドイツ国内でも小さくない反響がありましたし、「日本車は、ドイツ車よりも優れているのか?劣っているのか?」ということについては、現地でも書籍やインターネットで多くの議論が重ねられてきました。今回は、そんな様々な意見の一端を紹介できればと思います。
ドイツにおけるメルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?
評価が高いのは信頼性やハイブリッド技術
よく聞かれる意見は大きく分けてふたつ。「故障が少なく、コストパフォーマンスに優れる」ことと、「ハイブリッドや電気自動車の技術で世界をリードしている」という意見です。
最初の「故障が少なく、コストパフォーマンスに優れる」という意見は、今でもドイツ国内の「日本車擁護派」が声高に主張しています。ドイツ国内では、同じクラスで比較するとドイツ製の国産車がもっとも高価で、日本車やフランス車などはより安価に新車を入手できます。そのなかでも日本車が組み立て品質が高く、故障とは無縁という評価が一般的です。ドイツにおける輸入車シェアにおいて、日本車が9.3パーセント(2018年。ドイツ連邦自動車運輸局調べ)というトップの数字を記録しているのは、こうした信頼性が広く認知されているから、としています。
また「ハイブリッドや電気自動車の技術で世界をリードしている」という意見も、ドイツのインターネット系のメディアではよく見られます。高い燃費性能を引っさげて、メルセデス・ベンツが圧倒的シェアを誇るドイツのタクシー業界に割って入ることに成功したトヨタ・プリウスや、電気自動車ながら高い実用性を実現した日産・リーフの評価は高く、こうした技術の向上は「ドイツの企業も、今まで以上に力を入れる必要がある」という論調が一般的です。
また、モータースポーツのファンたちは、トヨタのWRCやル・マン24時間レース、ホンダのF1などの戦績を高く評価しています。信頼性やハイブリッド技術の向上に余念がないとして、こうした活動を好意的に捉えているようです。
それから、あくまで少数派ではありますが、日本車のエクステリアが「未来的で、ヨーロッパの伝統的なメーカーのデザインとは一線を画す」といった意見もあります。また、マツダ・ロードスターやホンダ・NSX、日産・GT-Rなどを挙げ「日本には革命的なスポーツカーを生み出す土壌がある」、あるいはマツダのロータリーエンジンについて「絶え間なく改良を続け、ついにル・マンを制した素晴らしいエンジン」という意見なども散見されます。
気になる否定的な意見は?
それに対し、日本車に対して否定的な意見ももちろん存在します。代表的な意見は「ドイツのハードな交通事情に適していない」というものと、「日本の高級ブランドの不振」というもののふたつです。
ドイツでは、都市間の一般道の制限速度は100km/h。市街地では50km/h、さらに中心地では30km/hという制限速度になっているため、市街地に入る前に、特にブレーキを酷使します。一方でアウトバーンでの制限速度は100~130km/h、さらには速度無制限区間もありますから、アクセルペダルを踏み込む機会も日本より多いです。端的にいうと、ドイツでの速度調節は日本よりもかなり「激しい」といってよいでしょう。
さらに、伝統的な「石畳の道路」がクルマのサスペンションやボディそのものにかなりの衝撃を与え、ダメージとして蓄積されていきます。日本車のボディ剛性やサスペンション剛性の低さ、ブレーキフィーリングの悪さ、高速巡航性能や直進性の低さなどを指摘するメディアは少なくなく、「日本は高温多湿、慢性的な渋滞、高速道路の巡航速度が低いなどの特殊条件が多い。都市部での使用に特化した日本車と、長距離・高速移動に対応したドイツ車という風に、生まれた国の違いが大きな影響を与えている」という論調が多く見られます。
しかし、日本も別の意味で非常にハードな交通事情である、ということは考慮すべきでしょう。ドイツ車の耐久性・信頼性が過去に比べて向上しているとはいえ、日本の道路事情に完全に対応しているか、と聞かれれば「日本車ほどは対応できていない」というのが現状ではないでしょうか。年々過酷になっていく夏の高温多湿に悲鳴を上げ、トランスミッションやエアコン、その他の電装系にトラブルを抱えてしまう現行ドイツ車の話を聞くこともありますから、現代においてもその国の環境ごとにクルマを対応させていくのはとても難しい課題だといえそうです。
もうひとつの意見である「日本の高級ブランドの不振」については、2020年3月末のインフィニティの撤退や、レクサスの販売台数が思ったより伸びず、ディーラー網やサービス体制が弱い、などが根拠に挙げられています。ドイツの一部メディアでは「これからの時代は、薄利多売だけでは生き残れない。日本車がこのまま高級ブランドを確立できなければ、他国のクルマに少しずつシェアを奪われていく」という厳しい意見も出されていました。
すでに半世紀以上の歴史がある「ドイツのなかの日本車」
とはいえ、ここに挙げた「日本車に対しての見方」は、様々な意見のなかのほんの一握りに過ぎません。公平な意見というのは存在せず、人間の数だけ印象やものの見方があるのは当然のことです。ひとつだけ確かなことは、クルマに関心のあるドイツ人は、常に他国のクルマにも気を配っている、ということです。なかでも、ドイツ国内における輸入車の中で最大のシェアを誇る日本車は、いつもドイツのクルマ好きから注視されています。
ドイツに初めて進出したメーカーは、ホンダでした。当時紹介されたのは小型スポーツカーであるS500、それに続くS800です。1961年のハンブルクから始まったドイツにおける日本車の歴史は、ついに半世紀を超え、ホンダ以外ではトヨタ、レクサス、日産、三菱、マツダ、スバル、スズキが現在も新車販売を続けています。
生まれた国は違えど、より優れたクルマをつくりたいという思いは、どの国でも、どのメーカーでも同じです。ガソリンエンジンから電気モーターへのエネルギー転換期を迎えるなか、クルマは今後どのように変化し、それに伴って生産国ごとの評価もどのように変わっていくのでしょうか。今後もじっくりと見守っていきたいと思います!
[ライター/守屋健]
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みんなのコメント
そういうのをブランド商品に望むこと自体誤り。
自国環境に合った実用性のある車を選べばいいだけです。
そこを割りきらないからなにもかも中途半端でつまらないものができて車に乗る人を減らしてさらに苦戦させるのが日本の内需というもの。