女性限定フォーミュラカーレースが開幕し、大きな転換点を迎えた新生KYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2025年シリーズ第2戦の富士スピードウェイにて、不慮の事故で亡くなった兄に代わり、父の熱心なカート教育に応え続けた金本きれい(ミハラ自動車エムクラフトRT KC-MG01)に、自身のルーツや現在の職業、休日の過ごし方などを聞いた。
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旧車好き女子の目標はニュル24時間。バレー強豪校仕込みの精神とスキルで憧れの人を追う【KYOJOインタビューVol.9/佐々木藍咲】
⎯⎯まずは2024年のKYOJO CUPシリーズと、5月に行われた開幕戦を振り返った感想を教えてください。
金本きれい(以下、金本):昨年はシーズンの途中でマシンが変わったりして、あまり良い成績を残すことができませんでした。 ただ、11月に行われたスーパー耐久シリーズ最終戦と併催のKYOJO CUPエキシビションレースでは優勝することができ、そこから少しずつVITAの感覚を掴むことができるようになりました。今季はKYOJO CUPと並行してFCR-VITAのKYOJOクラスに参戦しているのですが、とても良い調子でレースをすることができています。
KYOJO CUPの開幕戦はFCR-VITAも併催だったため、フォーミュラとVITAでダブルエントリーをしたのですが、良い意味でVITAの影響を受けることなくバトルをすることができました。開幕前の合同テストでは10番手前後のタイムでしたが、いざレースとなると5番手あたりでバトルをすることができたので、第2戦以降はもう少し順位を上げられたらと思っています。
⎯⎯今季からフォーミュラカーが導入されることを聞いた際は、どのようなお気持ちでしたか。
金本:今季は出場できないかもしれないと思いました。VITAは自己資金でやっていたので、金銭面的にも少々厳しいところがあったのですが、関谷(正徳/KYOJO CUPオーガナイザー)さんから今所属しているミハラレーシングさんを紹介していただき、ミハラさんに拾ってもらい、さまざまなサポートのおかげで、今季もKYOJO CUPに出ることができている状態です。
何年か前に体験でフォーミュラカーに乗ったことはありますが、フォーミュラでのレースはKYOJO CUPが初めてです。富士は走り慣れていますし、VITAのようなマニュアル操作はないので思っていたよりも操作感、速度感の問題はありませんでした。しかし、タイム差が思ったより出ず、細かいポイントでタイムが変わる印象を受けたので、そういった点に難しさを感じました。
⎯⎯ご自身のモータスポーツのルーツについて教えてください。最初にレースを始めたきっかけはどのようなものでしたか。
金本:不慮の事故に遭って亡くなった兄の代わりに、レースを始めたのがきっかけです。クルマ好きの父と兄がカートをやっており、幼少期から私もサーキットに連れられていました。兄がとあるレースで優勝したので、お祝いとして家族で海に行ったのですが、そこで事故に遭ってしまいました。私はモータースポーツをやる気はまったくなかったのですが、お父さんに半ば強制的にカートに乗らされ、4歳でカートを始めました。
父はかなりスパルタで、体力をつけるためにカートの練習後にコースを走ったり、腕立てと腹筋とスクワットを100回こなさなければご飯が食べられませんでした。学校の後も仕事終わりの父とグランツーリスモをやったりと、基本的にモータースポーツが最優先事項だったので、学校の友達のように普通の生活を送りたいと思っていた時期もありました。
幼い時はやめたくて泣きながら練習していたので、カート場に行きたくないと思うことが多かったのですが、カートの友達が自分よりも速いと、『なんで速いんやろう』と気になったので、『速くなりたい』という気持ちは昔から持っていた気がします。
⎯⎯嫌々ながらも現在に繋がる競争心は昔からお持ちだったのですね。“嫌”という気持ちが“楽しい”に変わったタイミングはいつだったのでしょうか。
金本:奈良にある『名阪スポーツランド』というカートコースで練習を続けてきたのですが、中学生で初めて全日本ジュニアカート選手権に出場した際に、成績がぐっと伸びました。そこから違う地方のサーキット行くようになり、奈良のカートコースとは違う世界を見て自分の技術が上がったのか、成績がどんどん良くなり勝ちたい気持ちが強くなったあたりから楽しさを感じるようになったと思います。
⎯⎯プロのレーシングドライバーを目指したタイミングはいつでしたか。
金本:KYOJO CUPへの出場が決まったタイミングで、気持ちが切り替わりました。カートでさえ金銭的に余裕があったわけではなかったので、正直に言うと四輪を始めるというビジョンがなく、カートレースでチャンピオンを獲ってモータースポーツのキャリアは終わりになると思っていました。そんななか突然、関谷さんからお誘いを頂き『モータースポーツをこれからも続けていいのか』という葛藤に苛まれながら急遽KYOJO CUPへの出場が決まりました。スポンサーさんや支えてくれる人も年々増え、自分の資金だけでは出場できなかった世界に来たことで『トップを目指して自分のベストを尽くさなければ』という気持ちに自然と変わっていきました。
⎯⎯プロを目指すにあたって金銭面の問題は大きいですよね。
金本:本当に大変です。スポンサーさんも最初はなかなか集まらなかったので、当時はかなりもがいていました。シートが決まるまでは毎年『このタイミングでレースをやめることになるかもしれない』と思っています。
⎯⎯その他に、四輪キャリアのなかで直面した問題点はありましたか。
金本:最初にVITAに乗ったときは、マニュアルの運転免許証を持っていない状態だったので、操作がたじたじで走行どころではありませんでした。サーキットがカート場に比べて広いこともあって、マシンの走らせ方にはかなり悩まされました。カートは2週間に1回程度は練習に行けましたが、四輪は気軽に練習ができないので、その点にも難しさを感じました。
めげずに年数を重ねたことで少しずつ感覚を掴むことができましたが、ある日突然コツを掴んでから自分自身の伸びしろが増えた気がします。なので最初の2年ぐらいはずっと迷走状態でした。
⎯⎯苦しい時期を乗り越えて今季フォーミュラのシートを掴むに至られたのですね。ご自身のハイライトとなったタイミングはいつでしたか。
金本:カートでも成長の伸びしろについて悩んでいた時期があったのですが、そういったなかで全国大会優勝を勝ち獲ることができ、両親がとても喜んでくれたので、SLカートミーティング全国大会での優勝が私のハイライトだと思います。
⎯⎯金本選手は整備士をされていたとお聞きしたのですが、現在も整備士のお仕事をされているのですか。
金本:大阪にいたときにオートバックスのピットで5年ぐらい働いていたのですが、最近は整備士の仕事はあまりやっていません。先日ひさしぶりに仕事に行ったのですが、自動車整備士資格の3級を持っているので、タイヤ交換や簡単な作業であれば一通りできます。今は東京お台場のシティサーキット東京ベイさんからお仕事を頂いて、サーキットのインストラクターをさせて頂いてます。
⎯⎯シティサーキットに行けば金本選手直々にカートの指南を受けることができるということですね。ぜひご指南頂きたいです!
金本:全然教えますよ! 最近は忙しくてあまり行けてないのですが、多い時は週に2、3日ほどサーキットにいます。フリーでお仕事をさせてもらってるので、料金も割とお手頃価格だと思いますよ(笑)。
―フリーランスでお仕事をされているのですね。
金本:レース中心で動くとなると、フリーの方がスケジュールの融通が利くじゃないですか。どうしても週末はレースでお休みを頂かざるを得ないですし、定職に就くと自分がしんどくなってしまいそうなのでフリーでやらせて頂いています。
⎯⎯お仕事のない休日はどのように過ごされているのでしょうか。
金本:以前までは仕事が忙しかったのですが、今年はレースに向けてしっかりと準備をしたい気持ちが強いので、体調を整えるために意識的に休みを作ってジムに行ったり、レースの前の移動日は時間に余裕を持たせられるようにしています。
⎯⎯休日もレースに向けて行動されているのですね。趣味はありますか。
金本:韓国ドラマや新作のアニメを観ることが好きで、特に韓ドラは中学生の頃から観ていたのでそこそこ多くの作品を観てきました。私のおすすめは『太陽の末裔』という少し古い作品です。感動作なのですが話数が多いので、ドラマのおかげで韓国語の日常会話が少しだけ理解できるようになりました(笑)。あと、最近は食品系のガチャのミニチュアを集めることにハマっていて、集めた大量のミニチュアを玄関に飾っています。
他にはカラオケも好きです。私は2年前に大阪から東京に引っ越したのですが、今住んでいる場所が永井歩夢選手の家の近所なので、連絡を取って一緒にカラオケに行ったり、永井選手は飲まないのですがお酒を飲むのに付き合ってもらったりしています。
⎯⎯永井選手も仰っていましたが、おふたりは本当に仲が良いのですね。ちなみにカラオケでは何を歌うのですか。
金本:いろいろなジャンルをなんでも歌いますが、基本はJ-POP系で女性歌手の歌が多いです。好きなアーティストは今のところはいません。永井選手は浜崎あゆみさんの曲などを歌っています。あのキャラでいつもイケイケな歌を歌うので、ギャップがあります(笑)。
お互いに体を動かすことが好きなのでスキーやスノボに行ったり、ラウンドワンに遊びに行ったりもします。ただ、お互いに負けず嫌いでそこそこ運動神経がいいので、ボウリングでも何でも基本的にバトルになります。毎度いい勝負になって、体力が尽きるまで終わらないんです(笑)。
⎯⎯今後のレースで永井選手と順位を争う場面が出てきたら、手に汗握るバトルが見られるかもしれませんね(笑)。
金本:今まではそういったシーンがありませんでしたが、きっとバチバチすると思います(笑)。永井選手は仲が良いのもありますが、KYOJOのデビューが同じ年だったので、どうしても若干のライバル意識を持っててしまいがちです。もちろん他の選手たちにも負けたくないですし、自分よりも年齢が下の子たちや、カート上がりの子にも負けたくない気持ちは強いです。
⎯⎯同じドライバーとして、理想としているドライバー、憧れのドライバーがいましたら教えてください。
金本:インディカーとNASCARに出場されていたダニカ・パトリック選手に憧れています。父がテレビで観ていた影響を受けてインディカーやNASCARをずっと観てきたのですが、男性社会で女性がレースに出場したり優勝することはすごいことだと思いますし、引退後もストイックにトレーニングをされているので、とても尊敬しています。
⎯⎯ということは、金本選手の最終目標はアメリカのレースに出場することになるのでしょうか。
金本:はい。いつか出てみたいです。海外のレースは日本と比べて、ドライバーの気持ちが前面に出ていることが多いと思うのですが、そういった自由な部分に面白さを感じますし、アメリカでの知名度が高く観客動員数が圧倒的に多いので、注目度の高い場所でレースをしたい気持ちがあります。
ただ、インディカーとNASCARは日本人がレースに出るためのルートがあまりなく、何年もかけて信頼を築き、現地チームのファミリーの一員として認められなければ乗せてもらえない環境なので、現実的ではないと思うこともあります。
⎯⎯当面の目標はKYOJO CUPでの優勝になると思われますが 、その先のキャリアプランはどのようにお考えですか。
金本:女性のフォーミュラのトップカテゴリーとして有名になったKYOJO CUPで活躍していきたい気持ちもありますが、国内で人気の高いスーパーGTのGT500クラスや、全日本スーパーフォーミュラ選手権を目標に頑張りたいと考えています。
⎯⎯最後に、今シーズンの意気込みを教えてください。
金本:開幕戦は思っていたよりも良い順位でフィニッシュできましたが、バトルの場面ではうまくいかなかったことが多く、運よく順位が上がって獲得できた5位だったので、自分から順位を上げていけるような展開を考えてレースで実践し、しっかり振り返りを行っていきたいです。チーム監督(木下隆之)からは表彰台に乗ることがマストだと言われ、まずはトップ3入りが目標になるので、表彰台を獲得できるように自分を仕上げていきたいと思います。
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第2戦のスプリントレースは11位、ファイナルレースは15位という結果となった金本だったが、感覚を掴んだと語っていたFCR-VITAの開幕戦ではクラス2位、第2戦では総合2位を獲得する好走をみせていた。KYOJO CUP初出場から5年を迎え、着実にステップアップする金本はフォーミュラでも流れを掴み、初優勝を手にすることができるだろうか。
⚫︎Profile 金本きれい(かねもと・きれい)
2000年6月9日生まれ、大阪府出身。幼少期からカートに打ち込み、2014年に全日本ジュニアカート選手権、SLカートミーティング全国大会に参戦を開始。2016年のSLカートミーティング全国大会YAMAHAレディスクラスでは優勝を果たした。2025年シーズンで5年目となるKYOJO CUPはMIHARA RACING TEAMから参戦し、第2終了時点での今季のベストリザルトは開幕戦のファイナルレースで獲得した5位となっている。
https://twitter.com/KileiLeiji11/status/1952927497278066906
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おお!
うちの会社の同じ苗字の金本さんも「私が韓国語喋れるのは日本で韓国ドラマが放映されるようになったから。本当は韓国ドラマが始まる前から喋れたでしょとか言わないで」って言ってましたよ!