発売すれば即完売! スバルのハイパフォーマンス車両を手掛ける「STI」コンプリートカーの最新作が、今月14日、米国デトロイトショーで発表された「S209」だ。日本仕様のWRX STIとは異なる2.5L水平対向エンジンは、歴代最高となる約345馬力を発揮する相変わらずのスパルタンぶりで大いに注目を集めている。
残念ながらS209の日本発売はない。……しかし、ただでさえ高性能な量産仕様に専用チューンを施し、発売する度に即完売した数々のSTIコンプリートカーが、これまでに登場してきた。
「超痛快な走りなら最新作にも引けを取らない!」というモデルから、“変化球”まで含めて、本稿ではスバルに造詣が深い筆者が、実際に乗って特に印象に残った5台の歴代STIコンプリートカーを紹介したい。
文:片岡英明
写真:編集部、SUBARU
S204/2005年発売
今につながるSTIのSシリーズの端緒となった作品が「S203」で、2代目のWRX STIをベースにしたコンプリートカーだった。
EJ20型水平対向4気筒DOHCターボエンジンのクランクシャフトやターボなどの可動パーツは専用設計で、最高出力は320psだ。
エクステリアはドライカーボン製のアンダースカートや可変式のウイングスポイラー、チタン製マフラーが目を引いた。STI初のレカロ製カーボンバケットシートも注目の装備だ。EJ20型エンジンは実用域のトルクが太くなり、ハンドリングもコントロール性も向上するなど、新しい次元に踏み込んでいる。走りの質感が高められ、疲労もグッと少なくなった。
が、個人的には、その発展型として2005年に限定発売された「S204」が大人っぽくて気に入っている。パンチがあり、痛快な走りに加え、質感も高められたからロングドライブでも快適だ。
S203から採用されたパフォーマンスダンパーの効果は衝撃だった。これを受け継いだS204はターンイン後の舵の正確性が向上し、レーンチェンジのときの揺り戻しも上手に封じている。
ハンドリングは一段と素直で、スタビリティ能力と直進性も向上していた。乗り心地がよくなったことも特筆したい。EJ20型エンジンはトルクバンドが広がり、扱いやすくなっているなど、長く付き合える。
R205/2010年発売
S204より公道での痛快な走りにこだわった「R205」も魅力的なコンプリートカーだ。
“R”はロードスポーツの頭文字を取ったもので、ニュルブルクリンク24時間レースで培ってきたノウハウを注ぎ込んでいる。ボディとサスペンションを徹底的に補強し、剛性感たっぷりの走りを手に入れた。自慢のフレキシブルタワーバーに加え、リアのブッシュ部をピロボール化している。
また、フレキシブルサポートやフレキシブル・ドロースティフナーも採用し、切れ味鋭い走りを身につけた。
R205はオーバーハングが短いこともあり、ハンドリング性能は素晴らしい。サスペンションがしなやかに動き、優れた接地フィールを身につけている。それまでのS200シリーズより操っている感が薄く感じられるほどハンドリングは正確だ。
ただし、3代目インプレッサはインテリアの質感が今一歩にとどまる。これが惜しいところだ。
S208/2017年発売
現行のWRX STIをベースに誕生した「S208」は、トータル性能の高いコンプリートカーである。SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)ではないが、プラットフォームは剛性が高く、サスペンションの動きもいいから走りは気持ちいい。ハンドリング精度の高さ、意のままの走りはSシリーズの中で最高レベルにある。ボディもサスペンションもよく仕上がっているから乗り手の技量に応じて運転を楽しむことが可能だ。
懐が深く、快適性も高いから持てる実力を引き出しやすい。他のS200シリーズと違ってスパルタンすぎないのが魅力だ。ビギナーにも運転しやすいし、足の動きがよく、快適だからロングドライブも無理なくこなす。
とはいえ、意のままの気持ちいい走りは健在である。クイックなステアリングギアによって意のままの走りを楽しむことが可能だ。ホディは大きくなっているが、それを意識させない軽やかな身のこなしである。フロントにブレンボの6ポットブレーキをおごっているから、止まる性能も文句なしだ。
パワフルなEJ20型DOHCターボは相変わらず刺激的だ。7000回転を超えてもパンチがあり、よどみなく回る。高回転の気持ちよさは格別で、痛快な加速を満喫できる。
気になるのは車重が1785kgもあることだ。2代目をベースにした軽快感、ヒラリとした動きはは望めないが、安心感がある。乗り心地もよくなっているからパッセンジャーも文句を言わないだろう。荒れた路面を駆け抜けても凹凸を上手に受け流す。
レガシィ S402/2008年発売
STIのSシリーズは、インプレッサをベースにしたものが多い。が、例外がある。それがレガシィをベースに開発された「S401」と「S402」だ。
なかでも大人のコンプリートカーと言えるのが、熟成の域に達した最終型のBL/BP型レガシィにファインチューニングを施したS402である。2008年にデビューし、アッと言う間に完売となった。
弱点を洗い流した最終型に手を入れているから、完成度は驚くほど高い。しかもセダンのB4だけでなく、マルチに使えるツーリングワゴンのS402も用意されている。これがいいところだ。
究極のグランドツーリングカーを目指して開発され、402台が限定発売されたS402は排気量2.5LのEJ25型水平対向4気筒DOHCターボエンジンを積む。これに6速MTを組み合わせた。
エクステリアの変更は控えめで、“羊の皮を被った狼”だった。グリルはわずかにデザインが変わり、左右のフェンダーも20mmずつ広げられている。ドライカーボン製のフロントアンダースポイラーとトランクスポイラーも通好みだ。BBS製のアルミホイールも大人っぽい感覚でいい。本革シートや本革のドアトリムなど、内装も上質ムードだ。
専用のツインスクロールターボと専用のECU、専用の吸排気システムを採用し、最高出力と最大トルクも引き上げられている。高回転の伸びとパンチ力はEJ20型ターボに及ばないが、500ccの排気量アップの効果で実用域のトルクは豊かだし、クルージング時は静粛性も高い。気持ちよく加速し、剛性感たっぷりの6速MTも子機もよくつながる。飛ばすだけでなく優雅な走りも似合う。
シャシーのしっかり感やサスペンションの動きもよくなっている。ダンパーは名門ビルシュタイン製で、スプリングも専用品だ。リアサスリンクもピロボールブッシュにグレードアップした。狙ったラインにスッと入り、コントロールできる領域も驚くほど広い。限界を超えたときのリカバリーはしやすく、フロント6ポットのベンチレーテッドディスクブレーキも絶妙な効き加減だ。
5代目レガシィの登場が間近に迫っていたが、出た後でもまったく色褪せなかっただけでなく、逆に輝いて見えた。後世に残る名車である。
インプレッサ 22B STi Version/1998年発売
選ばないとSTIマニアが納得しないだろうし、実際に五指に入る秀作だから1998年3月に限定発売された「22B STIバージョン」を選んだ。これは3年連続WRCチャンピオンになったのを記念して発売された伝説のWRカー・レプリカである。ブルーマイカのクーペボディは全幅を広げるとともにトレッドも拡大している。
エンジンはボアアップして排気量を2212ccとしたEJ22改型水平対向4気筒DOHCターボを積む。今となっては280ps/37.0kgmのスペックは平凡だが、精緻なエンジンは身震いするほど気持ちいい。
5速のマニュアルトランスミッションやプロペラシャフトも強化され、意のままの走りを楽しめた。限定400台の発売だったが、2日間で完売となっている。
◆ ◆ ◆
最新モデルの「S209」は米国専売となるが、次なるSTIのコンプリートカーはあるのか? 答えは「ある」。STI関係者によれば次のコンプリートカー開発を検討しているという。
車名が「S210」になるのか、あるいは往年の“22B”を連想させる「20B-STIバージョン」になるのかは未確定ながら、2020~2021年にかけてEJ20型エンジンを積んだ現行型WRX STIベースよしては最後のSTIコンプリートカーが登場する予定。
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