自動運転技術の最先端の話題をお届けする本連載、第20回となる今回は、今年(2021年)3月にホンダから100台限定で発売された、世界初の公道使用可能な「自動化運転技術レベル3」を搭載したレジェンドの長距離試乗レポート。
じっくり乗って、自動化運転技術の「いま」の、足りない部分と優れている部分がよくわかったそう!
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文/西村直人
写真/西村直人、ベストカー編集部、TOYOTA
シリーズ【自律自動運転の未来】で自動運転技術の「いま」を知る
■いまはまだ稀少な「レベル3」だけど…
本連載では発売前から数回にわたり紹介してきたHonda SENSING Eliteを搭載した「レジェンド」。世界で初めて認可された自動化レベル3技術がもたらす自動運転技術により自動車史に名を残す一台となりました。
100台限定の法人リース販売でしたが、執筆時点(7月13日)ではかろうじて契約可能とのこと。
もっとも、車両価格は税込み1,100万円。3年間リース契約で、なおかつ再リース契約ができないことから、単純計算で30万円/月のリース料と高額に……。おいそれと手は出せませんが、どんなに高額であっても歴史的な一台であることに変わりはなく、その価値は計り知れません。
2021年3月に世界初の公道使用可能なレベル3技術搭載車として限定販売が開始されたホンダレジェンド。今後の技術発展や普及におおいに期待が持たれたが、しかしホンダの狭山工場閉鎖にともないレジェンド自体が2021年いっぱいで生産終了となる…
でもこの先、本当にレベル3技術を搭載した車は増えるのでしょうか?
残念ながらHonda SENSING Eliteを搭載したレジェンドは100台限定、さらにレジェンドそのものの生産も2021年いっぱいで終了です。
とはいえ望みはあります。トヨタ/レクサスです。この秋までには、「MIRAI」と「LS500h」が搭載する「Advanced Drive」にハード&ソフトウェアアップデートが施され、レベル3にバージョンアップすることが公表されています。
すでにAdvanced Drive搭載車に乗られている2車のユーザーには無償アップデートが約束されているので、2021年には一定程度、レベル3搭載車が増えそうです。
トヨタから発表された「Advanced Drive」を搭載するレクサスLSとMIRAI。現時点ではまだレベル2の段階だが、2021年秋にはバージョンアップしてレベル3になる
メルセデス・ベンツのSクラスもレベル3を見越したHMIがすでに組み込まれていて、本国ドイツ(あるいはEU)での認可がおりればレベル3としてデビューするはずです。
その際には、限定エリア(例/センサーが設置された指定駐車場)でのバレーパーキングを目的としたレベル4も実装される可能性が高まりました。
■もし「レベル3」車両の近くを走ることになったら
一方、レベル3搭載車が増えるとなれば、我々ドライバーはどこに注意を払うべきでしょうか?
筆者はシステム稼働/停止に関わらず、レベル3搭載車には自車の前後に「条件付自動運転車」であることを知らせるHMI(Human Machine Interface/ ヒューマンマシンインターフェース/人間と機械がやり取りするための技術、そのための装置)が不可欠だと考えています。
その点、レジェンドのHonda SENSING Elite搭載車では車体の前後バンパーに青色LEDが配置され、エンジン始動時は点灯しているため見分けがつきます。青色LEDは法規に定められていませんが、自車周囲へのアピールとなるので重要です。
さらに車体後部には「条件付自動運転車」を示すステッカー(国の指定デザインで装着義務あり)が貼られています。
「レベル3」技術搭載車であることを示すステッカー。レジェンドの場合はリアのナンバープレートすぐ横に誇らしげに貼られていた(個人的にはもうちょっと目立って分かりやすくてもいい気が…)
ではレベル3搭載車の見分けが付いたとして、それを認識したドライバーは何に注意を払うべきでしょうか?
これは極めて簡単です。レベル3搭載車に対して、緊急時を除いて急な割り込みや急ブレーキをしないことです。当たり前のように思えますが、じつはとても大切です。
レベル3稼働時はある意味、人(ドライバー)以上にシステムはセンシティブな状態です。複数のセンサーを使い自車周囲360度の情報を融合させているわけですが、レベル3稼働時は前方の安全確認に対してシステム(一義的には自動車メーカー)が責任を負うことになっているからです。
センサーをフル稼働させながら、自車との接触可能性が高まる危険因子(急ブレーキや急な割り込み)を発見した場合には、その原因が迫り来るクルマ側にあったとしても自車がブレーキ制御で避けるよりほかには、レベル3搭載車は回避の手立てがありません。
人が運転している場合であれば、ブレーキだけでなくステアリング操作で回避スペースへ進路を変えつつ、ホーンを使って自車の存在をアピールできます。
しかし、現時点でのレベル3技術の使用は同一車線上に限定されているため、車線をまたいだステアリング操作での回避はシステムには許されていません。よって、唯一許された回避策がブレーキなのです。
こうした危険が迫り来る状態では、当然ながら車内でTOR(運転操作要求)が発せられているものの、過去の本連載で詳細をレポートしているように、TORに従ってドライバーが運転の再開に至るまでにはタイムラグが発生します。
自動運転技術搭載車が公道に増えると、「そうした技術がまったく搭載されていない車両との協調」が普及のカギを握ることになる。「自動運転技術」とは、非自動運転車との連携して、クルマ社会全体で進んでいくわけだ
結局のところ、レベル3を支えるセンサーの精度は抜群に高く、電源構成にしても二重化による冗長性は担保されていますが、通常の運転状態ではあり得ない危険な割り込みや急ブレーキに対応するには、現法制度における車両制御上の限界があります。
腫れ物に触るような過剰な対応は必要ありませんが、レベル3搭載車に遭遇したら“急”の付く運転操作は避けましょう。
■「レベル3」が搭載されていても「レベル2」で走行
今回筆者は、そのレベル3技術を搭載したレジェンドに改めて試乗しました。Honda SENSING Eliteは普段使いでどんな一面を見せるのでしょうか?
車載のカーナビで目的地である東北方面を設定し、早速、自動車専用道路である首都高速道路を走行します。ここでは復習の意味を兼ねACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKAS(車線維持支援システム)を稼働させます。
従来のHonda SENSINGでは、ACCとLKASは独立した機能でしたが、レベル3のHonda SENSING Eliteでは連動。ステアリング右側スイッチ群の右上にあるメインスイッチを押して、上下スイッチでACC速度を設定すれば、同時期にLKASも起動します。
ほどなくして車線をしっかりと検知してACCだけの状態から、ACCとLKASによる自動化レベル2ハンズオン(以下、レベル2/B1。メーター表示は白とグリーン主体)状態となりました。
取材時は雨天、しかも首都高速は朝の渋滞がまだ完全に解消されておらず交通量は多めです。
首都高のような、狭くて曲がりくねった道でも、レジェンドは(定められた条件に合致すれば)「ハンズフリー」が可能となる
そんな交通状況でも、ものの数十秒で一段上の運転支援技術である、自動化レベル2ハンズオフ(以下、レベル2/B2。メーター表示は白とブルー主体)状態となり、ドライバー責任のもと、ステアリングから手を離したままの走行環境が提供されます。
筆者はこれまで数多くの運転支援車で計7万km以上走行し、各車のレベル2のB1とB2を試してきましたが、未だに首都高速道路でのレベル2/B2使用には緊張感が伴います。
とくに今回のように天候が悪くて交通量が多めで、右に左にスパイラルバンクが続くような場面ではまったく気が抜けません。
運転支援技術の使用には「ドライバー責任が稼働の条件」と国際的な取り決めがありますが、それ以前に自車周囲の状況がめまぐるしく変化する中でのレベル2/B2はやはり独特な運転環境です。
■「レベル2」作動中にも「段階」がある?
東北自動車道の本線上では、3車線ある本線の左側である第一通行帯を走行し、ここで改めてACCとLKASをセットします。
Honda SENSING Eliteでは、料金上の手前でシステムによる運転支援がオフになる設定です。ただ、オフになっても車載のミリ波レーダー、LiDAR、光学式カメラなど、運転支援技術を支えるセンサー類はシステムオンの状態と同じく休みなくフル稼働しています。
さらに、準天頂衛星システム「みちびき」の情報を元にした高精度地図との照合による正確な自車位置把握も、走行中はずっと続いています。
よって、料金所を通過後に本線上で改めてACCとLKASをセットした場合でも、レベル2/B1からレベル2/B2へ遷移にはそれほど時間がかかりません。
じつはここで新たな発見がありました。レベル2/B1ではステアリングを握る必要がありますが、その状態で1~2秒程度、ステアリングを握る力を意図的に弱めてみるとレベル2/B2へと自動的に遷移することがかなりの回数ありました。
もっとも、これには自車周囲の交通状況が安定している、システムが正しく稼働している、ドライバーがちゃんと運転していることがドライバーモニターカメラで確認できるなど複合的な条件が整っている必要がありますが、明らかに人(ドライバー)の意図をシステム(Honda SENSING Elite)が酌み取っている、そう思えたのです。
ロングドライブで「レベル3」の特徴を実感。システムは「自動化レベル」を段階的に行き来をするが、それはある程度ドライバー側でもコントロール可能だとのこと
具体的にはレベル2/B2のハンズオフができる状態であっても、レベル2/B1のハンズオン走行をドライバーが積極的に行っている(システムのパラメーターで判断された)場合は、B2への遷移を意図的に遅らせている、そんな運転環境が提供されました。
繰り返しますが、レベル2/B1ではハンズオンが基本です。しかし、B1状態でステアリングを握る手の力を緩めた次の瞬間にB2に遷移する状況は、今回の走行(高速道路など稼働条件を満たした道路だけでも500km)の中で、少なくとも20回以上、体験しています。
より高度な運転支援が行える環境にあっても、状況に応じて人の操作を優先(この場合はレベル2/B1状態を継続)する……。レベル遷移にまつわるトリガーの多くが自車周囲の車両であることも、頭では理解していたつもりですが、たくさん運転席で体験してみるとやはり新鮮でした。
■手綱を緩めると馬は自分で考えるように
東北自動車道では渋滞路にも遭遇し、平均車速20km/h程度のノロノロ渋滞が30分以上続く場面も数回体験できました。
まさにレベル3が稼働する速度条件(30km/h以下で稼働、50km/hで解除)とも合致していたのでレベル3の真骨頂であるアイズフリーを堪能しつつ、TORの発報や、レベル3とレベル2/B1と行き来する運転環境を味わいました。
やはり技術は体感がすべて。渋滞路でたっぷりレベル3とお付き合いしてみると不思議なもので、システムの頼れる部分と、自分がしっかりすべき部分がより明確になりました。
レジェンドのHonda SENSING Elite搭載車にはフロントバンパーの下部(左右)に、ブルーのLEDライトが付く。未来的で、こういうギミックがもっと分かりやすく付いてほしいとも思う
さらに、レベル3の境界線はある一つの条件変化で切り替わる「スイッチング的なもの」ではなく、あらゆるパラメーター変化から閾値を超えそうになると状況に応じて切り替わるタイミングをずらす「グラデーション的なもの」であったからです。
やはりレベル3稼働時でも、前述したレベル2/B1からB2への遷移をコントロールできたように、ドライバーの意図的なステアリング操作やアクセル操作でレベル2/B1への運転環境変化をドライバー自身で作り出すことが可能です。
そして、再びシステムの支援を受けたいとドライバーが運転操作をシステムに委ねる(例/自らのステアリング操作力を弱める)と、稼働条件さえ整っていればシステムは自律的に上位の機能、すなわちレベル3を稼働させます。
筆者は機会があれば乗馬教室に通っていますが、馬は手綱をちょっと緩めると馬が自身で考え自律的に安全に行動します。ドライバーとHonda SENSING Eliteの関係は、人と馬の関係がそうであるように「人中心」なんだということがよくわかりました。
もっとも、こうしたシステムの擬人化こそ(今回は馬に例えましたが)、システムに対する過信と紙一重の環境です。よって自動運転技術や高度な運転支援技術を使用するドライバーには、自制心にも似た節度が必要なのだなと痛感しました。
■運転するのは人か、機械か、の2択ではない
今回、Honda SENSING Eliteを搭載したレジェンドと長距離を共にして抱いたレベル3に見るべきところは、人/機械という二者択一の運転環境ではなく、人と機械の協調運転の世界でした。
そしてこの先、見方を変えれば曖昧とも受け取れるこうした運転環境の社会的受容性を市場ではかり、結果、「やはり万人受けは難しいよね」となるかもしれません。
言い換えれば、「レベル2だ」、「レベル3だ」という我々の認識は法的な部分とそれにまつわる車両制御、そして担保すべき安全性にあるわけです。よってレベルに関わらずシステムを構成する要素技術はどんな制御であっても崇高なものであることに変わりはありません。
要素技術は組み合わせたり昇華させたりすることで、また違った運転支援や自動運転環境を提供してくれます。
その意味で「万人受けは難しい」ともなれば、大型トラックでの自動運転開発環境がそうであるように、レベル2からレベル4へとレベル3をスキップする、そんな発展的解消なる選択肢もあって良いと思いました。
一人でも多くのドライバーにレベル3の運転環境を味わっていただきたい……。これが運転支援技術や自動運転技術を見つめてきた筆者の願いです。
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