フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」に、高性能バージョンである「GTI」が追加された。試乗したサトータケシの印象とは?
GTIのハイテク化
マツダの“革新技術”を多くの人へ──新型CX-30 X スマートエディション試乗記
第1世代となる最新のフォルクスワーゲン・ゴルフは、デジタル化がコンセプトのひとつ。いよいよ日本に導入されたスポーティモデルのゴルフGTIも同様で、たとえばエアコンの操作パネルが廃止され、タッチスクリーンで空調をコントロールするようになった。
インテリアからスイッチやダイヤルが姿を消し、運転席と助手席のあいだに屹立していたシフトセレクターがスイッチのようにコンパクトになったことから、室内の眺めは植木職人が剪定をした後の庭のようにすっきりとした。
赤く明滅するエンジン始動ボタンをプッシュして、2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンに火を入れる。
走り出す前に、昔のクルマと違う儀式をおこなう。メーターパネルを、好みのレイアウトにカスタマイズするのだ。スマートフォンのアプリを使いやすいように並び替えるのとおなじ要領だ。
カーナビの地図をメーターパネル内に映し出してみたり、と、いろいろ試した結果、中央にタコメーターをドーンと配置するのがスポーティなGTIにふさわしいという結論に達する。
速度はタコメーターの中心にデジタルで表示され、タコメーターの両脇の小窓には加速Gや、現在のブースト圧、エンジン出力などの情報を呼び出せる。
絶妙な乗り味
走り出して真っ先に感じるのは、こんなに乗り心地がいいのか! という驚きだ。乗り心地がいいといってもソフトなわけではなく、ビシッと引き締まっていて、ボディの上下動は抑えられている。
けれども、路面の不整を乗り越えたときのショックは、上手に丸められているのだ。引き締まっているけれど丸い、という絶妙なセッティングになっている。
上手にチューニングされていることは間違いないけれど、もうひとつ、試乗車にオプション装備されていた、アダプティブシャシーコントロール“DCC”の効果も大きいと感じる。
DCCとは4本のサスペンションの減衰力を1秒間に200回調整する電子制御式サスペンションで、これが“引き締める”と“丸める”を両立させている。またDCCを備えるモデルは、ドライブモードを切り替えることによって、足まわりのセッティングを変更することもできる。
ゴルフGTIにはノーマル仕様より10mm車高が低くなる専用のスポーツサスペンションが与えられ、しかも試乗車はオプションの235/35R19サイズという薄くて太いタイヤを履いている(標準は225/40R18)。
それなのに、これだけ上等な乗り心地になっているあたりは、立派というほかない。
4枚ドアのライトウェイトスポーツカー
2.0リッターの直列4気筒ガソリンターボ・エンジンの最高出力は、従来型の230psから245psに引き上げられた。
とはいえ、そうしたスペックの差は、実際にアクセルペダルを操作したときの満足感に比べれば些細なことであると感じる。
このエンジンは、タイムを測っても速いだろうけれど、それよりもそれぞれの回転域で気持ちのいいフィーリングを伝えてくれることがうれしい。
まず低回転域では、豊かなトルクでドライバーを気持ちよくさせてくれる。発進加速から思い通りに前に出るから、信号でのストップ&ゴーがストレスにならない。ゆったりとした心持ちで市街地を走ることができる。
3000rpmを超えると、伸びやかな加速感で気持ちよくしてくれる。アイドル回転付近では“ボーボー”と、重低音が強調された排気音なのに、この回転域から抜けのよい健康的な音に切り替わるのも気分がいい。
そして5500rpm以上の高回転域では、爆発的な瞬発力とレーシィな音でドライバーを圧倒する。こうして、それぞれの回転域で豊かな表情を見せるから、エンジン回転を上げたり、下げたり、アクセルペダルを操作する甲斐がある。
カチッ、カチッと素早くギアを切り替えてくれる一方で、ショックをほとんど感じさせないデュアルクラッチ式の7速DSGもいい仕事をしている。
ワインディングロードに入ってスポーツモードを選んだときのこのクルマは、スポーツカー顔負けというよりも、ライトウェイトスポーツカーそのものだと感じる。こぶし1個分ほどハンドルを切った瞬間に、スパッと向きを変えるのだ。アンダーステアが出やすい、つまりコーナリング時に外側にふくらみやすいというFWD(前輪駆動)車の悪癖は、少なくとも筆者レベルのコーナリングスピードでは欠片も見当たらない。
前出のDCCのほか、電子制御式のディファレンシャル、可変式のステアリングギアボックスなどのハイテクが、一致団結してアンダーステアを消しているはずだ。
けれども、ドライバーが感じるのはすばらしくよく曲がるという快感だけで、そうしたハイテクに“乗せられている”という感覚はない。
ブレーキも完璧だ。ただ止まるというだけでなく、ブレーキペダルを踏む力を加減すると、それがきめ細かく制動力に反映される。速いとか遅いとかも大事だけれど、それよりもブレーキ、エンジン、ハンドリングを操作する入力に対して、正確な反応を打ち返してくれるのがゴルフGTIの最大の魅力だ。
そして、荷室や後席の広さといった実用性は、ノーマルのゴルフとまったく変わらない。
ゴルフGTIは、4枚ドアのライトウェイトスポーツカーなのだ。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)
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