現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > トヨタ「2000GT」の功罪。短命だった理由とは?【THE CAR】

ここから本文です

トヨタ「2000GT」の功罪。短命だった理由とは?【THE CAR】

掲載 更新 17
トヨタ「2000GT」の功罪。短命だった理由とは?【THE CAR】

■世界に挑んだメイド・イン・ジャパン

 スーパーカー世代の筆者にとって、トヨタ「2000GT」は今も昔も変わらず、国産車のなかで唯一無比のスーパーカーであり続けている。たとえ、それが、私的スーパーカーの定義=マルチシリンダー×ミドシップ×2シーターの定義から外れていようとも。

トヨタが1000馬力、価格も1億円級のモンスターマシンを市販化へ

 ブームの頃から「トヨ2」は別格だった。かの漫画の中ではヒール役の愛車だったが、欧米のスポーツカーに対抗できるという意味で、そうなるにふさわしい日本車だった。トヨ2には、他の国産スポーツカーにはない、湧き出るオーラがあったのだ。

 トヨ2が放つオーラの源が、企画から市販までに費やされた開発陣の、熱情と献身と精魂にあったことは、論をまたない。モノ造りとはそういうものである。話の展開上、トヨ2誕生までの流れを簡単に記しておこう。

 話の端緒はともかくも、トヨタ自動車とヤマハ発動機という4&2輪のトップメーカー連合によって共同開発され世に送り出された、という言い方が、概略として間違いがないはずだ。生産そのものはヤマハ発動機である。

 昭和39年10月に企画がスタート。翌年早々にはトヨタ側の開発主力メンバーがヤマハへ出向している。受け皿としてヤマハに自動車部が発足したのは40年1月のこと。GPマシン王者メーカーとして世界最高峰にあったヤマハは、創立以来、ずっと4輪参入の機会を窺ってきた。

 あの当時、トヨタにはまだなかった、高い技術力がそこに参集していたであろうことは想像に難くない。

 トヨタは、最高のスポーツカーを作るため、もちろんそれに期待した。

 たとえばDOHCヘッドや鋳造技術、FRP生産、内装用ウッドアマテリアルといった、ヤマハ周辺のテクノロジーが、結集されることになった。ヤマハの周辺技術を効果的に利用できたことが、短期間による開発を可能にしたと言っていい。

 昭和40年8月。早くも1号車が完成。同年10月には東京モーターショーデビューをはたす。市販への期待が高まり、開発にも拍車がかかった。

 テストコースでの試験ではなく、実戦におけるテストと改良を受け、その間、FIA公認記録会や耐久レース等でも大活躍する。

 そして昭和42年5月、遂に発売開始。238万円という、今の感覚に喩えるならば2000万円級の超高級国産スポーツカー。ほぼ同時に公開された映画「007は二度死ぬ」にも登場した(トヨタのマーケティング活動の一環)こともあり、国産初のスーパースポーツが世界を大いに沸かせた。

 それから、3年半後の昭和45年10月27日。磐田工場において最後の車両に最終検査合格印が捺印され、生産が終わった。短命に終わったのは、広告塔の役割を果たしたという判断に加えて、ビジネス上の問題(赤字覚悟のクルマであった)、とりまく環境の悪化(石油危機など)、といった要因が重なったからだった。

 そんな歴史を反芻しながら、今、現車を目の前にして思うことは、トヨタ2000GTというクルマの功罪について、である。

 「功」については言わずもがなだ。日本車史上に燦然と輝ける星であり、金字塔であるという事実だ。

■トヨタ2000GTの「罪」とは?

 日本車の最高峰。今や伝説のクルマとなった。近年の”相場急騰”は、もちろん作為的な面もあったのだろうが、クルマそのものの魅力や価値に、他の国産車にはない”何か”を世界中のエンスージアストが反応したからにほかならない。

 それが、モノの価値となってストレートに現れるのが、オークション相場というものだ。

 翻って、「罪」とは何だろうか。それは、今や世界一となった自動車メーカーから、本当のスポーツカーを造るという機会を長らく失わせてしまったということである。

 トヨタ2000GTは彗星の如く現れ、疾風の如く去った。その意味するところは、ビジネスとしてのスポーツカーが、トヨタの経営という文脈からは大きく外れてしまったということ。事実、トヨ2の歴史をトヨタが大切にし始めるのは、つい最近、21世紀に入ってからだったし、それまでは、社内的にタブーな存在だったという。

 極論をいうと、トヨタという人も金も、即ち力のある会社が、クルマ造りに没頭するという機会すら、しばらくの間、奪ったのではなかったか。

 あれだけのメーカーでありながら、トヨ2以降で心血を注いだと自他ともに認めうるクルマといえば、初代レクサスLS(セルシオ)とLFA、そして初代プリウスにミライ程度のものだろう。他に、目立って凄いクルマの出現はなかった。

 要するに、トヨタ2000GTは偉大すぎたのかも知れない。そして、その偉大なモデルを、自らの手を油まみれにして作ったのではなかったという事実が、また、問題を複雑にした。

 間近に寄ると、抱え込めてしまうんじゃないか、と思うくらいに小さい。このサイズでこのスタイリングが成立しているということが、トヨ2最大の魅力であることを改めて思い知る。

 小さなドアを明け、ほとんど地面に座るかのように運転席へと体を滑り込ませた。いつみても素晴らしい景色だ。美しいダッシュパネルにメーターがすっきりと並んでいる。華奢なステアリングホイールに時代を感じる。

 ひと捻りで目覚めた3M型DOHCエンジンからは、3連の三国工業製ソレックス型ツインキャブの息づかいとともに、いかにも機械らしいメカニズムの動作が、心地よい振動となってドライバーに押し寄せる。

 拍子抜けするほどあっさりと走り出した。車重に見合ったトルクというべきだろうか、とても扱いやすい。

 ドライビングフィールは、1950~1960年代に典型的な、FRグランツーリズモそのものだ。シャシーに1本の骨太な筋の存在を感じるのがトヨ2の特徴で、例のバックボーンフレーム構造が即座に思い出される。

 クルージングが気持ちいい。ハイトのあるタイヤと安心感あるシャシーのおかげで、乗り心地もよく快適に巡航する。コーナーではハンドルを抱え込むようにして旋回すると、素直にノーズの向きが変わって、気分がいい。

 決して、速さを期待してはいけない。けれども自ら操っているという感覚が何ともスポーティ。絶対的な速さだけがスポーツカーの魅力ではないことを、トヨ2もまたよく教えてくれる。

 日本にトヨタ2000GTがあって本当に良かったと、改めて思う。

* * *

●TOYOTA 2000GT
トヨタ2000GT

・生産年:1967-1970年
・年式:1967年
・総排気量:1988cc
・トランスミッション:5速MT
・最高速度:220km/h
・全長×全幅×全高:4175×1600×1160mm
・エンジン:直列6気筒DOHC 24バルブ
・最高出力:150ps/6600rpm
・最大トルク:18.0kgm/5000rpm

こんな記事も読まれています

メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
AUTOCAR JAPAN
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
AUTOSPORT web
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
ベストカーWeb
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
Auto Messe Web
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
AUTOSPORT web
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
AUTOSPORT web
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
AUTOSPORT web
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
AUTOSPORT web
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
AUTOCAR JAPAN
オーテック&ニスモ車が大集合!「AOG湘南里帰りミーティング2024」で見た「超レア車5台」と「中古車で狙いたいクルマ5台」を紹介します
オーテック&ニスモ車が大集合!「AOG湘南里帰りミーティング2024」で見た「超レア車5台」と「中古車で狙いたいクルマ5台」を紹介します
Auto Messe Web
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 後編
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 後編
AUTOCAR JAPAN
ラリージャパン3日目、SS12がキャンセル…一般車両が検問を突破しコース内へ進入、実行委員会は理解呼びかけると共に被害届を提出予定
ラリージャパン3日目、SS12がキャンセル…一般車両が検問を突破しコース内へ進入、実行委員会は理解呼びかけると共に被害届を提出予定
レスポンス
【F1第22戦予選の要点】苦戦予想を覆すアタック。ラッセルとガスリーが見せた2つのサプライズ
【F1第22戦予選の要点】苦戦予想を覆すアタック。ラッセルとガスリーが見せた2つのサプライズ
AUTOSPORT web
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 前編
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 前編
AUTOCAR JAPAN
NASCARの2024シーズン終了! 日本からスポット参戦した「Hattori Racing Enterprises」の今季の結果は…?
NASCARの2024シーズン終了! 日本からスポット参戦した「Hattori Racing Enterprises」の今季の結果は…?
Auto Messe Web
ジャガーEタイプ S1(2) スタイリングにもメカニズムにも魅了! 人生へ大きな影響を与えた1台
ジャガーEタイプ S1(2) スタイリングにもメカニズムにも魅了! 人生へ大きな影響を与えた1台
AUTOCAR JAPAN
もの凄く「絵になる」クルマ ジャガーEタイプ S1(1) そのすべてへ夢中になった15歳
もの凄く「絵になる」クルマ ジャガーEタイプ S1(1) そのすべてへ夢中になった15歳
AUTOCAR JAPAN
日本の「ペダル踏み間違い防止技術」世界のスタンダードに! 事故抑制のため国際論議を主導
日本の「ペダル踏み間違い防止技術」世界のスタンダードに! 事故抑制のため国際論議を主導
乗りものニュース

みんなのコメント

17件
  • 罪なんてものは何も無いよ。

    ホンダのご機嫌取りに必死な人間に2000GTを語らせると
    こうなるという格好のサンプル。
  • >>あれだけのメーカーでありながら、トヨ2以降で心血を注いだと自他ともに認めうるクルマといえば、初代レクサスLS(セルシオ)とLFA、そして初代プリウスにミライ程度のものだろう。他に、目立って凄いクルマの出現はなかった。

    世界一の量産車のカローラ、世界に認められたタフネスのランドクルーザー/ハイラックスを無視しているのはまあ悪意ありますよね。
    スポーツカーなら、4WDラリーカーとして欧米に初めて打ち勝ったセリカ、運輸省のスポーツカー規制に風穴を開けたMR2があります。
    セダン不遇の時代にも国内専用をプライドとするクラウン、日本手工業の極みであるセンチュリーのようなフラッグシップもあります。
    日本一の実用車でありながら、後の高級ミニバンの先駆けともなったハイエースももちろん名車です。
    素人の記事なら都合の悪い物を無視して良いかもですが、プロの記事としては不味いのでは?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村