2020年9月10日、日産自動車は「エルグランド」を今秋にも新型へ切り替え(マイナーチェンジ)、9月14日より先行予約開始すると発表した。
著者が調査した情報によれば、すでに予約注文受付は9月14日からスタートしており、正式発売は10月12日と判明している。
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現行モデルのデビューから10年目に実施されるマイナーチェンジとなるが、販売現場ではどうなっているのだろうか?
ディーラーの営業マンの声とともに、ここで改めて最大のライバルであるアルファードと比べてどうなのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底レポートする。
文/渡辺陽一郎
写真/日産自動車
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エルグランドの月販平均台数は約300台
マイナーチェンジ前のエルグランド。横桟型のグリルが特徴で新型と比べると少しおとなしい印象
ミニバンは今でも人気の高いカテゴリーだが、近年では売れ方が二極分化している。アルファード、セレナ、ヴォクシー、シエンタ、フリードは、コロナ禍に見舞われた2020年1~8月でも1ヵ月平均で5500台以上を登録した。逆に1ヵ月平均1000台以下の車種もある。
販売面の明暗がはっきりするミニバンのなかで、特に注目される人気車がアルファードだ。
2020年6月以降は、同年2月にフルモデルチェンジされた新型フィットと同等の売れ行きで、販売ランキングの上位に喰い込む。
アルファードの売れ筋価格帯は、フィットの2倍以上だが、同等の台数を登録した。
以前のアルファードは、トヨペット店だけが販売したが、2020年5月以降は全国の全店が扱うようになって売れ行きも急増した。
その代わり姉妹車のヴェルファイアは下がっている。直近の2020年8月は、アルファードの登録台数が7103台で、ヴェルファイアは1226台だ。
現行型の前期型まではヴェルファイアが多く売れたが、マイナーチェンジによるフロントマスクの変更で逆転され、今では販売格差が6倍近くまで拡大した。
アルファードが絶好調に売れる一方で、大きく落ち込んだのがエルグランドだ。2020年1月以降の登録台数は、1ヵ月平均で約300台に留まる。
エルグランドの販売台数は実にアルファードの10分の1位以下だ。カッコ内は対前年同月比
過去を振り返ると、初代エルグランドは1997年に発売されてヒット作になった。1998年から1999年には、1ヵ月平均で4000~5000台が登録されている。
当時のトヨタはエルグランドの姉妹車に相当するグランビア、姉妹車のグランドハイエース、5ナンバーサイズに抑えたハイエースレジアスを扱ったが(後にツーリングハイエースも追加)、販売面でエルグランドにかなわなかった。
そこで当時のトヨタが強く抱いていた(今は失われてしまった)ライバル意識を燃やし、渾身の初代アルファードを開発した。2代目エルグランドの翌日に発売され、売れ行きを一気に伸ばして登録台数で圧勝した。この状態が今も続く。
現行エルグランドは3代目だが、発売は2010年だから10年を経過した。対するアルファード&ヴェルファイアは2015年の登場だから、エルグランドは古さも目立ち、販売低迷の原因になっている。
9月10日、日産はエルグランドのマイナーチェンジを発表した
グリルが派手になり強面顔になったマイナーチェンジ後のエルグランド
そこで日産は2020年9月10日、エルグランドにマイナーチェンジを実施すると発表した。予約注文は9月14日に開始され、実質的に販売されている状態だ。
販売店では「正式な発売は10月12日です。9月中旬には受注を開始したので、9月下旬に契約を頂くと、納車は11月中旬になります。通常の納期は約1ヵ月ですが、今回のマイナーチェンジでは従来型から乗り替えるお客様も増えたので、納期が伸びています」と説明する。
マイナーチェンジでは、フロントグリルをセレナハイウェイスターのような緻密なデザインに変更する。内装ではインパネの基本的な配置は同じだが、各部の形状は見直す。従来の派手な印象を少し抑えて上品に変わる。
装備については安全面を充実させる。以前から衝突被害軽減ブレーキは採用していたが、インテリジェントFCWに進化する。
センサーには単眼カメラとミリ波レーダーを使い、2台先を走る車両も検知可能だ。
ドライバーから見えない前方でアクシデントが生じた時も、早期に警報できる。このほか踏み間違い衝突防止アシスト、後方の並走車両を検知して警報する機能なども採用する。
その半面、車間距離の自動制御に加えて、操舵までサポートする運転支援機能のプロパイロットは設定されない。
以前から車間距離を自動制御できるインテリジェントクルーズコントロールを用意していたので、マイナーチェンジ後も引き続き採用する。
またエルグランドの2列目セパレートシートには、背もたれの上側だけ角度を変える中折れ機能が備わり、足をゆったりと伸ばせるオットマンも装着されている。
2列目の背もたれを寝かせた時の快適性は高いが、シートベルトは、以前と同じピラー(柱)から引き出すタイプだ。
これでは寝かせた状態で走行中に衝突した場合、乗員を十分に拘束できない。アルファード&ヴェルファイアやオデッセイのように、シートベルトを2列目シートの背もたれから引き出す方式に改める必要がある。
この点については、他メーカーのミニバン開発者も「2列目がキャプテンシートの場合、ピラーから引き出す方式は、今ではあり得ない」と述べている。
ちなみにシートベルトを背もたれから引き出す方式は、乗員の拘束力を強められる半面、衝突で生じた力をすべてシートの脚とスライドレールで支えねばならない。抜本的にフロアを強化する必要があるため、おそらくマイナーチェンジでは対応できない。
今はプラットフォームの解析能力が向上して、従来型から流用しながら、走行安定性、操舵感覚、乗り心地などを大きく引き上げられるようになった。
例えば先ごろ発売されたキックスは、基本的にはマーチと同じ「Vプラットフォーム」を使うが、走行性能と乗り心地は大幅に進化した。
つまりマイナーチェンジで変更可能な領域も広がったが、シートベルトのシステム変更、プロパイロットの採用など、フルモデルチェンジしないと困難なことも少なくない。
今後登場するレクサスISも、発売から7年を経過しながらマイナーチェンジで済ませるので、外観は大きく変わるが安全装備などの目新しさは乏しい。
インパネ回り、シート地を変更し、より高級感のある材質、意匠を強調。インパネ中央部分のナビは従来の8から10インチに拡大した
プロパイロットの設定を期待したのだが……
プロパイロット、あるいはスカイラインに用意されるハンズフリーのプロパイロット2.0を選べると喜ばれたはずなのだが……
日産の販売店にエルグランドのマイナーチェンジについて尋ねると、以下のようにコメントした。
「今はお客様の安全意識が高まり、各種の安全装備を組み合わせた360度セーフティアシストの採用は、メリットも大きいです。
特に2台先を走る車両の検知機能は、デイズを含めて幅広い車種に採用され、日産の代表的な安全技術になっています。その半面、プロパイロットは設定がありません。
エルグランドはLサイズミニバンなので、長距離を移動するお客様も多いです。プロパイロット、あるいはスカイラインに用意されるハンズフリーのプロパイロット2.0を選べると喜ばれたでしょう。
このほか今の日産車には、デイズを含めて通信機能が増えており、エアバッグ連動式のSOSコールも装着できます。これらの先進機能をエルグランドにも採用して欲しいです」。
ライバル車のアルファード&ヴェルファイアでは、通信機能が全車に標準装着され、エアバッグ連動型のヘルプネットも利用できる。衝突被害軽減ブレーキは、昼夜の歩行者に加えて、昼間の自転車も検知する。
現行アルファード&ヴェルファイアは前述の通り、2015年に登場したが、2017年、2018年、2019年にも改良を行って安全装備などの商品力を向上させてきた。
高価格車でありながら好調に売れるため、トヨタにとってコストを費やしても改良を行う価値が高い。それを実践した結果、売れ行きがさらに伸びる好循環が生まれている。
対するエルグランドは、現行型を2010年に発売して、2012年の売れ行きは(2011年は東日本大震災で国産全車の売れ行きが落ち込んだ)、1200台前後であった。
アルファード&ヴェルファイアに需要を奪われた影響もあり、発売早々に売れ行きが低迷している。
アルファード&ヴェルファイアを比べてどうか?
アルファードの2018年のマイナーチェンジでは内外装のほかにも、3.5L車に新開発の直噴エンジン搭載と新開発ダイレクトシフト8ATの組み合わせなど、多岐にわたった
その一番の原因は、アルファード&ヴェルファイアに比べて、Lサイズミニバンらしさが乏しいことだ。要素は複数ある。
まず外観だ。現行アルファード&ヴェルファイアは、プラットフォームを刷新したから、床を低く抑えて、乗降性や走行安定性を向上させることも可能だった。
しかしあえてそれをしていない。開発者は「お客様が周囲を見晴らす感覚を好むので、視線の位置を下げたくない。そこで床の高さも、従来に近い設定にした」と述べている。
周囲の見晴らし感覚に加えて、背の高い上級ミニバン独特の存在感(あるいは威圧感)も重視したのだろう。
そこで極端にいえば観光バスのように床を高め、見晴らしを良くするとともに、全高も1935~1950mmに設定して外観の存在感を強めた。
新型エルグランドのインテリア。室内高は1300mmとアルファードの1400mmに比べ100mm低い
エルグランドは、これと逆の商品開発を行っている。現行型で従来の後輪駆動から前輪駆動に変更したこともあり、全高を1815mmに抑えた。外観はスポーティになったが、存在感は乏しい。
それなのに床の高さはあまり下げていないので、室内高が不足した。アルファード&ヴェルファイアの室内高は1400mmだが、エルグランドは1300mmだ。車内に入った時の頭上の広々感が異なる。
しかもエルグランドの3列目シートは、床と座面の間隔が不足して、膝の持ち上がる窮屈な着座姿勢になる。アルファード&ヴェルファイアに比べると、3列目の居住性が大幅に見劣りする。
3列目の格納方法も異なる。アルファード&ヴェルファイアは、左右に跳ね上げる一般的な方式だから荷室高を十分に確保できるが、エルグランドは3列目を前側に倒すタイプだ。
これでは格納時に3列目の厚みだけ荷室の床が持ち上がり、荷室高はさらに乏しくなる。アルファード&ヴェルファイアなら、3列目を格納して自転車を縦に積むことも可能だが、エルグランドでは難しい。
このように立派な外観、車内からの見晴らしのよさ、3列目を含めた多人数乗車時の快適性、広くて使いやすい荷室などは、すべてLサイズミニバンの大切な価値だ。
アルファード&ヴェルファイアは、この点に力を入れて売れ行きを伸ばし、スポーティな価値を求めたエルグランドは低迷している。
エルグランドがこれらの不満をすべて改めるには、フルモデルチェンジを行わねばならない。マイナーチェンジでは限界がある。
そしてもうひとつ、エルグランドにはハイブリッドシステムも欠けている。
エルグランドにハイブリッドやe-POWERが欲しかった!
発売から10年目のマイナーチェンジとなったがやはりフルモデルチェンジが待ち遠しい
アルファード&ヴェルファイアのハイブリッドは、後輪をモーターで駆動するE-Fourのみだから、2.5Lノーマルエンジンの2WDに比べて価格が90万円近く高い。
したがって、ほかの車種に比べるとハイブリッド比率は低いが、それでも約20%は占めている。
アルファード&ヴェルファイアの場合、ハイブリッドであれば、直列4気筒2.5Lノーマルエンジン車と比べて約30%の燃費節約が可能だ(WLTCモード燃費で計算)。
購入時に納める税金も安く、アルファードS(価格は7人乗りが390万8000円)の場合、環境性能割と自動車重量税(3年分)の合計で11万円少々を節約できる。
また上級ミニバンでは、高い付加価値も求められるから、ハイブリッドのラインナップも大切だ。そうなるとエルグランドにもハイブリッドのe-POWERが欲しい。
マイナーチェンジされたエルグランドの価格を販売店に尋ねると、直列4気筒2.5L、NAエンジンを搭載するベーシックな250ハイウェイスターSが369万4900円だ。
現行型の同グレードが359万7000円だから、安全装備の充実などによって10万円弱値上げされた。
この金額は妥当だろう。ライバル車のアルファード2.5Sは390万8000円だから、エルグランドに比べて約21万円高いが、安全装備や通信機能の違いを考えるとアルファードも割高ではない。
今回のエルグランドのマイナーチェンジは、インターネット上で話題になっている。今でもエルグランドの知名度は高く、ファンも多いわけだ。
今後の日産は、国内市場を改めて見直す方針を示しているので、エルグランドにもフルモデルチェンジを実施してほしい。
最終型のエスティマは、発売から10年後に規模の大きなマイナーチェンジを実施して、その約3年後に廃止された。
エルグランドも発売から10年を経過しながらマイナーチェンジで済ませるのは気になるが、エルグランドは国内では日産ブランドのイメージリーダーになり得る基幹車種だ。大切に開発を続けて、ユーザーの期待に応えてほしい。
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