■サルーンをヴァンテージ仕様にしても高値キープ
クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界最大手のRMサザビーズ社は、北米インディアナ州エルクハートにて2020年5月に開催するはずだった大規模オークション「THE ELKHART COLLECTION」を、予定から約半年の延期に相当する10月23-24日に、COVID-19感染対策を厳重におこなった上での対面型と、昨今の新スタイル「リモート入札」の併催でおこなうことになった。
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2輪/4輪合わせて280台を超える自動車が集められたこのオークションは、実は詐欺の疑いで訴追され、破産宣告を受けたというさる実業家の資産売却のためにおこなわれたものだそうなのだが、主に第二次大戦後に生産されたアメリカやヨーロッパ、あるいは日本車も含む名車・希少車たちが勢ぞろいしていた。
そんななかで今回VAGUEが注目したのは、英国超高級スポーツカーの雄、アストンマーティンの最高傑作のひとつとして知られる「DB5」と、その後継モデルの「DB6」の2台である。
国際クラシックカーマーケットでは常に高い人気を誇り、オークションでも常連となっているクラシック・アストンにいかなる評価が下されたのだろうか。
●1964 アストンマーティン「DB5 ‘ヴァンテージ・スペシフィケーション’」
名門アストンマーティンの最高傑作として敬愛される「DB4」「DB5」「DB6」の三部作のなかでももっとも人気の高いDB5は、1963年7月にデビュー。当時の世界最速グランドツアラーの一角を占めた名作中の名作である。
1965年秋にDB6に跡目を譲るまで、1023台(ほかにも諸説あり)が旧ニューポート・パグネル工場で生産されたといわれる。
また1964年公開の映画『007ゴールドフィンガー』以来、最新作に至る数多くの007シリーズで出演を重ね、「The Most Famous Car in the World(世界一有名なクルマ)」と称されてきたことは、ここで敢えてご説明する必要もないかもしれない。
そして、スタンダードのSU製キャブレターからウェーバー社製キャブレターに換装することで325psのパワーを得た高性能版「DB5ヴァンテージ」も設定されることになる。
ただし、スタンダードのDB5の段階から先代「DB4ヴァンテージ」と同じトリプルSUキャブレターが与えられるなど、既に充分なパフォーマンスを得ていたことから、あえてDB5ヴァンテージを選択するカスタマーが少なかったせいなのか、製作台数は「DB4GT」や「DB4シリーズ5ヴァンテージ」よりもさらに少ない、わずか68台(65台説もあり)に過ぎないといわれている。
しかし、ウェーバーキャブレターのもたらすパワーや、豪快なエキゾーストサウンドの魅力はアストン愛好家を惹きつけたようで、のちに同じスペックをスタンダードDB5に施そうとするオーナーやディーラーが続出。数多くの「ヴァンテージ仕様」が生まれた。
今回の「THE ELKHART COLLECTION」に出品されたのも、「DB5サルーン」をヴァンテージ仕様にアップデートした1台であった。
負債回収を目的としたオークションということで、債権者とRMサザビーズ社が協議の上で設定したエスティメート(推定落札価格)は75万ー85万ドル。そして、オークションハウスに支払われる手数料を合わせれば、エスティメートの上限を超える85万2000ドル、邦貨換算すれば約8940万円で無事落札となった。
ただ、昨年までならばスタンダードのDB5サルーンであっても、この個体ほど美しいコンディションであれば100万ドル≒1億円超えが充分に狙えたのも、否定できない事実である。
やはり、アメリカでは特に深刻化の度合いを増している新型コロナウイルス禍による先行き不安感のせいか。あるいはクラシックカーマーケットにおけるDB5が、そろそろ購買層に行き渡ったことによる飽和状態のせいなのか、価格には若干ながら足踏み感が否めなかったのだ。
■むしろお買い得ともいえる「DB6」は3600万円!
「THE ELKHART COLLECTION」に出品されたもう1台のクラシック・アストンは、長らくアストンマーティン最高傑作と目されてきたDB4-5-6三連作の最終型にあたる「DB6サルーン」である。
●1966 アストンマーティン「DB6」
1965年10月にロンドン・モーターショーで発表されたDB6は、DB4およびDB5から、大規模なモディファイが施されたモデルである。
流線型の「カウルドヘッドライト」を持つフロントノーズまでの形状は、ラジエーターグリル下にオイルクーラーが新設されたこと。あるいはバンパーが左右に分割されたことを除けば、ほとんどDB5と変わらないものだった一方で、スカットルとAピラーから後方はまるで別物のスタイリングになっていた。
まずは、後席の居住性をアップさせることを主な目的として、ホイールベースをDB4/5時代の2490mmから95mm延長された2585mmにスケールアップ。
またルーフからテールエンドにかけては、この時代における最新のエアロダイナミクス・テクノロジーが導入されたことも、大きなトピックといえるだろう。
1963年のル・マン24時間レースに参戦した、DB4GTベースのエクスペリメンタルカー「DP214」および「DP215」でその効果が確認された「カムテール」、この様式の開祖であるイタリア式にいえば「コーダ・トロンカ」が採用される。
また後席のヘッドルームを確保するために、ルーフ後方はDB4からDB5へと進化した際に比べても、さらなるかさ上げが図られていた。
しかし、リアエンドをスパッと切り落としたカムテールに至るラインを、DB5以前よりもスムーズなものとしたこと、そしてDB5に比べてフロントウインドシールドがわずかながら寝かされたことも相まって、持ち前のスポーティなプロポーションが損なわれることはないと評されていた。
加えて、インテリアもリニューアルされ、現在の「レカロ」の前身にあたるコーチビルダー兼シートメーカー「ロイター」社による、よりモダンな形状と構造のシートが採用されたのも、特筆すべきポイントといえよう。
ちなみにボディワークは、DB4およびDB5のような伊トゥーリング社特許の「スーペルレッジェーラ」工法ではなく、こののちのDBSでも適用される通常のアルミボディ架装法に改められていた。
「THE ELKHART COLLECTION」出品に向けてRMサザビーズ社が設定した、25万ドルー30万ドルというかなり控えめなエスティメートは、負債回収を目的としたオークションであるゆえに、確実な落札が第一義とされていた。
また、この控えめなエスティメートの理由は、この個体のコンディションがもう1台のDB5ほどに「ミント(Mint:新品同様)」ではないことも関係していたと思われるが、やはり現在のマーケットにおけるDB6の人気が、DB5に対して明らかに低いことが大きく影響していると見て間違いあるまい。
それでも、実際の競売ではさすがにエスティメート上限を超える34万6000ドル、手数料込みで邦貨換算約3630万円にて落札されるに至ったのである。
1990年代までは、DB5とDB6の価格差はあまり大きいものではなかったはず。ところが、今世紀、特に2010年代に入ってこの2台を取り巻くマーケット観は、大きく様変わりしてしまったかにみえる。
それでも、グランドツアラーとしての完成度の高さや快適な乗り心地など、DB6ならではの魅力があるのも事実。DB5との間にこれだけの価格差があるならば、むしろお買い得にも感じられてしまうのである。
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タイトル盛りすぎ。