7月15日に新型トヨタ「クラウン」が発表される。さまざまな噂が飛び交う中、自動車ジャーナリストの今尾直樹が新型への期待を語る!
思い出される2年前の報道
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「いつかはクラウン?」
「SEDAN? SUV?」
「終わりかはじまりか」
「DISCOVER YOUR CROWN.」
とミステリー作品のような問いかけが連続する新型トヨタ・クラウンのティーザー広告がウェブ上で始まっている。いまのところ(7月7日時点)公開されているのはこの4つの文言と、デビューが7月15日ということだけで、1955年の初代以来、16代目となる新型クラウンに関する公式情報はいっさい伏せられている。
とはいえ、すでに2020年11月、「トヨタ自動車は、高級車『クラウン』についてセダンの生産を現行型で終了し、スポーツタイプ多目的車(SUV)に似た車形の新型として2022年に投入する最終調整に入った」と中日新聞が報じており、これが自動車メディアを騒がせたことは記憶に新しい。
私たちは次期クラウンのセダンが廃止となり、「SUVに似た車形」となることをずいぶん前から知っている。だからこそ、このティーザー広告もすんなり受け入れられることができたのである。
驚くべきは、トヨタのお膝元の中日新聞の記事の正しさであろう。トヨタ側のリークという噂が本当だったとしたら、新型クラウンのティーザー広告は2年前から始まっていたのかもしれない……。
新型クラウンは2023年から米国でも生産する計画で、「ハイランダー」とおなじプラットフォームを使用する、とも同記事は伝えている。これも正しいとなると(もちろんその可能性は高い)、トヨタの国内市場の頂点に君臨してきた「いつかはクラウン」は、北米でも通用する「SUVに似た車形」の国際商品に生まれ変わり、「いつかはクラウン?」になる。
変わる高級車の形
それはいったい、どんなクルマなのか? 正式発表まで、あと1週間。いまあるネット上の情報、優秀なスクープ班を抱える自動車メディアの記事を参考にすることをお許しいただきたい。ある自動車メディアとは、「ベストカーweb」のことですけれど、詳細はそちらで読んでいただくとして、「セダンとSUVのクロスオーバーのようなスタイル」だという販売店の幹部の証言を紹介している。
なるほど、そうであれば、中日新聞が報じた「SUVに似た車形」というまわりくどい表現とも、トヨタ自身の新型クラウンのティーザー広告、「SEDAN? SUV?」とも一致する。セダンのようでもセダンではない。ベンベン。SUVのようでもSUVではない。ベンベン。それはなにかとたずねたら、クラウン・クロスオーバー、クラウン・クロスオーバー……オチがなくてすいません。
もしセダンのカタチで、最低地上高をたっぷりとった4WDだとすると、1970年代のスバルの初代「レオーネ4WD」だとか1980年代のAMC「イーグル」を想起させるものとなり、近年ではちょっとない形式となる。おそらくセダンと同時か、そのちょっとあとにステーションワゴンが登場し、販売台数としてはワゴンが主力になることも予想される。
「クラウンに乗ることは、社会的に成功した者とみなされるといっていい。トヨタでもそれを意識して開発を続けており、クラウンは日本人の豪華さ、ぜいたくさを示すバロメーターとしての存在でもある。したがって、クラウンこそが、日本の乗用車の典型として、日本人のクルマ観とは何かに対する反映であり、回答のひとつである。しかも、このクルマのつくり方がトヨタ自動車の企業としてのあり方を示すエッセンスを含んでいるはずである」
以上は、『初代クラウン開発物語 トヨタのクルマ作りの原点を探る』(桂木洋二著/グランプリ出版)の序に著者自身が記したものだ。1991年、著者はこの時点で36年も前にデビューした初代クラウンの開発物語を書きながら、当時発表されたばかりの9代目クラウンとの共通点を感じずにはいられなかった。クラウンとは、「日本の繁栄を支える企業の代表であるトヨタの顔ともいうべきクルマ」(同書)だった。それからさらに30年近い歳月がすぎ、事情はすっかり変わったと見るべきかもしれない。
新型クラウンのプラットフォームがハイランダー、または前出の自動車メディアが報じている、今秋発売となる新型レクサス「RX」とおなじだとすれば、トヨタのフラッグシップがレクサスのラグジュアリー・セダンの「LS」とおなじではないという意味において、日本人の豪華さ、ぜいたくさは確実に下がっていると解釈でき、もしそうであれば、それは現在の日本社会の一端をよくあらわしているようにも思える。
新型ニッポンの多様性と成熟を示せるのか?
では、ティーザー広告の第1の問い、「いつかはクラウン?」の疑問符はなにを意味するのか? もちろん、疑問符のまま終わるはずはない。クラウンを名乗る以上、「いつかはクラウン」もまた、少なくともトヨタの販売店としては続けたいにちがいない。
そうなると、次期クラウンのあるべき姿は、No.1ではなくOnly oneだと思う。
「DISCOVER YOUR CROWN.」の意味するところは。あなたのクラウンを見つけよう。ということではないか。新型クラウンはこれまで以上により多様で個性的になっている、ということだろう。現行生産車としては珍しい、もしかして唯一の、最低地上高のたっぷりとられたセダンのクロスオーバーで、もしかすると、ボディ色と内装の素材、色、オプションが豊富に用意され、それらを自由に選んで、自分好みのクラウンを仕立てることができる。
というような、近年高級車の世界で注目されているビスポークを実現しているかもしれない。IT時代だから、これまでよりも対応しやすく、しかも自分だけの特別なOnly oneのクラウンが手に入るということで、「いつかはクラウン」に通じるラグジュアリーという位置付けができるのではあるまいか。
そして、ここが肝心なところだけれど、新型クラウンが日本社会に受け入れられるとするならば、それこそニッポンの多様性と成熟を示すことになり……、ま、ここまで書いていて、そこまではいえないか……とも思ったけれど、いや、そんなニッポンであることを希望したい。
いずれにせよ、上記は根拠もない、筆者のデタラメである。しかしながら、新型車をめぐって、あーだこーだと語り合うのもまた一興。想像をふくらませるほどに、正式発表、7月15日をよりワクワクしながら迎えらえることもまた確かでありましょう。
文・今尾直樹
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クラウンっていうのは、トヨタ車のコンセプトを左右する重要車種だったはずなんだが…