ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第十九回目となる今回は、出揃った国内自動車メーカー主要7社の2022年度決算からわかること。日本にも本格的な「クルマの値上げ」がやってくる!!?
日本にも「本格的な自動車の値上げ」がやってくる?? トヨタ 日産 ホンダ……国内メーカーの決算発表からわかること
※本稿は2023年5月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA、NISSAN、HONDA
初出:『ベストカー』2023年6月26日号
■出揃った2022年度決算 各社好業績も…?
国内自動車メーカー主要7社の2022年度・2023年度のグローバル販売台数・営業利益(※2023年度は見通し)
自動車大手メーカー7社の2022年度決算が出揃いました。
ロシア─ウクライナ戦争を受け世界的なエネルギー危機で始まった2022年度でしたが、結果は各社とも過去最高益に迫る好業績で終えたわけです。
トヨタとホンダを除き、各社で本業のもうけを示す営業利益は大幅に増益を達成し、半導体不足の軽減と円安メリットを背景に、厳しかった2021年度から増益となりました。
7社合計営業利益は4兆8920億円に達し、前年から7%増益となったのです。
不振組のトヨタの営業利益は前年比9%減、ホンダは4%減と減益に落ち込んだわけですが、両社ともに実態面では内容がそれほど悪いわけではなさそうです。
例えば、トヨタの業績にはロシアの撤退費用などで約4000億円の一過性影響が含まれていました。実質的には、3.1兆円の営業利益を実現していたことになります。過去最高益の2.9兆円を実質的に更新していたのです。
トヨタは2023年度、過去最高となる3兆円の利益を見込む。アジア、新興国での収益基盤の強化を目指す
未曽有のコストインフレを受けながら、半導体不足も尾を引く供給制約のなかで、なぜこれほどの業績を確保できたのか。その理由は、値上げと円安の2つの効果が強く発揮されたからです。
出荷台数で計算した1台あたりのコストインフレは14万円にも達しています。7社合計で受けたコストインフレ(原材料、輸送費、サプライヤーからのインフレコスト転嫁)合計は鋼材、船賃、エネルギーコスト合計で3兆4000億円にも達しました。
しかし、新車価格の値上げから1兆3700億円、円安から2兆2000億円のメリットを享受し、綺麗にオフセットしています。
2023年度の計画では、7社合計の営業利益は前年比12%増となる、5兆4800億円に拡大する見通しが示されています。
トヨタ、ホンダは過去最高益を更新し、日産も苦境から立ち直り営業利益率は4%台まで回復が望めるようです。
アジアの比率の高いスズキと三菱自動車の2社は、同地域の悪化影響があり減益予想となっていますが、計画は保守的でそれほど悪化しないと筆者は見ています。
■不況でも販売台数が増える論理的矛盾
2023年度の業績をけん引する要因は販売台数の増加です。
世界経済は着実に不況の色を濃くするなかで、新車販売が回復するパラドックスこそが、コロナ禍による業界のゆがみを示しています。2023年度の7社合計小売台数は前年から13%増の高い伸びが計画されています。
2021年度は、デルタ変異株流行の影響で世界の生産台数が激減するなかで儲けのマージンが急上昇し、結果として業績が改善するパラドックスがありました。
在庫が枯渇し、需給バランスがタイト化したことでインセンティブ(販売奨励金=値引きの原資)が大幅に減少したことがその背景にあります。
日産の2023年度営業利益見通しは5200億円と回復は急ピッチ。写真左のグプタCOOの退任が発表された
2023年度は、景気後退や金利上昇で実需はゆるりと悪化方向に転じていると思われますが、供給が遅れた結果の受注残が各社数カ月分も積み上がっているわけで、生産力が改善すればそれが納車につながり、不景気でも新車販売台数が回復するわけです。
しかし、夏以降も実需が下降を続ければ、供給力を下回る可能性もあります。その時、在庫は急拡大に転じ、自動車の実売価格の急落(=インセンティブの増大)、生産調整という悪化循環が始まるリスクと隣り合わせと見ています。
景気次第では、好調な環境が急変するリスクがあることを忘れてはならないでしょう。
また、中国販売に構造的な悪化が見られ、トヨタで20%、ホンダで30%、日産で40%の全体最終利益への寄与があると言われる中国事業の先ゆきも注視が必要です。
■夏以降に環境急変のリスク 日本市場も値上げのトレンドが訪れる??
コストインフレと価格転嫁のバランスは、2023年度は好転が望めるでしょう。
2022年度はコストインフレの約40%程度しか値上げで回収ができませんでした。2023年度は資材費高騰が収まりエネルギーコストが中心になることで、コストインフレは6500億円まで縮小する公算です。
一方、新車価格の値上げは昨年並みの1兆1500億円が計画されています。昨年の積み残しの一部を挽回する考えです。
これまでは値上げのほとんどは北米、欧州、中近東という地域に集中していました。
2023年度は日本にも値上げが波及するだろうと考えています。国内新車価格は安定していましたが、今年から段階的に値上げのトレンドが訪れそうです。
決算説明会においては、各社のEV戦略のアップデートに大きな注目が集まりました。
トヨタの佐藤新CEOはEV戦略のさらなる詳細を発表し、まったく新しい開発、調達、生産方法で進める次世代EV事業を推進する専任組織は「BEVファクトリー」と名付けられ、そのプレジデントに加藤武郎氏が任命されました。
加藤氏は3月までBYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー有限会社(BTET)に在籍し、BYDと共同でEV開発を進めてきた人物です。
「加藤は外からトヨタを見て、トヨタのクルマづくりのいいところ、変えていかなければ厳しい競争に勝ち抜けないところ、という外からの視点を体感してきている」
佐藤CEOはこのように任命理由を話し、中国自動車メーカーに対する知見だけでなく、トヨタを外から見る貴重な経験をもって、トヨタの経営にモノが言え、それに対する具体的な行動を起こすことができる人物を選んだわけです。
新しい製造方法に挑戦し、新たなモノづくりの世界を築く考えです。
大手3社は積極的に新型EVを公開。写真はトヨタが発表した「bZフレックススペースコンセプト」。ギャラリーでは同車を含め、トヨタ・日産・ホンダが発表したEVの新型車・コンセプトカー5台をご紹介
●これまでの連載はこちらから!
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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みんなのコメント
こんな不景気なんだから、13年超の増税も廃止。セットにすれば、
プラマイゼロじゃない?数年前のモッタイナイは、日本が発祥ですよ。
一番モッタイナイのは、国会議員の月100万のお小遣い。