■“見栄を張る”など不毛と知る層に高評価
「これ、なんシーシー?」「もっと大きいのに乗りなよ」
ホンダ「CB4X」発表 CBR650Rのエンジンを搭載した斬新なコンセプトモデル
もし排気量マウントする人がいるなら、『MT-07』はそのカーストにおいて下位層に分類されてしまうかもしれません。
しかし、バイクファンらの間で『MT-07』の評価はとても高く、ヤマハのラインナップを見ても『XSR700』や『テネレ700』といった07譲りの688cc並列2気筒エンジンを積むモデルが人気を博しています。
その魅力は軽快感のあるハンドリングと扱いやすい出力特性、そしてスタイリッシュさなど多岐に渡りますが、少なくとも支持する人の多くは、排気量マウントといったナンセンスな見栄は持ち合わせていません。
昔からヤマハは、ミドルクラスと呼ばれる中間排気量に名車を生み出してきました。『XS-1』(1969年)にはじまる650ccのパラレルツインであったり、『SRX600』(1985年)や『SR500』(1978年)といったシングルモデル、さらに2ストに目を向ければ『RZV500』(1984年)や『RZ350』(1981年)もあり、どれも時代が経った今もファンらに熱く語り継がれています。
70年代は国内大型二輪車の排気量は750ccが上限で、現在の普通二輪免許にあたる中型二輪免許は400ccまでと、いずれも日本の免許制度から考えれば中途半端でしかありません。しかしその隙間の排気量帯が、一部ファンらから日本の交通環境下と日本人の体格に“ちょうどいい”とされてきたのもまた事実です。
とはいえ、販売面では爆発的ヒットとは無縁です。売れるのは70年代ならナナハンですし、80年代ならヨンヒャクや車検のないニーゴーでした。中間排気量はツウ好みだったとも言えるでしょう。
■再評価され出すミドルクラス
『MT-07』は優れたコストパフォーマンスを兼ね備えたミドルクラスとして2014年に登場し、販売台数は1年目1813台、2年目2562台と堅調。成熟していた日本の市場に受け入れられました。
1996年の免許制度改定により、教習所で大型二輪免許が取得できるようになると、リッタークラスの逆輸入車が人気を呼びましたが、その後は果てしてハイパワーを扱いきれるか、大きく重い車体を取り回すのは疲れる、足つきが重要などと言われだし、大型二輪免許所持者にも“等身大のモデル”を求む声が増加していたのです。
また、環境規制を国際基準化し、2016年に「EURO4」、20年に「EURO5」を導入すると、メーカーは仕向地ごとに仕様変更する必要がなくなり、グローバルモデルが日本のラインナップに名を連ねます。
中間排気量たちは欧州ではメインだったこともあって、車種が豊富な上、コストパフォーマンスにも優れる。今や国内のバイクファンらにも、すんなり受け入れられるようになっていたのでした。
ライバル勢も充実し、現行機種にはホンダなら『CB650R』『CBR650R』『CBR600RR』『レブル500』、カワサキは『Ninja 650』『Z650』『Ninja ZX-6R/KRT EDITION』『VULCAN S』、スズキも『Vストローム650XT』『Vストローム650』『SV650X ABS』『SV650 ABS』らがあり、さらに外国車も合わせればよりどりみどりな状態です。
■09譲りのモノアイへ
MTシリーズはアンダー400ccモデルに『MT-25』『MT-03』を設定し、さらに大型二輪免許枠に『MT-10/SP』や『MT-09/SP』もラインナップ。車名の“MT”は「マスター・オブ・トルク」を意味し、トルクのあるエンジンこそ乗って楽しいとヤマハは考えています。
排気量を問わず加速時のダイレクト感にこだわりが感じられ、日常の速度域で乗り手の意思とシンクロする「意のままに操れる悦び」を目指して開発されました。
『MT-07』は2018年に吸気の取り込みを強調したエアインテークをタンク両側に配置し、フロントビューも当時の09譲りにアップデート。今年6月にはユーロ5への対応で環境性能を向上しつつ、第3世代へとスタイリングもより進化しています。
新型はヘッドライトをLEDのモノアイにし、兄貴分の『MT-09』に似たインパクトある一眼フェイスデザインのフロントマスクとなりました。Y字をモチーフに左右独立のポジション灯が配置され、燃料タンクカバーまわりもエアスクープやラジエターと連携したデザインに刷新されています。
■フィッティングの良いライポジ
シート高は805mm。身長175cmの筆者がまたがって両足を地面に出すと、カカトが少し浮きますが、車体重量は184kgとこのクラスにしては軽く、取り回しに苦労することはありません。
新採用のアルミ製テーパーハンドルはオフロードバイクのように肘を張り気味にしたくなるほどワイドでゆったりとしたライディングポジション。従来型より左右幅が32mm広く、高さも12mmアップし、よりイージーに扱える感覚です。
シートはクッションが厚めで、腰を落とし荷重をかけたフォームで積極的にスポーツライディングを楽しんで欲しいと言わんばかり。タンクカバーとのフィッティングが良く、ホールド感が増したことも報告しておきましょう。
■トラクションに優れる小気味良いエンジン
エンジンは最高出力73PSをそのままに発生回転数を9000→8750rpmに引き下げ、2速や3速での再加速時でのダッシュ力を上げるなど、より“MT”らしさを追求してきました。
最大トルク67Nm(6.8kg-m)は6500rpmで発揮。従来型から力強かった低中速域は新型ではいっそうパワフルで、270度クランク並列2気筒ならではのパルス感を伴うサウンドとともに吹け上がっていきます。
忙しないギヤチェンジも要りません。タイヤが路面に食いつくかのような優れるトラクション性能で、アクセルのオン/オフだけでギクシャクせず爽快な走りが楽しめます。
■曲がることが歓び
コーナーではセルフステアに任せておけば、旋回へ自然と導いてくれるかのようなクセのないハンドリングが際立ち、ワインディングが楽しくて仕方ありません。
ヤマハ開発陣と話すと、いつも思うことがあります。それは「旋回性」と「軽快性」を、いったいどれほど重要視しているのかということです。とにかく彼らは“曲がる”ことに情熱を傾け、いかにハンドリングを“軽く”するかを考え抜き、モーターサイクルの製作に取り組んでいるのです。
そしてそれは限られたモデルのコンセプトとしてだけではなく、社内の共通認識というか価値観として、どの機種においても昔から一貫しています。プロジェクトリーダーらも口々にこう言うから、間違いありません。ニューモデルの開発中、社長から絶えず聞かれることは「コーナリング性能はどうか」という点だと。
『MT-07』もまた曲がるのが得意です。コーナーの大小を問わず積極的にアクセルを開けていけ、立ち上がりではMTシリーズならではのトルクフルな加速が堪能できるのですから、もうたまりません。
エキサイティングにカーブを曲がって、エンジンの鼓動とトルクを感じつつ駆け抜ける。つまり、オートバイの楽しさがココに凝縮されているのです。この歓びに排気量やスペック上のパワーなど、一切関係ありません。『MT-07』に乗れば、すぐに気づきます。
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みんなのコメント
400CCで区切るのは時代に合ってない。“中免は”排ガス規制で乗れるバイクがますます減っている状況です。