2018年6月25日に、新型(15代目)クラウンが発表・発売となります。
新開発TNGAプラットフォームを採用し、これまでのような「ロイヤル」、「アスリート」、「マジェスタ」というグレード構成を廃止し、「3.5G Execultive」(V6、3.5L+モーターのハイブリッド)、「2.5RS Advance」(直4、2.5L+モーターのハイブリッド)、「2.0RS(もしくは2.0G)」(直4、2Lガソリン)というグレード体系となり、ボディフォルムもスポーティなものとなって、ユーザーの若返りをめざす。
そんな今年最大の注目車であるクラウンだが、他メーカーの国産高級サルーンがことごとく苦戦を強いられているなか、なぜ勝ち続けていられるのか。
クラウンはやはり特別なのか? クラウンの魅力とは??
以下、多方面から考察をお願いしました。
文:渡辺陽一郎
■国産セダンのなかで孤軍奮闘しているクラウン
「セダンが売れない、Lサイズの高価格車も苦戦している」といわれるようになってから、すでに20年近くが経過する。
確かに今は小さなクルマが売れ筋だ。2017年には、新車として販売されたクルマの35%が軽自動車であった。1980年頃の軽自動車比率は20%前後だったから、大幅に増えている。
さらに小型/普通車の販売ランキングを見ても、上位に入る車種の大半は、ノート/アクア/シエンタといった5ナンバー車だ。3ナンバー車は、ハイブリッド専用車として手堅く売れるプリウス、流行しているSUVのC-HRとCX-5程度になる。
そこから少し順位を下げると、3ナンバーLサイズミニバンのヴェルファイア&アルファード、SUVのハリアーやエクストレイルなどが入ってくる。
カテゴリーで見ると、軽自動車/コンパクトカー/ミニバン/SUVが主力で、セダンはほとんど入らない。コンパクトなカローラが見られる程度になる(登録台数はワゴンのカローラフィールダーと合計されている)。
その意味で注目されるのがクラウンだ。「セダンが売れない、Lサイズの高価格車も苦戦」と言われる中で、堅調に売れている。さすがに登録台数のトップクラスには入らないが、毎月集計される小型/普通車の登録台数ランキングでは、25~35位には入る(ロイヤル/アスリート/マジェスタの合計)。
次期型クラウンは6月25日発表発売予定。写真は東京オートサロンに出品された時期クラウンのTRD版コンセプト。残念ながらつや消しブラック版の市販予定はないが、フォルムはこのまま登場する
■グローバル化が進むなか「日本ユーザーのために」作られている
クラウンは2017年(暦年)に2万9085台が登録され、1か月当たりの平均登録台数は約2400台。スイフト、シャトル、アクセラなどと同等になる。
それ以外の上級セダンは全般的に苦戦している。クラウンのライバル車は日産セドリック&グロリアの後継となるフーガだが、こちらは発売から8年を経てサッパリ売れない。1か月の登録台数は150台前後だ。
スカイラインも240台程度にとどまる。スカイラインはフロントグリルに海外で展開する高級車ブランド「インフィニティ」のエンブレムを装着しており、「もはや日本で売る気はない」とも受け取られる。
カムリは2017年にフルモデルチェンジを受けたから設計が比較的新しく、ハイブリッド専用車でもあるから1か月に2180台程度を売るが、それでもクラウンにはおよばない。
クラウンが高価格セダンなのに好調に売れる理由は、まず日本のユーザーのために開発しているからだ。
現行型クラウンのマジェスタ
■初代からずっと変えていないスタンス
トヨタはクラウンの初代モデルを1955年に発売した。この時点から海外で売ることを考えており、今では中国でもマジェスタをベースにしたクラウンが販売されるが、一番重視しているのはあくまでも日本のユーザーだ。
クラウンは初代モデルから上質な内外装をセールスポイントにしてきたが、その基準は日本のユーザーが抱く高級感にある。ここがトヨタが展開するレクサスを含むほかのLサイズセダンとは違うところだ。
1955年に発売された初代クラウン。アメリカ車を手本としながらも純国産設計だった
また現行型のボディサイズは全長4800mmを超えて長いが、全幅は1800mmに抑えている。これも日本の道路や駐車場の環境に配慮しているからだ。
そして日本のユーザーのために開発されたクルマは、「高級感がセンスに合っている」とか、「ボディサイズが適度」といった理屈を超えて、ユーザーの気持ちに強く訴えてくる。一種のオーラのようなもので「これは自分のために造ってくれたクルマだな」と実感させる。だからこそ売れるのだ。同じようなことが軽自動車やミニバンにも当てはまる。
これに比べてクラウン以外のLサイズセダンは、すべて海外向けに開発された。これらの売れ行きが伸び悩む理由も同じで、日本のユーザーを見ていないからだ。「日本でも売ってあげます」という意図が見え隠れすれば、日本のユーザーが敬遠するのは当然だ。全幅が1800mmを大幅に超えるといった指摘も間違いではないが、それ以上の本質的な販売不振の理由として、日本のユーザーと真剣に向き合っていないことが挙げられる。
見方を変えると、日本のユーザーと真剣に向き合い、日本のユーザーが何を求めているかを考えて開発すれば、カテゴリーを問わず売れる可能性がある。
■ユーザーや地域に寄り添い続ける販売店の力
そして歴代のクラウンが愛され続け、売れ行きを伸ばしたもうひとつの理由は、トヨタ店の専売車種として、力を入れて販売していることだ。
入念な顧客サービスを含めて、クラウンのユーザーをしっかりと繋ぎ止めている。背景には粗利の多い車種という理由もあるが、看板車種としてクラウンとそのユーザーを大切にしてきたことが大きい。
ほかのメーカーは、2010年頃までに全店が全車を扱う体制に移行した。そうなると販売会社としての車種に対する愛着も、平均化されてしまう。日産であれば効率良く販売できるノートやセレナに力を入れて、スカイラインやフーガは後まわしになる。前述のようにメーカーがセダンを開発する姿勢も海外重視だから、販売会社とセールスマンも売る気を持ちにくい。
ホンダも同様で、N-BOX、フリード、フィットなどに力が入る。必然的にレジェンドは売れず、2017年の販売総数は400台少々で、1か月平均にすれば40台に満たない。クラウンの2%程度にとどまる。
■クラウンのように日本市場で愛されるクルマを作るためには
クラウンには60年以上の歴史があり、そのブランド力は最強だ。だからこそ新型クラウンが発売されると、今でも実車を見ないで、セールスマンにすべてを任せて購入するユーザーが多いという。このユーザーからの信頼、つまりブランド力は、レクサスLSなど足元にもおよばない。
現行型クラウンのように「売れる国産セダン」を作れるのか
従って他の高級車がクラウンのようになるのはきわめて難しいが、そこから学ぶべきことは多いだろう。日本のユーザーと向き合って丹念に開発すれば、購入に結び付く。
この根底にあるのは、各メーカーが売れ行きを伸ばしている軽自動車/コンパクトカー/ミニバンと基本的には同じものだ。
また各メーカーとも、過去には好調に売れるLサイズセダンを販売してきた実績がある。そこに今のクラウンの分析を重ねれば「セダンの復権」は不可能ではない。
もちろんそれだけでなく、課題は日本のユーザー側にもある。日本で売る自社商品に、どれだけ愛情を注げるか、国内市場の将来をどれだけ大切に考えているかにも掛かっている。
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