突然ですが、みなさんがクルマを買うときに一番大事にしているポイントは何ですか?運動性能、積載能力、燃費、ブランド、デザイン…またはその中のいくつかでしょうか?
近年は、SUVやミニバン、そしてハイブリッドカーが自動車市場の主役となり、どことなく「以前見たことがあるようなデザイン」ばかりとなってしまいましたが、1990年代までは、まだまだ「リソースをデザインに全振りした、デザイン重視のクルマ」を数多く見ることができました。
日本では1500台限定だった日産マイクラC+C。ドイツでは「気軽に楽しめるコンパクトオープンカー」として今でも人気!
今回紹介するクルマも、そんな時代に生まれた「デザインで一点突破!」するタイプのコンパクトクーぺ。独特の湾曲したBピラーが目を引く、オペル・ティグラを紹介します。
ベースはコルサ
オペル・ティグラが登場したのは1994年のこと。その後、2001年まで生産されたモデルを「ティグラA」と呼びます。今回撮影した個体は、まさにこの「ティグラA」に当たりますね。日本へは1995年から1999年にかけて、当時のインポーターのヤナセによって正規輸入されていました。
2004年には、2シーターのメタルトップ・オープンモデルとして再デビュー。2009年まで生産され、こちらは「ティグラB」「ティグラ・ツイントップ」と呼んで区別されています。
ティグラは、オペルの小型ハッチバック「コルサ」(日本名はヴィータ)をベースにした、コンパクトなパーソナルクーペです。デザイン面の最大の特徴は、リアハッチバックの広いガラスエリアと、ぐっと湾曲したBピラー。真横から見ると、リアにかけて尻上がりのデザインになっていて、前から眺めたときに、車名の由来となっている「虎」を思わせる外観に仕上がっています。
2シーターと考えれば、意外と実用的
ボディパネルはコルサからの流用品はなく、全てティグラ独自のものを使用。一方、内装やメカニズムに関してはほとんどがコルサからの流用品でまかなわれていて、特にコクピット周りは当時のオペルでよく見られる素っ気ないデザインでまとめられています。
デザインを重視した設計のため、後席はあるものの天井は極端に低く、「身長160cmまでに限る」という注釈があるほどでした。実質子ども用、もしくは非常用のシートと考えるべきでしょう。一方で、後席はそのままの状態で貴重な荷物置きになるほか、前に倒せばそこそこ大きなラゲッジスペースを確保できました。ふたり乗りのコンパクトクーペと考えれば、荷物の置き場についてはかなり充実していたと言えます。
搭載されたエンジンは、90psを発生する1.4リッター直列4気筒DOHCと、106psを発生する1.6リッター直列4気筒DOHCの2種類がラインナップ。トランスミッションは、5速マニュアルか4速オートマチックが選択できました。
車体の大きさは、全長3,922mm、全幅1,604mm、全高1,340mmとかなりコンパクト。車重も980kgから1,075kgに収まっていたため、意外なほど加速性能も良く、1.6リッターモデルの0~100km/h加速は9.3秒をマーク。Cd値が0.31と空力が優秀なことも手伝って、1.6リッターモデルの最高速度は203km/hに達しました。
総生産台数は25万台以上
ティグラのデザインを担当したのは、海外で活躍するカーデザイナーの先駆者、児玉秀雄氏です。1966年にオペルに入社し、以降約40年に渡って同社のデザインの中心的存在として活躍。2004年にオペルを退社したため、ティグラBが児玉氏の最後の作品となりました。
大衆車のコンポーネントを利用して、魅力的なスペシャリティカーを作る。日本で生まれたこの類のクルマで、すぐに筆者の頭に浮かんだのがトヨタ・セラでした。小型ハッチバック「スターレットをベースに、屋根全体がグラスエリアとなったガルウイングドアが最大の特徴でしたが、実はセラが生産されていたのは1990年から1994年のこと。オペル・ティグラよりも前に作られていたんですね。
ちなみにトヨタ・セラの総生産台数は約1万6,800台、対するオペル・ティグラは25万6,392台が生産されました。ティグラは、日本での人気は今ひとつだったものの、世界的には成功を収めたコンパクトクーぺだったのです。ドイツで販売されたティグラは、その約4分の1にあたる5万9,462台となっていて、製造終了から20年が経とうとしている今でも、街中やアウトバーンで日常的に見られます。
大衆車のコンポーネントを流用した安価なスペシャリティカーを作っても、「売れない」とバッサリ切られてしまうのが世の中の流れなのは理解できますが、オペル・ティグラのようなクルマを見ていると、「日常にちょっと彩りを与えてくれるクルマ」がもっと作られないかな、と思わずにはいられません。このオペル・ティグラも、長く元気に走り続けてほしいですね!
[ライター・カメラ/守屋健]
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