もくじ
ー 驚くべき身のこなし
ー リアシートを持つエヴォーラ
ー エリーゼとの違いはフレーム構成
ー 数値で見る両車の違い
ー キャビンの仕上げはポルシェ優位
ー 官能的なポルシェのエンジン
ー 完璧すぎてドラマに欠ける
ー 総合的な魅力でケイマンSの勝利
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驚くべき身のこなし
結論から先に述べてしまうと、結局のところポルシェ・ケイマンSと新型ロータス・エヴォーラの実力の違いを身をもって知るには、たったひとつコーナーを抜ければそれで十分であった。ロータスが全世界のマスコミに向けての発表会場として選んだ、ローモンド湖畔を1周するヒルクライムの連続する過酷なコースは、その意味では十分すぎてあまりあるコースだった。
試乗当日はあいにく雨が降っており、風もかなり強く、実に典型的なスコットランド特有の天気に見舞われた。われわれは早速2台のクルマに乗り込んで、ローモンド湖畔の外周に飛び出した。そしてまさに最初のコーナーに進入したときのことである。
たぶんそのとき、わたしはこの2台を並べて撮影するポイントがすぐに見つかるかどうか心配しており、運転に集中できていなかったのだろう。もしくはエヴォーラのほうがケイマンSよりはるかに敏捷なだけだったのかもしれない。とにかく最初のコーナーは3速か4速で抜ける右カーブで、その入り口には小さなバンプがあり、出口に向かって道幅が狭くなるというやっかいなものだった。
そのコーナーをエヴォーラの後ろからわたしはケイマンSに乗って追いかけていたのだが、エヴォーラは実にスムーズにターンインし、コーナー中央では徐々に外輪に荷重を移して優雅に向きを変え、実に見事にコーナーを抜けていった。わたしも同じスピードでケイマンSでコーナーに進入したのだが、まさに危機一髪でコーナー外側の土の壁に激突するところだったのだ。
リアシートを持つエヴォーラ
ケイマンSはエヴォーラがターンインしたポイントで完全にアンダーステアに陥り、後輪がバンプを踏むと同時にあっさりとグリップを失ってしまったのだ。この瞬間、ロータス・エヴォーラがどういうクルマであるのか、わたしはすべて理解したというわけである。
ロータスがエヴォーラの開発に着手したとき、ポルシェ・ケイマンはすでに確たる地位を築き上げていた。ほとんどあらゆる意味において、このクラスのほかのクルマにとにかく決定的な差をつけた存在であった。
しかしその一方で、特に英国内においては、ケイマンは決してベストセラーといえるほどの売れ行きを示していない。これだけ卓越した動力性能を持ちながら、それが販売面につながらないことを、ポルシェはいまだに不可解に思っているようだ。
しかし考えてみてほしい。ボクスターとほとんど同じシャシーを使っていながら、シート数はそのままの2座で、オープンエアを楽しめるわけでもないクルマを、いったいどんな英国人が好き好んで選ぶだろうか。
そこでロータスは、エヴォーラが商業的に成功するためには、少なくとも一対のリアシートが必要不可欠と判断したのである。その決断を下したまさにその日、エヴォーラのプロジェクトは翼を得たといっていいだろう。2シーターのケイマンSに比べ、ほぼ同程度の上方投影面積でありながら、小さいながらも一対のリアシートを車内に押し込むことに成功したのだ。
エリーゼとの違いはフレーム構成
エヴォーラはエリーゼと同じミドエンジン・レイアウトとアルミ製シャシー、そして基本的にまったく同じ接着構造を使用している。さらにダブルウィッシュボーンの足まわりもほぼエリーゼと同じもので、ボディシェルも同様にオールグラスファイバーだ。しかし、エヴォーラは決してエリーゼをストレッチして直4の代わりにトヨタ製3.5ℓV6を搭載し、違うボディスキンを被せただけのクルマではない。
まず決定的な違いのひとつは、バスタブ型フレームが3つの独立した部分で構成されている点だ。これによってエリーゼの弱点だった、鈑金修理不能のためすぐに廃車になるボディは改良され、多少のダメージを受けても前後部だけの交換で済むようになった。
そして完全な新設計となるブレーキ、大幅によくなったインテリア、さらに新型のマルチステージ式トラクションコントロールシステムなどが装備され、エリーゼとはまったく違うクルマに仕上がったのである。
ケイマンSにはエヴォーラの持つ補助リアシートがない。したがって、その時点で後席を必要とする市場からはお呼びがかからなくなる。しかし、実際にはこの2台は、ほとんど同じ顧客層を狙っている。それは主要な数値は区別ができないほど拮抗していることを見ても明らかだ。
数値で見る両車の違い
エヴォーラの価格は2プラス2シーターが892.5万円、2シーターが850.5万円である。対するケイマンSは830万円なので、一見したところエヴォーラより安いように思える。しかし、ケイマンSにエヴォーラと同程度のオプションを加えていくと、あっという間にそう変わらない価格にまで跳ね上がってしまう。しかも、実際に互いのスペックをひとつずつ突き合わせ、最終的な動力性能を比べてみたら、決してエヴォーラが不当に高くはないことに納得していただけるだろう。
以下にエヴォーラ/ケイマンSの拮抗しているスペックを列記しよう。
・重量:1382kg/1390kg
・排気量:3456cc/3436cc
・最高出力:280ps/320ps
・最大トルク:35.7kg-m/37.7kg-m
以上の数値を見ると、わずかではあるがケイマンSが勝っているように見える。しかし0-100km/h加速では、ケイマンSは5.2秒だがエヴォーラは5.0秒で勝っているのだ。
今回試乗したエヴォーラにはオプションの「スポーツレシオ」トランスミッションが装備されており、ギア比が相対的に低くクロスレシオ化されていた。しかし、ケイマンSは標準装備の6段トランスミッションでもそれよりローギアードでクロスレシオなのだから、いかにエヴォーラの0-100km/h加速タイムが優れているかうかがい知ることができよう。
キャビンの仕上げはポルシェ優位
環境面では、エヴォーラのほうがケイマンSよりもクリーンである。CO₂の排出量は205g/kmと、223g/kmのケイマンSよりも1割近く少ない。さらに燃費はケイマンSの10.5km/ℓに比べて11.5km/ℓと経済性に優れており、タンク容量は4ℓ小さいにもかかわらず、航続距離においてもわずかだがエヴォーラが優位に立つ。
ただひとつ、明らかにケイマンSが数値で上回っているのは、ラゲッジスペースの広さである。前後合わせて410ℓという容量は、リアに160ℓしかないエヴォーラとは比較にならない広さだ。しかし、実際の使い勝手は、リアシートに荷物を気軽に放り込めるエヴォーラのほうが上である。
エヴォーラのキャビンはこれまでのどのロータスとも異なっていて、最初のうちは違和感を覚えたほどだ。もっとも、相変わらずシンプルであることには変わりはない。とはいえエリーゼのそれと比べたら、格段に洗練された仕上がりだ。
しかし、ケイマンSと乗り比べてみると、エヴォーラのキャビンはケイマンほど合理的に整理されていないとすぐに気がつく。こういってしまうのはあまりに酷かもしれないが、エヴォーラをケイマンSと並べると、まだまだバックヤードビルダーのハンドメイドの域を脱していないと感じられる。
今回試乗した個体では、スクリーンへの写り込みからステアリングホイール上のアルミ製部品の組み付けの悪さにいたるまで、エヴォーラは仕上げの悪さが嫌でも目についてしまった。
官能的なポルシェのエンジン
次に、肝心の後席に乗り込んで、プラス2の座席を確認してみよう。身長が150cmを超える人は、まずまともに座るのは不可能であることが判明した。しかも、グラスエリアが皆無に等しいので、閉所恐怖症を引き起こしそうなほどタイトである。
実際には追加の荷物置き場程度に考えたほうがよさそうだが、残念ながら911ほどの使い勝手のよさは備えていない。もちろん、ケイマンSのシート後部にあるわずかなスペースよりは、間違いなく使える空間には違いないのだが。
さて、続いてエンジンを始動させてみよう。音も大きく活気に満ちていて、明らかにエキサイティングに感じられるポルシェの横に並ぶと、エヴォーラは奇妙なほどにおとなしい。トヨタ製V6は、レッドゾーンぎりぎりまできっちり回し切ったとしても、背後から左耳に入ってくるサウンドは、快調ながら抑制の効いた機械音に過ぎない。
これがケイマンSだと4000rpmから素晴らしいサウンドが響き渡り、最後の1500rpmまで実に気持ちのいい、胸躍らせる轟音が炸裂するのである。このように、エンジンに関していえば、エヴォーラはケイマンSに比べて魅力に欠けているのは拭いようのない事実だ。
エヴォーラに搭載されているトヨタ製のユニットは、エヴォーラを十分以上に速く走らせる仕事をこなしており、さらに低速から中速域でのレスポンスも素晴らしい。しかし、ポルシェに比べると味気なくて、オーラがまったく感じられない。ポルシェ製エンジンのような、エンジニアリングの粋を集めたサラブレッド的な存在ではなく、淡々と仕事をこなす農耕馬のようなエンジンといったらわかっていただけるだろうか。
完璧すぎてドラマに欠ける
しかし、乗り心地という点ではエヴォーラが上で、ステアリングは軽くてデリケートかつ正確である。このエヴォーラのステアリングを知ったら、ケイマンSのそれはまるで下品なマッスルカーのように感じられてしまったほだ。
ただひとつ、ケイマンSだけに備わった美点がある。エヴォーラはドライビングのドラマ性にまったく欠けているのだ。もちろん、シャシーはコーナーを攻めれば素晴らしい応答を見せてくれる。しかも完璧なステアリングで、息をのむほどに平静を保ったままコーナリングをこなすのだ。エヴォーラを運転していて退屈する暇なぞあろうはずもない。
エヴォーラが問題なのは、やることなすことすべてがあまりにも素晴らし過ぎるというその一点である。あまりにスムーズでリファインされ過ぎているので、コーナーからコーナーへと駆け抜ける身のこなしが、あまりドラマティックに感じられないのだ。
そのせいで自分がどれほど凄まじい速度でコーナーを抜けているのか、ときどきわからなくなってしまうほどだ。それと同時に、エヴォーラがどれほど見事にコーナリングをこなしているのかにも気がつかないだろう。さらに付け加えると、この日のようにウェットでバンピーな路面状況でコーナーがいくつも連続する場所では、エヴォーラがどれほどあっさりとケイマンSを置き去りにしてしまうかにも、気づくことはないだろう。
こうしたエヴォーラの凄さは、ケイマンSに乗り換え、まったく同じ道を走ってみたときに初めて気がつかされるのである。同じコーナーを抜けてみるだけで、エヴォーラのほうがはるかに優れていることが理解できるのだ。ステアリングのよりダイレクトな操舵感、特に前輪でその差が顕著に出てしまうグリップ感、そしてあらゆるコーナーでの並外れた限界速度の高さ─これらすべてにおいて、エヴォーラはケイマンSを凌駕しているのである。
総合的な魅力でケイマンSの勝利
加えて、ケイマンSの乗り心地はそれほど落ち着いたものではなく、タイヤノイズはかなりうるさく(高速道路で長距離を走る際の相棒としては、これはかなり快適性を損ねるだろう)、そしてトランスミッションの感触はエヴォーラほど甘美とはいかない。このそわそわした乗り心地は、路面状況に関係なく変わらない。つまり、どこを走ろうがどんなに努力しようが、ケイマンSの乗り心地を落ち着かせるのは不可能といっていいだろう。
さて、結論に入ろう。エヴォーラのほうが性能面では優秀なのはよくわかった。しかし、総合的なクルマの魅力では、まだケイマンSのほうが上にいると結論づけざるを得ない。
エヴォーラはまだ発展途上という感想を、わたしは払拭できないでいる。それは、インテリアなどの造りの品質をいっているのではない。これについては、いずれ解決されるという希望もあるので、今は目をつぶろう。そうではなくて、ここでわたしがいいたいのは、さらにスパルタンな別バージョンが登場するのではないかという可能性である。
つまり、さらに軽量化してパワーを強化し、もっとエンジン/マフラーともにサウンドをチューンして、そして望むらくはもっと運転していてスリルを味わえるような仕様のエヴォーラを、わたしは期待しているのだ。
もしそんなバージョンが登場してきたら、無敵のポルシェ・ケイマンSはもはや無敵ではなくなってしまうだろう。そのときはリベンジをかけて、再戦の場を用意することにしよう。
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