2018年9月にアウディ・ジャパンは、2代目となった「A7 スポーツバック」と、フラッグシップのラグジュアリーセダン「A8」を発表した。これは両モデルの日本導入のタイミングが同時になってしまった結果だ。しかも、エンジンやシャシー、ドライバー支援システムなどのユニットは共通ということもあって、「A7 スポーツバック」と「A8」が4ドアクーペとセダンの兄弟モデルという誤解が広まってしまっている。
しかし、この2モデルは出自が異なり、ポジショニングも全く違うモデルなのだ。そこで2モデルの違い、「A7 スポーツバック」独自のテイストを試乗を通じて体感してみた。「A8」については既報でこちらを参考にしてほしい。
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エグゼクティブのためのプライベートカー
A7 スポーツバックは、その名称通り4ドア+リフトバックを持つEセグメントの5ドア・クーペルックのエグゼクティブカーだ。フォーマルなセダンとは違って、エグゼクティブがプラベート・ライフを楽しむクルマといえる。ライバルはメルセデス・ベンツCLS、BMW 6グランクーペといったところだ。
全長4975mm、全幅1910mm、全高1405mm、ホイールベース2925mmと堂々たるボディサイズだが、エクステリアはまさにクーペのように後方に向かって緩やかに下降するアーチ型のルーフを持っている。ボディの表面は微妙な陰影が表現されており、アウディの最新のデザイン表現としてモダンさ、繊細さ、エレガントさ、シンプルさなどのデザイン要素を精緻に融合させた、デザイン重視のクルマでもある。A7 スポーツバックのボディフォルムの精緻さは、メルセデス・ベンツCLS、BMW 6グランクーペと比べてみると際立っていると思う。
試乗したモデルは、導入記念モデルの「A7 スポーツバック 55 TSFI First Edition」で、ダイナミック・オールホイール・ステアリング、ダンピングコントロール・サスペンション、バング&オルフセンのオーディオ、ドライビングアシスタンス・パケージ、マトリクスLEDライトなどのオプションをフル装備し、総車両価格は1058万円。トップグレードのA7 スポーツバック 55 TSFI S Lineの価格に近いモデルだ。
A7 スポーツバック 55 TFSIは、3.0LのV6直噴ターボを搭載している。これはA8 55 TFSIと同じパワーユニットで、ミラーサイクル運転を行ない、さらに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせ、減速回生、駆動アシストも行なっている。トランスミッションは7速Sトロニック、つまりDCTを採用しており、ATを採用するA8とは違っている。
また、クワトロ・システムは、A8はセルフロッキング式クワトロだが、A7は電子制の断続式クワトロを装備し、巡航時にはフロント・トランスファー後方のクラッチを切断しFF状態となる。このシステムは駆動トルク断続クラッチを前後2ヶ所に装備し、実走行における駆動抵抗を減らす仕組みだ。制御は数多くのセンサーからの情報をもとに、インテリジェントな制御システムが車両の走行状況を常に先読みして、より多くの駆動力が必要となる直前に2ヶ所のクラッチが素早く接続して4WDとなる。
ボディ、シャシーはA8は専用のASFプラットフォームだが、A7 スポーツバックはA4以上のクラスをカバーするMLB Evo(改良型・縦置きエンジン用モジュラープラットフォーム)を採用している。ただし、サスペンション・ユニット、ドライバー支援システムなどはA8と共通化されている。
他車では味わえない先進的なドライブ・フィーリング
さて、実際に走り出すとDCTトランスミッションと1350rpmから発揮される強大な500Nmのトルクで強烈に加速し、エンジンのレスポンスの良さも爽快だ。DCTは静止状態から動き出す瞬間のトルクフィールに滑らかさがないといわれることがあるが、このエンジンほどのトルクがあれば何ら問題はない。また0-100km/h加速は5.3秒と俊足だ。
シートポジションは低めで、ドライバーズカーであることを強調。インテリアの質感も新境地を切り開いて、A7 スポーツバックの先進性をアピールしている。インスツルメントパネルやメーターナセルのデザインはモダンさとシンプルさを追求し、このクラスに多い、過剰な装飾デザインを排除している。
特にセンターコンソールの上部(10.1インチ)と中央部(8.6インチ)に2段で配置された大型ディスプレイに操作系を集中させ、スイッチ類はほぼ無しにしたアイデアは先進的だ。なお大型タッチディスプレイはいずれもハプティック(触感反応)型で操作感を高めている。
試乗したモデルはダイナミックステアリング、ダイナミック・オールホイールステアリング、つまり可変ギヤ比のフロント・ステアリングと、後輪操舵システムを統合したシステムで、低速時には10.0を下回る超クイック・ステアリングで、後輪操舵と自動的に組み合わされ、最小回転半径は5.2mと驚くほど小回りが効く。低中速では大型なボディサイズを感じさせない軽快さ、俊敏さがあり、しかも走行中に後輪が操舵される不自然さがまったくないのは驚異的だ。
一方で、高速では操舵力もやや重めになり、直進安定性はきわめて高いが、ステアリングを切り込むとスパッと切れてボディが瞬時に応答する。直進安定性が高く、しかもその身のこなしが驚くほど軽快だ。だが、そのステアリングの切れ味の鋭さは、このA7 スポーツバックがスポーティなグランツーリスモ的な性格だとしても、このクラスにしてはやや過剰といえるほどで、その一因は20インチサイズのハイパフォーマンスタイヤにある気がする。
このタイヤサイズは乗り心地の面でも市街地や郊外の道路での路面の凸凹をかなりダイレクトに伝えてくる。高速域では気にならないが、日本は低中速での走行が多いのでちょっと気になるところだ。ヨーロッパ市場で選択できる18インチサイズなら、もっとしっとりしたフィーリングになるだろう。
ドライバー支援システムは、A8同様にミリ波レーダー、カメラ、超音波センサーに加えてLiDARを装備し、それらすべてのセンサーが専用ECUで統合制御される最新のADASシステムを備えている。そのため、アダプティブクルーズコントロールを使用しての走行でも、車線トレース性、前走車の追従性、加減速などの自動制御が安心感があり、作動も滑らかで完成度は高い。
A7 スポーツバックは、デザイン、新感覚の走行フィーリング、先進性などの面で独自の世界を作り出している。だれにでも買えるクルマではないが、その新しい世界に触れてみたい人にとっては気になるクルマだ。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
アウディA7 スポーツバック 諸元表
【価格】
アウディA7 スポーツバック 関連情報
アウディ 関連情報
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