世界的なクロスオーバーSUVブームの波を受け、空前の大ヒットとなっているトヨタC-HR。SUVとしては初めて車種別月販台数ランキングで1位を獲得し、今年上半期で同カテゴリーのライバルであるホンダヴェゼルを大きく抑え、クラスナンバーワンに輝いています。そんな人気のクロスオーバーSUVたちには、「その道」を切りひらいた先駆者がいました。
今から約30年前、1988年5月に発表された、スズキ・エスクードです。本稿ではその活躍と影響を、(クロスオーバーSUV全盛期の今だからこそ)振り返ります。
文:大音安弘 写真:SUZUKI
■ニーズを鋭く捉えたスズキ
1980年代後半から90年代前半の日本市場には、空前のRVブームが巻き起こっていた。「RV」といっても当時のそれは「クロスカントリー車」を指しており、三菱パジェロや日産テラノ、トヨタランクル、いすゞビッグホーンといった本格的オフロード性能と快適性を備えた高価なクロカン車が中心であり、年々バリエーションが拡大するマーケットとなっていた。
その「拡大するマーケット」に鋭く目を付けたのがスズキ。多くのユーザーたちが、そのスタイルを気に入り、オフロードだけでなく街乗りが中心となり、しかも女性ユーザーおよび「購入動機に女性でも利用しやすいこと」が一定以上の比率を占めていったことから、もっとカジュアルで街中でも扱いやすいクロカンがあってもいいのでは、と考えた。
そこで1988年5月に送り出したのが、初代エスクードだ。
発売当初は、3ドアのハードトップとコンバーチブルのみで、全長3560mm×全幅1635mmと実にコンパクト。エンジンも1.6Lの自然吸気と実用的なものだった。まさにジムニーの兄貴分的存在だったが、欧州テイストのスタイリッシュなスタイリングは、多くの人の心を惹きつけ、爆発的な人気となっていく。
オンロードを強く意識していたとはいえ、ロングセラーの軽クロカン、ジムニー開発のノウハウを最大限活用し、カッコだけのライトSUVとはせず、ラダーフレームを強固なボディと副変速機付きのパートタイム式4WDシステムを与えるなど、オフロード性能も手抜きはなかった。
もちろん、普段の扱いやすさと快適性を追求し、装備も充実していた。1990年には、より多目的に使える5ドア仕様のノマドを追加して使い勝手を向上。これがエスクードの人気を決定的なものにした。
■続々と大メーカーの後追いが登場しジャンル確立
トヨタもこの流れを追撃、より街乗りを意識した作りのRAV4を1994年5月に発売。扱いやすいサイズと洒落たスタリングはエスクードのコンセプトと共通していたが、こちらはモノコックボディで開発され、より乗用車ライクな仕立てであった。CMキャラクターに“キムタク”ことSMAPの木村拓哉が起用した広告戦略も話題となった。
さらに当時オデッセイなど新ジャンルの開拓に熱心だったホンダも追従を見せ、シビックベースに開発されたモノコックボディを持つCR-Vを投入。これによりライトクロカンのカテゴリーが確立され、現代の街乗り主体としたライトなクロスオーバーSUVの流れへと繋がっていく。
どちらも共通するのは、FFベースでありながら、発売当初は4WD車のみだったこと。当時の意識として、クロカンを名乗る以上4WDはマストという考えだったのだろう。
トヨタ、ホンダといった大手メーカーの参入により、エスクードの存在感は薄れてしまったが、結果としてこのカテゴリーは世界的ヒットとなり、初代エスクードは135万台を生産。同路線のRAV4とCR-Vも同様に世界戦略車として成功を収めていく。
初代エスクードが「クロカン」の名に恥じないタフでラフなオフロード性能を与えられていたことは、今となってはやや過剰、オーバースペックとも思える。現代において、クロスオーバーSUVの多くの車種での販売の中心はFF仕様だし、省燃費&安全装備がウリとなっている。
しかしその本物志向こそがエスクードの成功につながり、日本に「ライトSUV→クロスオーバーSUVは信頼性が高い」という土壌、基礎的な意識を根付かせるキッカケとなったのではないだろうか。
そう考えるとエスクードが果たした歴史的な意義は大変大きい。
なお、本稿は全体のトーンとして「故人を偲ぶ」みたいな雰囲気が出てしまっており大変恐縮だが、現在もエスクードは現役車種として活躍している。ハンガリーの工場で生産され、日本には輸入車というかたちで導入されており、2017年7月には1.4Lの直噴ターボを搭載した仕様が発売された。
スズキは今も、個性的なクルマを作り続け、新たなカテゴリーの開拓を模索し続けている。
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