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6年「放置」のフォルクスワーゲン・ビートル 60psの1302 Sを復活 記憶と違う絶好調

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6年「放置」のフォルクスワーゲン・ビートル 60psの1302 Sを復活 記憶と違う絶好調

ドイツ製ビートルでは最強の1302 S

記憶の限り、2013年の英国は異常な暑さだった。酷暑が続く9月の駐車場には、真新しいオペル・コルサとルノー・クリオが、狭そうに整列していた。

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アルミホイールとスポーツマフラーで飾ったホットハッチを並べて、痩せた若者のグループが、クルマ談義する様子は当たり前だった。ステレオデッキにAUX端子を追加する方法を考えたり、バス通学の友人を茶化したり。

そんな彼らを横目に、穴の空いたマフラーから偏屈な排気音を放つ、フォルクスワーゲン・ビートルに乗っていた筆者。家までクルマで送って欲しいと頼む友人3名を車内に押し込み、エンジンオイルが一定の温度に上昇するまで暖機する。

「歩いて帰った方が良かったかな」。「エアコンないね」。そんな本音が、彼らの口からこぼれた。

1972年式フォルクスワーゲン・スーパービートル、1302 Sは、大きく丸く膨らんだフロントノーズと、マクファーソンストラットを備えていた。クルマの説明をする時は、必ずといっていいほど、サスペンションはポルシェ924と共通なことを強調した。

ボディはソリッドで、シートや内装、ステレオデッキはオリジナルのまま。フェンダーは内側にもサビがないという、良好な状態も自慢だった。

エンジンは、歴代のドイツ製ビートルとしては最強。新車時なら60psを発揮し、0-80km/h加速は12.3秒で、128km/h以上での巡航も問題なかったようだ。当時のパンフレットによれば、だが。

祖父母のガレージで冬眠した6年間

油温の上昇を見計らって、大学の駐車場を出発。筆者がこのクルマに対して抱く気持ちを、友人はまったく理解していなかった。指定速度まで緩やかに加速し、信号待ちではラジオのボリュームを下げて、アイドリングの様子へ気を配った。

15分ほど進むと、長い登り坂。1年で最も暑いという日に、4人を乗せたビートルが頑張る。筆者の少し緊張した表情を見て、友人は大笑いする。

不安は的中し、頂上を越えた辺りで燃料ポンプが停止。ニュートラルに入れ、下り坂を利用して待避所へ寄せる。4人で汗をかきながら、レスキューが来るのを待つ。あれほど、心がヒリヒリした沈黙時間はそうない。

ビートルで追い越したバスが、次々に横を通過していく。困り果てた4人に気付いた同級生が、スマートフォンで撮影していく。筆者を残し、友人は最寄り駅まで歩いていった。

2024年に12年目を迎えた所有体験で、最も忘れられない出来事だ。大学から1番遠くに場所に住んでいた筆者は、足代わりに使われることが多かった。弱点と癖のあるクルマは、多くの友人から頼られ、ほぼ、楽しい時間を生み出してきた。

その後数年間、基本的なメンテナンスだけで、走行距離を2万5000kmほど増やした。しかし最終的に、信頼できるクルマが必要になり、祖父母のガレージで冬眠させることを決めた。

実際は、6年間放置した。電気系統と燃料系統の不調で、不動車になった。AUTOCARで仕事を始めると、最新モデルへ簡単に乗れる機会へ甘え、復活の機会を失っていた。

過去の記憶とは相容れない好調

そんなある日、英国のフォルクスワーゲンから連絡をいただいた。「創業70周年を祝う式典を計画しています。あなたのビートルを展示してみませんか」。なんと素晴らしい申し出なのだろう。

しかし、正直にお伝えした。「2017年以来、動かしていないんです」

展示の取り消しを覚悟したが、筆者が部品を用意するという条件で、専門の技術者が整備してくれるという。願ったり叶ったりとは、まさにこのことだ。

手配する部品を確かめてもらうと、かなりの数に登ることがわかった。燃料ホースと電気ケーブル、オイルやフルードなどは当然ながら、新しいステアリングラックも必要だと判明。運転席側のショックアブソーバーも駄目になっていた。

プッシュロッド・シールからはオイルが漏れ、アンチロールバー・ブッシュはカチカチだった。バッテリーも新調した。

タイヤも交換が必要だったが、ビートルの最適な仕様となると、ミシュラン・クラシックを選ぶことになる。これは、筆者がクルマの部品として購入した中では、2番目に高価なアイテムになった。

作業終了の連絡をいただき、整備工場へ向かう。「まったく問題ありません。1週間ほど走らせましたが、調子は良いですよ」。と、メカニックが笑顔で話してくれた。

キーを捻った瞬間に、フラット4は1発始動。元気なサウンドを響かせ、安定したリズムに落ち着く。正直なところ、過去の記憶とは相容れない。筆者が面倒を見ていた10年前は、どれだけ不調だったのだろう。

渋滞混じりの1時間のドライブを平然とこなす

筆者がAUTOCARで仕事を初めて以降、運転したことのある最も古いクルマは、ビートルを除けばアウディ・スポーツクワトロ。パワーアシストのない重ステと、滑らかに動かないシフトレバーの扱いを心配したが、200mも走ると身体の記憶が蘇ってくる。

ステアリングホイールは、切り始めの30度くらいが遊び。かなり予測的に腕を動かす必要がある。新しいミシュランは、しっかり路面を掴む。フロントノーズが軽いから、パワーステアリングは必要ない。

ブレーキもオーバーホールしていただいたが、現代のモデルと比べれば貧弱。30km/h以上でカーブを曲がると、笑ってしまうほどボディが外側へ傾く。

クラクションは、ボタンの特定の場所を押すまで鳴らない。ヒーターは、過去にケーブルを誤って切断していて、運転席側しか効かない。そんな事実も、改めて思い出す。

信号待ちでは、昔のようにアクセルペダルを軽くあおって、アイドリングを保つ必要はない。シフトダウンせずに、長い登り坂を70km/hで進める。舗装の剥がれた穴を通過しても、粗野な振動は伝わらない。しかも2車線の道路では、遅いクルマを追い越せる。

筆者の思い出の中にある、1302 Sではない。まるで新車のようだ。

ロンドンへ向かう、M1号線へ入る。スーパービートルは平然と、渋滞混じりの1時間のドライブをこなしてみせた。にわか雨に見舞われても、ワイパーとヘッドライトはしっかり機能。ウインドウシールから、雨水が染み込んでくる気配もなかった。

ビートルにとっては幸せな決断

自宅へ戻り、燃費を計算すると平均で9.6km/L。トヨタ・プリウスの半分にも及ばないが、大きなSUVよりずっと経済的だ。

それ以来、筆者はスーパービートルを普段の移動手段として乗り始めた。翌日は、ロンドンの外周を巡る環状道路、M25号線を見事に1周。週末には、買い物の足にもなった。

52年前のクルマだから、ロンドン中心部で適用される、ウルトラ・ローエミッション・ゾーンの通行料も取られない。このルール決めには、疑問が残るとはいえ。歩行者から、笑顔で見られる機会も多い。保険料は、ネットフリックスの料金並みに安かった。

オリジナルのビートルは、チャーミングな市民のクルマとして、再び活躍できると思った。特有の癖も、新鮮に感じられた。

ただし、これは過去の記憶。とある男性が、素晴らしい金額での買い取りを申し出てくれたのだ。これまでの思い出を彼に伝え、思い切って手放すことにした。大きなノイズを響かせガソリン臭い、古い工業製品だと、自分にいい聞かせて。

大好きだったが、ビートルにとっては幸せな決断だったと思う。今の筆者には、同時に複数台を維持する余裕がない。素晴らしい仲間との別れに、深く心が沈んだことは間違いないが、ベターな方向へ進んだと信じたい。

筆者のパートナーは、得られた利益で新しいトースターが買えると喜んでいる。早く温まるものを選ぼうと思う。

フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)のスペック

英国価格:985ポンド(1972年時)
最高速度:141km/h
0-100km/h加速:18.4秒
燃費:8.1km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:825kg
パワートレイン:水平対向4気筒1584cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:60ps
最大トルク:10.6kg-m
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)

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みんなのコメント

6件
  • kmq********
    同じ右Hでも、テールランプ等が微妙に違うのね
  • xqx********
    >サスペンションはポルシェ924と共通なことを強調した。

    世界最高のFRスポーツと称された944ターボでも基本は踏襲してたから中々の物だね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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