もくじ
どんなクルマ?
ー F32ベースの最後の限定モデル
ー チタン製エグゾーストにチンスポイラーのALPINAロゴ
どんな感じ?
ー パワーアップもB4 Sビターボのバランスはそのまま
ー ステアリングの剛性感や質感がさらに向上
ー 極めて深遠なエディション99の安定性
「買い」か?
ー 99名のオーナーが羨ましい
スペック
ー アルピナB4 S エディション99のスペック
最新G30系アルピナB5 vs BMW M5 スーパサルーン比較試乗 5シリーズのベストとは
どんなクルマ?
F32ベースの最後の限定モデル
F32型と呼ばれるBMW 3シリーズがベースとなるB4 Sビターボに、最後のスペシャルモデル、エディション99が登場した。BMW M4でいうところの、CSに値するクルマだと考えると良いだろう。
しかしBMWと異なり、生産台数は極めて限られている。アナウンスによれば99台が作られることになっているが、既にその大部分は売約済みだという。またボディカラーはつや消しのグレーかファイアオレンジが多いらしい。オレンジ色のクルマは、かつてアルピナがチューニングしニキ・ラウダがドライブした、グループ2に出場していた3.0CSLを想起させる。
価格は7万3100ポンド(1059万円)となっている。たとえメカニカルな部分で標準のB4 Sと大きな違いはなく、上乗せになった価格を支払ったとしても、ドライバーは失望することはないと思う。それほどの仕上がりだ。
搭載されるのは、原型はBMW製のN55と呼ばれる3.0ℓ直列6気筒エンジンだが、より高速で回転する2基のターボを取り付けるために、アルミニウム製のブロックは専用設計となっている。インタークーラーの容量も大型化され、オイルクーラーとラジエターも強化してある。
エディション99のためにエンジン・ソフトウエアも書き換えられた。最高出力は440psから452psへと増強され、最大トルクも67.0kg-mから69.2kg-mへと太くなっている。かなりのハイパワーだといえ、中回転域での圧倒的なパフォーマンスを約束してくれる。
チタン製エグゾーストにチンスポイラーのALPINAロゴ
標準のB4 Sビターボ搭載されているのば、アクラポビッチ社のエグゾーストシステムで、ステンレス製となり7.5kgが削られている。エディション99の場合はチタン製となっており、さらに7kgの軽量化が可能だという。テールパイプはマット仕上げで、逞しく4本出しとなっている。
鋳造より軽量で強固な鍛造の20インチホイールと、黒いセンターキャップも選択できるが、エディション99専用のエクステリア・コーディネートも可能。ウエストラインから塗り分けられる2トーンカラーに、フロントスカートにエンボスされた「ALPINA」のステッカーがノーズを引き締める。やる気をそそるエクステリアだ。
通常のアルピナと同様に、マニュアルの選択肢はなく、搭載されるのはZF社製の8速AT。車重は軽量とはいい難く、基本的には標準のB4 Sと同じ数字がスペックシートに載っている。カーボンファイバー製のボディパネルがふんだんにおごられたM4 CSと比較すると、後輪駆動にもかかわらず110kgも重たい1690kgとなっている。
仮に4輪駆動だとしても、強力なトラクションによって0-100km/hを4.2秒から3.9秒に短くできる反面、車重は更にかさんでしまうはず。
貴重なモデルを、オーストリアで確かめてみよう。
どんな感じ?
パワーアップもB4 Sビターボのバランスはそのまま
ドアを開けて目に飛び込んでくるのは、いつものアルピナとは少し違う空間だ。ハーフシェル型のシート中央に張られているのは、キルティング加工が施されたクリームレザーではなく、ハードコアなM4 CSなどと同じアルカンターラ。
従来からのステアリングホイールの裏側に備わっていた変速ボタンは、それなりの費用が掛かる、アルミニウムブロックからの削り出しによるシフトパドル。ステアリングホイール自体もアルカンターラが巻かれている。しかしインスツルメントパネルに見えるのは、いつもの青い文字盤による円形のアナログメーター。2019年のいまではクラシカルな景色だが、その魅力は衰えていない。目盛りは330km/hと7500rpmまでが振られている。
試乗が許されたのは、オーストリアはザルツブルクのサーキット。運転する時間も、路面の条件変化も、とても限られたものだった。クルマの秘めたパフォーマンスを充分に発揮させ、シャシーに加えられたチューニングを確かめるには、充分な機会ではあったけれど。ただし、アルピナB4 S エディション99はあくまでも公道を楽しむためのクルマ。サンルーフも付いていた。
走行パフォーマンスに関しては、疑う余地なく、基本的にはB4 Sビターボのハイライトと大きな違いはない。アルピナはターボ加給の特徴と利点をうまく引き出しており、中回転域での豊かなトルクを獲得しながら、ターボラグはほとんど感取されない。タメの時間を感じることなく、滑らかにパワーデリバリーが始まる。
ステアリングの剛性感や質感がさらに向上
エンジンが響かせるサウンドも良い。メカニカルサウンドを派手に唸らせながら回転し、極めて鋭い印象を与えつつ、とても民主化されてもいる。オートマティックも秀逸。変速スピードも速くスムーズで、高回転域でもしっかり追従していける許容量を備えている。ドライビングモードをスポーツモードにしても、デュアル・クラッチ・トランスミッションが羨ましく思えることはないはず。
ダイナミクス性能も他のアルピナと同様。サスペンションのスプリングもダンパーもレートが高められており、ラゲッジスペースのフロア剥がせば、Xの形状をしたブレースがフロアパンに固定されているのがわかる。加えてフロントのアンチロールバーとサスペンションを結ぶコネクティングロッドが、プラスティック製からスチール製のものに置き換わっている。
その結果、キャンバー角が大きくなっていることと相まって、99エディションはスタンダードのB4 Sビターボよりも剛性感が増していることが、ステアリング操作を通じて実感できるだろう。ステアリングホイールの切り初め、ほんの数度の範囲の動きは明確にシッカリ感が強くなり、レスポンスも向上している。
フロントタイヤとドライバーとのコミュニケーションは濃密で、ライバルメーカーの電動パワーステアリングを凌駕。開発予算は数倍も違うはずで、アルピナの努力は高く評価できる。とはいえ、B4 Sビターボのシャシーに手が加えられたといっても、内容は限定的。M4 CSやM4コンペティションと比較しても、柔らかな足腰を持っていることには変わりない。
極めて深遠なエディション99の安定性
ザルツブルクのサーキットは小ぢんまりとしており、ストレートも短い。452psを解き放てばどこまでも加速していくはずだが、充分3速まででもこのクルマの本質は体感できた。アルピナのフロントタイヤの接地感はスタビリティのお手本といえるようなもので、緊張感のないバランスとニュートラルさは特筆に値する。高速コーナーでは、正直標準モデルとの差は明確には感じられなかった。
だが、エディション99の安定性は極めて深遠。アクセルを蹴飛ばしリアタイヤへパワーを一気にかけても、クルマの挙動は激しく乱れることもない。わずかなスリップアングルを保ちつづけるだけ。つまり、相当に攻め込んだ走りを簡単に楽しめるということでもある。ロードーカーとして、非常に優れた性格付けだといえる。
ちなみに、トルク感知型のリミテッド・スリップデフはオプション装備。3000rpmも回せば69kg-m以上のトルクが湧出するから、コーナーでの立ち上がりをスピーディにエレガントに決めたいのなら、ドレクセラ製のLSDはぜひに選んでおきたいアイテムだ。
最後にもうひとつ。もしアルピナがシフトパドルをこれからも採用するのなら、クリックのタッチは改善したほうが良い。指先へ伝わる感触を明確に、操作へのフィードバックが欲しいと感じた。
「買い」か?
99名のオーナーが羨ましい
エディション99は2019年を代表するクーペになるだろうか。アウディRS5やメルセデス-AMGと、スペックシート上では劣っていても、それを超える走りを叶えてくれるだろうか。その可能性は充分にあると考えている。
たとえ鮮明なデジタル・インスツルメントを備えていたとしても、複雑で先進的なオンデマンド・シャシー制御技術を備えていたとしても、走りの本質を変えることは難しい。アルピナB4 S エディション99には、クルマとして本質的な、工学的に考え抜かれた抜群の骨格を備えている。これこそがアルピナの資質だ。
電子的なギミックを必要としなくても、インテリアの雰囲気は素晴らしい。人間工学的にも一切の不満は感じられない。輝きを増したパワートレインに、穏やかで自然な挙動のシャシーバランス。そこに、路面を問わない突出した柔軟性が加わり、アルピナ唯一の仕上がりを得ている。
毎日乗れる超高速なロードーカーとして、ダイナミクス性能と洗練生徒のスイートスポットを突いたクルマがB4 S エディション99だ。天候も問わず、長距離ドライブもいとわない。それでありながら、控えめでMのように多くの台数が出ていないことが、一層このクーペの訴求力を高めている。
恐らくこのクルマのオーナーは、手に入れてもしばらくは手放さず、自身が思う存分楽しむはず。それほどの魅力と完成度を備えていると思う。オーナーが羨ましい。
アルピナB4 S エディション99のスペック
■価格 7万3100ポンド(1059万円)
■全長×全幅×全高 4640✕1825✕1370mm
■最高速度 306km/h
0-100km/h加速 4.2秒
■燃費 -
■CO2排出量 -
■乾燥重量 1690kg
■パワートレイン 直列6気筒2979ccツインターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 452ps/5500-6250rpm
■最大トルク 69.2kg-m/3000-4500rpm
■ギアボックス 8速オートマティック
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