今、自動車業界は100年に一度の変革期を迎えている。脱炭素社会を実現するため、世界の自動車メーカーがEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)へのシフトを鮮明に打ち出してきた。
温暖化に敏感な国はCO2(二酸化炭素)排出量にこだわり、ゼロエミッションのEVを優遇する戦略をとるようになっている。ハイブリッド車を含むエンジン搭載車の販売禁止を打ち出す国も増えてきた。
究極的に速いFFがあっても魅力的なのはFR!? BMWはなぜ今でもFRにこだわるのか?
しかし、高回転まで気持ちよく回り、官能的な排気サウンドを放つ内燃機関のガソリンエンジンに魅せられているカーマニアは今も多い。
電動化の前に、最高に気持ちいいエンジンのクルマに乗っておきたい、と思っている人は少なくないはずだ。排ガス規制や音量規制が厳しくなっているから、独特の味わいを持つ気持ちいいエンジンは年を追うごとに少なくなっている。今が最後のチャンスだ。
さて、そんな人に、最高のエンジン車として、片岡英明氏がお薦めするのが、直列6気筒エンジンと、ロータリーエンジンである。
文/片岡英明、写真/トヨタ、日産、マツダ、BMW
【画像ギャラリー】このフィーリングとサウンドを記憶に焼き付けろ!! 直6&ロータリーよ永遠に!!
■かつて高級車の代名詞と言われた直6エンジン
直6エンジンにこだわり続ける自動車メーカーといえばBMW。写真は 1977~1989年まで生産された、世界一美しいクーペと呼ばれたBMW635CSi。搭載された3.4L、直6エンジン(218ps/31.0kgm)は、まるで絹のようになめらかに吹け上がることから「シルキーシックス」と呼ばれ、ファンを魅了
1996年10月~2001年10月まで販売されたJZX100系チェイサーツアラーV。FRで280ps/38.5kgmを発生する1JZ-GTE型2.5L、直6エンジンに5速MT(4速ATもあり)ということで人気に火が付き、現在でも高騰中
ひと口にエンジンといっても、種類は多く、メカニズムも違う。上質なパワーフィールや高性能という点から見ていくと、多気筒のマルチシリンダーに行きつくのである。
スカイラインの開発責任者として知られる櫻井眞一郎さんは、「生半可な性能のクルマではGT-Rとは呼べないんです。時代の先端を行くメカニズムを採用し、ライバルを圧倒するクルマでないとGT-Rは名乗れません。
復活の声が何度も出ますが、安売りしちゃいけないと思います。それにスカイラインのフラッグシップだから直列6気筒DOHCエンジンは必須で、4気筒エンジンじゃダメなんです」と語っている。直列6気筒エンジンが、当時、最高峰に位置づけられてきたのがよくわかる。
バランス感覚のいい8気筒や12気筒エンジンには大いにそそられる。だが、高価で重く、そして何よりも大きい。となると、かつては高級車用パワーユニットの代名詞と言われた6気筒エンジンから選ぶことになる。
また、往復運動ではなく回転運動によってパワーを絞り出すロータリーエンジンという選択肢もなくはない。そこで量産6気筒エンジンとロータリーエンジンの最高傑作を、筆者の思い入れを交え、選んでみたいと思う。
6気筒エンジンは、大きく分けるとV型6気筒と直列6気筒、そしてポルシェとスバルが採用した水平対向6気筒になる。多くの人が慣れ親しんだのは、優れた回転バランスに加え、回したときには快音を放つ上質な直列6気筒だろう。
このレイアウトは高出力化しやすいし、振動性能に優れた完全バランスエンジンなので古くから存在した。4気筒エンジンと同じように、1気筒の単室容積は400~500ccが最適だといわれている。抵抗を減らせるし、熱の問題も出づらいからだ。
が、実際に運転して見ると、2Lの直列6気筒エンジンは低回転域のトルクが細く、同じ排気量の4気筒エンジンほどパンチがない。
自然吸気のL20型(日産)や1G-G型(トヨタ)は、多くのユーザーが「実用域のトルクは細く、一緒に加速すると4気筒エンジンに負けてしまう」と嘆いていた。スムーズで静粛性が高いこともガーンとくるストレートな刺激を感じさせない理由のひとつだ。
となると、理想的なエンジンは排気量が黄金比に入る2.4Lから3Lの直6かもしれない。直列6気筒の名作を多く生み出しているBMWのシルキー6は、この枠の中に入るだろう。
だが、排ガス規制や音量規制が原因だろうか、最近の直列6気筒エンジンでは、ドラマチックなエンジンはないように感じる。また、アルミブロックが主流になったこともサウンドが官能的でなくなった理由か!?
BMW M1はグループ4やグループ5に参戦するために1978年に登場。搭載される3453ccの直6エンジンは277ps/33.7kgm(公道仕様)を発生
個人的に直列6気筒エンジンで、最高だと思っているのはBMWのM1に搭載された「ビッグシックス」だ。黄金比を超えているが、レーシングユースを想定していた3.5LのDOHCドライサンプエンジンは高回転まで回すと素晴らしい音色を奏でた。
ミドシップは音色が悪くなることが多いが、M1は例外だ。実用域のトルクも厚みがあり、気持ちいい。自然吸気ならではのダイレクトな応答レスポンスに加え、高回転まで気持ちよく回る。そして鋳鉄ブロックならではの心地よい音色に酔えるから、この系統の「ビッグシックス」に引き込まれてしまうのだ。
日本の直列6気筒エンジンでは、トヨタの1JZ-GTE型直列6気筒DOHCを搭載するX100系のチェイサーツアラーVは相変わらずの人気だ。
軽量なセラミックタービンによる鋭いレスポンスと、当時としては圧倒的に少ないターボラグが魅力で、排気音の美しさについても定評があった1JZ-GTEは、まさに時代を代表した名機といえる。
個人的には、2JZ-GE型直列6気筒DOHCより音色がよく、チューニングの潜在能力も高い日産のRB26DETT型直列6気筒DOHCエンジンに惹かれる。GT-Rに搭載されている2568ccのエンジンだ。
セラミックタービンを組み込んだツインターボで、6連スロットルチャンバーやシーケンシャル電子制御燃料噴射システムなどを採用した。滑らかさと高回転のパンチは世界トップレベルで、音色もそれなりにいい。レース仕様は600psだからチューニングしても壊れない設計なのも凄いところだ。
RB26DETTエンジンはR32、R33、R34GT-R、初代ステージア260RSに搭載された
写真はR34GT-RのファイナルモデルのニュルのRB26DETTエンジン。N1仕様をベースに専用チューニングが施されていた。ゴールドのヘッドカバーが特別感を強調
■やはりロータリーエンジンを今のうちに味わっておきたい
1990年4月~1995年8月まで生産されたユーノス・コスモ。世界初の市販車用3ローターエンジン「20B-REW(654cc×3)」そもそも最高出力333psで設計されていたが、当時の運輸省から横やりが入ったことで、280psの国内自主規制値(当時)にデチューンしたうえで発売されたという逸話を持つ
レシプロエンジンに挑戦したロータリーエンジン(RE)にも猛者がいる。REは往復運動ではなく回転運動だから滑らかに回るし、クルージング時は静粛性も高い。
また、パーツの構成点数が少ないため軽量かつコンパクトに設計できる。優れた整備性も美点のひとつだ。だが、2ローターのREはエンジン音がいま一歩だった。ときめかないのだ。
とくにレース用にチューニングしたREは高回転でビーンビーンと耳障りなエンジン音を奏でる。この反響音の大きい、個性的な音色を好きになれない人も多かったはずだ。
だが、その悪評を一変させたのがマルチロータリーである。レース用に開発された3ローターと4ローターのREは、サーキットで官能的なサウンドを奏でた。
ストレートを駆け抜けるとき、カーンと突き抜けたサウンドを放つREは身震いするほど感動的だった。富士スピードウェイの長いストレートで何度も耳にしたが、これは芸術作品だ。
が、4ローターのREはレーシングカー専用で、量産車には積まれていない。だが、3ローターのREは存在する。1990年4月に発売されたユーノス・コスモに搭載された20B-REW型エンジンだ。
世界初となる3ローターの20B型ターボは280psの最高出力と、41.0kgmという怒涛の最大トルクを発生した
量産エンジンとしては世界初の3ローターREで、単室容積654ccのREを3つ重ね、これにシーケンシャルツインターボを組み合わせた。低回転時は1基だけ、高回転時は2基稼動させ、全域にわたって高効率の過給を行う。
パワースペックはロータリー最強の280ps/41.0kgmだった。トランスミッションが3モード切り換え式の電子制御4速ATだったため、迫力はない。
だが、ひと鞭当てると豪快な加速を披露する。最高出力は280psだが、これはお役所からのお達しによってデチューンしたため。最初の予定では300psをはるかにオーバーしていた。
ロータリーエンジンは低回転域のトルクが細いと言われるが、3ローターREはトルク感が際立っていた。しかも驚くほど滑らかだ。
静粛性も高いが、高回転まで回すと性格を変える。モーターのような、それまで味わったことのない異次元の加速を見せるのだ。素性のよさと王者の片鱗を見せ、耳に心地よいサウンドを奏でた。REの最高峰と言えるだろう。
■世紀のロータリーエンジンの名車、FD3S型RX-7
2002年4月、RX-7最後の限定車「スピリットR」が発売された。写真は2シーター5速MT仕様のタイプA
255psでスタートした13B-REW型エンジンは、4型で265psに、5型で280psにパワーアップ
しかし、20Bのユーノス・コスモの生産台数は少なく、現在では手に入りづらい。そうなると、生きているうちに乗っておきたいロータリーエンジン搭載車は、やはりFD3S型のRX-7になるだろう。
人馬一体のシャープな動きとニュートラルなハンドリングを身につけた3代目のFD3S型RX-7は操る愉しさに満ちているからだ。
パワーユニットは、大きく進化させた2ローターロータリーの13B-REW型だ。単室容積654ccの2ローターで、これに低回転時は1基だけ、高回転時は2基稼動させるシーケンシャルツインターボを装着している。
最高出力は255ps/6500rpm、最大トルクは30.0kgm/5000rp。全域にわたって高効率の過給を行い、滑らかで力強い加速を実現していた。パワーウエイトレシオは4.9kg/psと、当時としては世界トップレベルにあった。トランスミッションはクロスレシオの5速MTと電子制御4速ATを設定する。
サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーンの4輪独立懸架だった。アーム類やリンクにはアルミ材を使用し、高い剛性を確保しながら軽量化を図っている。ロータリーエンジンをフロントミッドシップに搭載し、軽量で重心も低いからシャープなハンドリングを披露した。
クルマはステアリングを切った通りに正確に向きを変える。限界は驚くほど高く、攻めの走りが似合うスポーツクーペだった。運転席に座った瞬間から「もっと速く走れ」とドライバーを急かせる。そんなクルマだった。
無駄な動きのないシャープな走りが最大の持ち味だった。ヒール&トゥを駆使して最適なギアを選び、ブレーキングもほどほどにステアリングを切り込んでコーナーを駆け抜ける。スムーズな走りよりもリズムに乗ったダイナミックな走りが似合っているのだ。
だが、初期モデルと中期モデルは限界付近の挙動がピーキーで、油断すると一気に挙動が乱れる。乗りこなすには繊細なテクニックと大胆さが要求されるが、これが魅力のひとつでもあった。
FD3S型RX-7はマイナーチェンジのたびに進化を続けている。1995年春にリアスポイラーのデザインを変更し、大径のブレーキを採用した「タイプRZ」も加わった。
1996年1月にはエンジンにメスを入れ、最高出力を265psにパワーアップしている。そして1998年12月にはついに自主規制枠いっぱいの280psに達し、最大トルクも32.0kgmに引き上げられた。
シャーシを強化したファイナルバージョンが送り出されたのは2000年12月だ。そして2002年8月、排ガス規制への対応が難しいと判断し、RX-7の生産は終了した。
マツダも電動化への対応を迫られており、もはや駆動用としてのロータリーエンジンはこの先出てこないだろう。
理想は、2017年の東京モーターショーで公開されたRX-VISIONにロータリーエンジンを搭載し、デビューすることだが、どうやら難しそうだ。
2017年の東京モーターショーで公開されたマツダVISION-COUPE。ロータリーエンジンを搭載した、こんなにも美しいデザインの4ドアクーペとして登場したら……
■マツダは発電用ロータリーエンジン搭載車を2022年春に発売!
昨年11月の「中期経営計画見直し」の公表時に公表された電動化マルチソリューション。2022年にラージ商品群向けのマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドと、並びにロータリーエンジンを活用したマルチ電動化技術を導入することを公表
2021年6月17日に公表された、2030年に向けた新たな技術・商品方針
2022年前半にはMX-30にロータリーを使ったHVとPHEVが設定される。このMX-30ロータリーREXにはロータリーエンジンが搭載されるが発電専用。駆動用ではないが、ついにマツダのロータリーエンジンが市場に復活することになる
2022年春、MX-30のHEV(HV)とPHEVのエンジンとして、ロータリーエンジンが復活する。このロータリーエンジンは発電専用で、日産のe-POWERと同じく、駆動する動力はバッテリーのみとなる。
つまり、ロータリーエンジンを駆動力とするストロングハイブリッドはなく、発電機用として復活するのだ。
しかし、ローターを2~4つ並べることができるため、駆動に使うパラレルHEV(HV)やPHEVとしても使うこともできるので、将来的に駆動用のロータリーエンジンが登場する可能性もある。
現実的には、ロータリーエンジンが駆動力として使われるのは、水素ロータリーやe-Fuelが登場した時になるだろう。
水素ロータリーに関してだが、ロータリーエンジンは構造上、ヒートスポットができないことから水素燃料との相性がいい。マツダは30年以上も開発を続けていることから、水素ロータリーの実用化も充分考えられる。
2021年6月17日、マツダは2030年に向けての商品戦略の方針説明を行ったが、この戦略のなかに、2030年時点で電動化比率100%とし、そのうち純電気自動車(BEV)を25%と想定していると発表。
75%は内燃機関+電動化技術(HEV、PHEV、レンジエクステンダーEVとし、2025年までにBEV3車種、PHEV5車種、HEV5車種をグローバルに投入すると公表した。HEVに関しては、マイルドHEVは含まないが、トヨタからOEM供給を受けるモデルも含まれるとしている。
ロータリーエンジンのマルチ電動化技術はスモール商品群に搭載予定
■マツダからラージクラスの直6+FRが登場!
上は2015年の東京モーターショーで公開されたRX-VISION、下は前回の東京モーターショーで公開されたVISION COUPE
2022年春に登場予定のマツダ6が直6+FRの第一弾となりそうだ(CGイラストはベストカーが製作したもの)
そして、俄然期待が高まるのはマツダの直6+FR。マツダはついにラージ商品群の縦置き直6+FRのプラットフォームを公開したからだ。
さらにガソリンエンジン+48VマイルドHEVとPHEV、ディーゼルエンジン+48VマイルドHEVの画像を公開したことで、その対象となるマツダ6、CX-5、CX-8、CX-9の次期モデルはこれらのパワーユニットを搭載することが明らかになった。
そのラージ商品群第一弾がいよいよ、新型マツダ6として2022年春に登場する。直6エンジンはSKYACTIV-G(ガソリン)/D(ディーゼル)/X(ガソリンSPCCI)で、直4エンジン(縦置き)はSKYACTIV-Gのみ。排気量は直6が3L、直4が2Lとなる。
2020年11月に行われた決算説明会で公開された、マツダのラージ商品群(エンジン縦置き)のエンジン。左がガソリンの直列6気筒ターボ、右がディーゼル直列6気筒ターボ、中央が直列4気筒+PHEVのパワーユニット
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今では100万円以内で買えたあの頃が嘘のよう。