この記事をまとめると
■ブレンボがインテリジェントブレーキシステム「SENSIFY」をお披露目
もはや高性能ブレーキといえば世界中で「ブレンボ」一択! いかにして「ブレーキの王様」に成り上がったのか?
■従来の油圧制御ではなく電子制御のブレーキシステムとなっている
■油圧制御より緻密な制御が可能で、さまざまな車種に搭載することができる
ブレンボが最新のブレーキシステムをお披露目
8月2日、ハイパフォーマンスブレーキメーカーとして知られるブレンボが新世代自動車向けインテリジェントブレーキシステム『SENSIFY(以下:センシファイ)』を日本向けに発表。あわせて試乗会が行われた。
ブレンボが発表したセンシファイとは、ブレンボ社が長年作り熟成を重ねてきたブレーキキャリパー、ブレーキローター、ブレーキパッドなどのハードウエアとしてのブレーキシステムをブレーキバイワイヤー化。独自に開発したAIシステムを組み合わせることで作り上げた新世代の電子制御ブレーキシステムだ。
現代の自動車は、ABS、トラクションコントロールから進化したESC(横滑り防止装置)、さらに最近では運転アシスト系の自動ブレーキ制御、EVやハイブリッド車用の回生協調ブレーキなどまで制御できるようになっている。
今国内でブレーキ制御システムのメーカーとして、ボッシュ、アドヴィックス、コンチネンタルなどが大きなシェアを占めているが、今回ブレンボが発表したのは、簡単に言ってしまえば、前述メーカーが得意とする電子制御ブレーキシステムだ。ただしブレンボでは、単に先行メーカーに追随しているわけではなく、センシファイを従来の制御システムを超える次世代のシステムと位置付けている。
センシファイを改めて説明しておくと、このシステムはブレーキ・バイ・ワイヤーであり、このバイワイヤーシステムは各ブレーキごとにコンパクトな制御ユニットを持っている。そしてこれをAIを用いた統合制御ユニットでコントロールするシステムだ。
ブレーキユニットは現在2タイプ用意されている。ひとつは従来のブレーキキャリパーを使うタイプ。油圧駆動ユニットを各輪直近に配置し、そこからキャリパーまで油圧系統がつながっている。ウエットタイプと呼んでいる。油圧を使ったブレーキシステムだが、長いパイプラインを必要とせず、設計の自由度が広いのが特徴で、スポーツカーやハイパフォマンスカー向けのユニットとされている。
もうひとつはセンシファイの真骨頂ともいえるシステムだ。ドライタイプと呼んでいる。
ブレーキキャリパーに直接ステップモーターと駆動ギヤを取り付ける構造で、ブレーキペダルからの信号を統合制御ユニットを介してブレーキキャリパー部の駆動部に送られるというもの。
これはコンパクトカーからEV、スポーツカーにまであらゆるタイプのクルマに搭載可能だという。そして、システムの構造上、ブレーキの引きずりをほぼゼロにすることができるので、ブレーキの引きずりロスを低減することもできるとのこと。キャリパー部に駆動部を取り付けるため、ブレーキレイアウトの設計自由度が高いうえ、軽量で作動レスポンスが良いのが特徴となっている。
試乗会ではテスラ・モデル3が2台用意されていた。1台は市販のモデル3。ちなみにブレーキユニットは純正でブレンボが採用されている(ESCはボッシュ製)。
もう1台は前輪にウエット、リヤにドライタイプのセンシファイが組み込まれていた。またABSやESCなどブレーキ制御システムもすべてセンシファイのプログラムで作動するよう改造されていた。
悪条件で「SENSIFY」の高性能っぷりが明らかに
試乗コースでは、いくつかのブレーキとハンドル操作だけで障害物を回避するコースが用意されていた。
まず感心したのは、ブレーキペダルフィールの良さだ。タッチが自然だし、途中から踏力を変化させたときの制動力が変化の正確度が高かった。ブレーキ踏力の微妙な操作に対する応答も繊細で、バイワイヤーのブレーキを操作しているという違和感がない。
またブレーキの利きが強く感じられたということも、このシステムの性能を語るうえで重要だと思う。
80km/hからのフルブレーキ+障害物回避
ABSを効かせながらハンドル操作で障害物を回避したが、ノーマルのモデル3だとABSの振動とそれに伴うブレーキの断続感が強く感じられた。センシファイは振動が少なくブレーキの断続感が少なく、タイヤが断続感なくベタッと路面をとらえているような強い制動感と安定性が確認できた。
110km/hからの単純制動
80km/hの障害物回避と同様、ABS振動が少なく、ブレーキの断続が従来のABSより少なくベターッと路面をとらえ減速している感触がある。この印象は旋回中のフル制動でさらに顕著だった。
60km/h・80km/hでの旋回ブレーキ
スタンダードのモデル3では、コーナリング中のフルブレーキはブレーキペダルを踏んだ瞬間一旦クルマが外柄に膨らむような動きを見せた。印象としてカーブの外側のタイヤにかかる負担が大きい印象がある。これに対してセンシファイのコーナリングブレーキでは、スタンダードと比べ、イン側のタイヤがより仕事をしているような印象を受けた。そのためか安定感があるようにも感じられた。
左右のブレーキの利かせ方……つまりセッティングの違いは左側ウエット路、右側0.4μのスプリット路面で試してみると顕著に表れた。
左ウエット路/右0.4ミュー路のスプリット路面でのフルブレーキ
スタンダードでは、グリップのいい左側に少しハンドルがとられるため真っ直ぐ止まるためには軽い当て舵が必要だった。センシファイで試してみるとハンドルの取られ具合がさらに強くクルマが左に持っていかれた。
これはつまりグリップの余裕のある側に最大限ブレーキをかけている証拠。その度合いがセンシファイのほうが強かった。
70km/hからのステアリングによる緊急回避
直進状態から障害物手前で勢いよくハンドルを右に切り、右に障害物を避け、再び元のレーンに戻る操作。 このステージでは、コースがあまりタイトではなかったのでそれほど大きな差は出なかったが、ハンドルの利きは明らかにセンシファイのほうが良かった。
試乗で感じられた差は、市販車に搭載するためさまざまな路面で破綻なく性能が発揮できるようにセットアップされたものと、ブレーキ制御性能をわかりやすくセットアップしたプロトタイプモデルの違い、と言えなくもないのだが、1つ言えるのはセンシファイが市販搭載されているESCシステムを上まわる制御能力を示したことだ。
ブレーキ制御性能は、最終的には自動車メーカーがその味付けやサジ加減をおこなうので、完成品のように単純に両者の優劣は決められない。大切なのは、自動車メーカーが求める性能を発揮できるかどうかということ。その点において、単純で短い試乗コースで市販モデルと同等以上の性能を示せたということは、センシファイがかなり高い性能を秘めていることの証左だと言えるだろう。
とくに、ブラシレスモーターと専用ギヤを使ったブレーキメカニズムによる作動レスポンスの速さと正確性は、これまで以上にブレーキ制御システムのチューニングの幅を広げることができる可能性を秘めていると思う。最終的には自動車メーカーに採用になって初めて日の目を見ることになるので、そのときを楽しみにしたい。
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