最近は、車両制御技術やタイヤといったものの性能が向上したし、万人向けに安定志向のセッティングに振っているクルマも多い。
しかし、クルマはヤンチャで刺激的なほうが面白い…、そんな風に思っている方も多いのではないだろうか? とはいえ、それも程度が過ぎれば、手が付けられないじゃじゃ馬車でしかなくなってしまう。
【キックス フーガ エクストレイル ジューク Z】 日産の「2020」以降を追え!!!
今回は、デビュー当初に試乗し、強い個性と魅力を感じたが、そのじゃじゃ馬具合に思わず驚いたクルマについて、デビュー時の素性とその後どのような改良がされたのかを、鈴木直也氏に語ってもらった。
危うさを持ちながらも魅力的だったクルマたちの、本当の姿を知っていただきたい。
文/鈴木直也
写真/NISSAN、MAZDA、HONDA
【画像ギャラリー】ほかにもあった! 取り扱い注意のじゃじゃ馬車たち
■トヨタ MR2(SW20型)
トヨタ MR2(SW20) 1989年発売
日本初のミッドシップスポーツとして、1984年にデビューした初代MR2(AW11)は、あえて穏やかに味付けしたシャシー特性や、トルクの細い4A-Gのエンジン特性などによって「楽しいけれど刺激が足りない」というのが大方の評価だった。
それをバネに奮起したのかは定かではないが、1989年デビューの2代目MR2(SW20)は、最強モデルに3S-Gターボ(225ps/31kgm)を搭載するなど大幅にパワーアップ。本格派ミッドシップスポーツにチャレンジしたのだが…。
パワーアップに見合ったシャシー強化が行われたとは言い難く、操安性に深刻な問題が発生。最初の試乗会はヤマハのテストコースで行われたのだが、レース経験豊富な腕利きジャーナリストがいきなりクラッシュするなど、参加者全員がそのハンドリングに首をひねるクルマとなってしまったのだ。
ヨー慣性の小ささを感じさせる機敏な回頭性や横G限界の高さは、さすがミッドシップと感じさせるものの、タイヤが滑り出し始めてからの過渡特性はきわめてナーバス。
2400mmという短いホイールベース、量産車流用(ST160系セリカ)の足回り、LSDのないオープンデフなど、原因はいくつも考えられるが、チーフエンジニアがスポーツカーをまったく理解していなかったのが根本的な問題だったと言わざるを得ない。
その後、SW20は10年にわたって生産されるのだが、後半はマイチェンのたびにシャシーの改良を実施。1993年のいわゆる3型以降でなんとかハンドリングに及第点を与えられるクルマになり、1997年の5型でほぼ完成の域に達したと評価できるまで熟成された。
途中でギブアップせず、開発を継続したのはさすがトヨタだが、それだけに初期型のジャジャ馬っぷりが際立つクルマだった。
■ ホンダ インテグラタイプR(DC2型)
ホンダ インテグラタイプR(DC2) 1995年発売
1995年に登場した初代インテグラタイプRは、NSXの開発責任者を務めた上原繁さんの“お遊び”からはじまった。
当時のホンダは経営状態が思わしくなく、RVを他社からOEM供給してもらうような情けない状態。
エンジニアを腐らせないため「いっちょインテグラをベースに、自分が欲しくなるようなスポーツバージョンでも作ってみるか?」という上原さんのかけ声で開発がスタートした。
それを象徴するのが、初期モデルのエンジン(B18C)で行われていた手作業のポート研磨。当時上原さんは「コレやると上のほうで数馬力違うんですよー」と笑っていたが、大マジメな量産モデルというよりは「シャレで少量見るみる作ってみる?」というニッチ狙いのクルマだったことは間違いない。
ところが、ホンダの好き者エンジニアが「自分たちが欲しくなるようなクルマ」を作ったのだから、それが悪かろうはずがない。
まずその楽しさに気づいたのは、箱根や筑波サーキットでテストしたわれわれジャーナリスト。そして、すぐさま熱狂的に賞賛する記事がメディアを通じて拡散し、予想を超えるヒットとなっていく。
そうなると、ホンダも本腰を入れて量産体制を整える必要に迫られ、タイプRのバリエーションも増える。
インテRそのものも、1998年スペックでボディ補強を含む大幅な改良を実施し、さらに上を目指して走りの完成度は高まってゆくわけだ。
ところが皮肉なもので、改良を実施すればするほど初期インテRの魅力だった「好き者が作ったジャジャ馬」っぽさは薄れ、ただの「速いクルマ」に変わってしまう。
速さだけにとらわれるとスポーツカーは飽きられる。やっぱり作り手側の情熱が大事ってことでしょうかねぇ?
■マツダ サバンナRX-7(SA22C型)
マツダ サバンナRX-7(SA22C) 1973年発売
若いみなさんはご存じないかもしれないが、初代RX-7(SA22C)がデビューした1978年は、スポーツカー好きにとっては“暗黒時代”といってもおかしくない悲惨な状況だった。
1973年に勃発した第一次石油ショックと、それに続く厳しい排ガス規制の嵐。これによってスポーツカーは、その命運を完全に断たれた格好で、『もう、スポーツカーとは永久にお別れか?』と、誰もがマジでそう思っていた。
そこに突然登場した初代RX-7の登場は、まさに暗黒時代の終りを告げる救世主。ここから90年代に頂点を迎えるスポーツカーブームが始まった。そう評価できるほど画期的なクルマだったのだ。
クルマそのものに関しては、初代RX-7に用いられた技術は平凡だ。
核となるロータリーエンジンが、排ガス規制をクリアしてパワーを取り戻したのは大きな魅力だが、シャシーは古いサバンナGT(RX-3)のものを流用。そこにリトラクタブルライトのスポーツカーボディを載せただけといっても間違いではない。
しかし、その走りのシャープさは当時のレベルとしては圧倒的にスポーティ。
アンダーステアと格闘しながら曲がるのが当り前だったこの時代、ロールらしいロールもなく、ほぼニュートラルステアといっていい姿勢でコーナリングするRX-7に、われわれジャーナリストは心底びっくりさせられた。
ただし、初期モデルのこのアンダーステア・ゼロの味付けはさすがにやり過ぎだったようで、最初期モデルのサーマルリアクター仕様から希薄燃焼、そして6PIへと、12Aロータリーが改良を受けるたびにシャシーセッティングもマイルド化。
大ヒットしてユーザーの裾野が広がったことに対応して、そのじゃじゃ馬っぷりが影を潜めてゆく。
ただ、これは決して悪いことではない。シャシーの改良にこだわり『スポーツカーは育てるもの』という開発体制がはじまったのは、まさにこの初代RX-7から。それが現代にも受け継がれ、マツダのよき伝統となったのだった。
■日産 スカイライン(R30型)
日産 スカイライン(R30型) 1981年発売
日産がハコスカGT-R以来10年ぶりにDOHC4バルブエンジンを復活させたのは、1981年デビューのR30スカイラインRS。
そしてそのFJ20E型エンジンにターボ追加して「史上最強のスカイライン」を名乗ったのが、1983年に登場するスカイラインRSターボ(190ps/23kgm)だった。
この、初期型スカイラインRSターボのじゃじゃ馬っぷりが凄かった。
当時の日産はターボに全力投球していた時代だったから、その頂点に立つエンジンとして気合い十分。
FJ20ET用のターボは、A/R=0.64という高速型のチューニングで、これはL20ターボなどとはまったく異なる仕様のものが装備されていた。
結果として、そのパワー特性は典型的な“ドッカンターボ”で、これがドえらくエキサイティングだったのだ。
圧縮比を8.0まで下げたうえに高速型ターボだから、低速域トルクはひょろひょろ。ところが、3500rpmあたりで本格的にブーストが高まってくると、その盛り上がりたるやまさに爆発的!
このパワー特性に当時のストラット/セミトレの足が組み合わされると、そのハンドリングの超シビアなこと。まさに、じゃじゃ馬という表現が相応しく、乗りこなすには相当なテクニックが要求されたものである。
一年後に、このFJ20ETにはインタークーラーが追加され、スペックは205ps/25kgmに強化されるのだが、ターボのA/R=0.49に変更したことでトルク特性がフラット化。
扱いやすくはなったが、ターボらしい強烈なパンチでは、インタークーラーなしの初期型FJ20ETのほうがはるかに強く記憶に残る結果となったのだった。
■日産 セドリック(430型)
日産 セドリック(430型) 1979年発売
日本初の量産ターボ車は1979年にデビューしたセドリックターボだが、コイツに初めて試乗した時の驚きは忘れられない。
この時代、ターボといえばBMW2002ターボやポルシェ930ターボなど憧れの存在。それが国産車に登場したのが、まずスゴイことだった。
しかも、走らせればやっぱりターボならではのパワーが炸裂。それまで、L20型といえば排ガス規制でトルクがスカスカになった典型的駄目エンジンだったのに、ターボ化によって「何じゃコリゃー?」というくらい元気を回復。大柄なセドリックが鬼のように加速するのには心底ビックリした。
これはのちにわかったことだけれど、最初のセドリック用L20ETはタービンのA/Rがかなり高速型で、どうもブースト圧も公表値以上に高かったらしい。
そのためか、その後ぞくぞく登場する日産ターボエンジンは、どれに乗っても物足りない印象。1983年にFJ20ETが登場するまで、このセドリックを上回る強烈さを感じられなかったというのが正直なところ。
日産は、初期型はじゃじゃ馬で出して、あとからそれを調教するのが得意(?)だが、ターボも最初が一番インパクト大だったというわけですね。
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