スズキ「スペーシア」に追加された派生モデル「ベース」に、小川フミオが試乗した。
多様な使い勝手を楽しめる
見ても乗ってもシトロエンらしさ満載──新しくなった、C5 X試乗記
クルマの可能性ってけっこう大きい。長距離を快適に走れるクルマもあれば、スズキが2022年8月26日に発売したスペーシア・ベースのように、駐車している状態での使い勝手を考え抜いたクルマも。たとえばワーケーションを目的にしたって、おもしろいと思いませんか?
スペーシア・ベースは、従来のハイトワゴン(背の高い軽ワゴン)であるスペーシアの派生モデルだ。「自分だけの移動基地(ベース)を作ろう」というコピーが、車名の由来である。
オフィス、ショップ、ベッドルーム、キャンプ、ペットとの移動、それにもちろん、荷物運搬。フラットな床面と、移動可能な「マルチボード」で、多様な使い勝手が謳われている。
私が感心したのは、上記マルチボードの使い勝手だ。たとえば、中段にセットすればデスク代わりになるのだ。上段にセットすれば移動販売などで便利だろう。
スペーシア・ベースのカタログでは、おもしろい例が紹介されている。「マイオフィス」という“くくり”のもと、ビジュアルは、荷室の床に薄いカーペットをひろげ、そこに足を投げ出し、ラップトップコンピューターに向かっている人だ。
緑の多い公園の駐車場にスペーシア・ベースを止めて、ハッチゲートを跳ね上げ、風をたっぷり取り込みながら、移動式オフィスでのワーケーションを楽しむ……そんなことも提案されているからおもしろい。
マルチボードを最下段に移せば、ベッドルームになる。フロントシートを畳み、豊富なオプションのなかからリラックスクッションを選んでラゲッジルームに敷けば、かなり快適とみた。釣りが好きなひとは、そこで時間を過ごして、朝マズメ(鳥がまだ寝ている日の出前に魚の食餌行動が活発になる時間帯)を狙うのも良し。
そもそもは商用車なので、後席は小さなベンチのよう。「2プラス2とし、そのぶん、多様な使い勝手を楽しむという“割り切り”が評価されると思って開発しました」と、スズキの広報担当者は語る。
商用車以上、乗用車未満
スペーシア・ベースは、3305mmの全長に、1800mm(前輪駆動)の全高を持つ。ボディは基本的に、乗用車のスペーシアとおなじだ。ただしリアクオーターウインドウはなく、そこにパネルがはまっている。
ブラックアウトされた大型グリルや、やはりブラック塗装のホイール(強度は上げているそう)などで、貧相な感じはまったくない。むしろ、道具的な魅力がある。
リアのドアはスライド式。ユニークなのは、電動スライドするのは、ドライバー側だけという点だ。
「商用車に乗るドライバーは自分の荷物を右側の後席に置くことが多いので、割り切って、こちらだけ電動としました」(前出の広報担当者)。
でも乗用車としてのニーズが「半分かそれ以上」と、見込むなら、むしろ左側を電動にしてほしかった気もする。
658cc直列3気筒ガソリン・エンジンは、ターボもマイルドハイブリッドシステムももたず、38kW(52ps)の最高出力と、60Nmの最大トルクを発生する。
走りの出足は思ったより駿足だ。あらゆるところを軽量化して870kgと軽量なボディを実現した恩恵だろう。組み合わされる無段変速機は、エンジン回転が上がっても、特有の甲高い金属音は抑えられている。思った以上に耳ざわりでない。いろいろな音をうまく丸めて、神経にさわらない環境が実現されている。
足まわりは、「商用車ほど硬くない設定」とのこと。商用車だと荷物をたっぷり積む必要があるので、サスペンションの設定を硬めにするのが常。たとえばスズキの「エブリイ」の積載量は350kgであるのに対して、スペーシア・ベースは200kgだ。
実際に200kg以上積むことはほとんどない、という回答が市場調査で得られたので、それもおおいに設定の参考にした、と、スズキの広報担当者は説明してくれた。
たしかに予想していたほど、跳ねない。ただし前輪のサスペンションはもうすこし“締めて”、ステアリングにダイレクト感が出るようにしてくれると、もっといいなぁと私は思った。
高速道路で、わりと高い速度を維持してカーブを曲がるとき、もちろん問題なく曲がれるものの、場合によっては、すこし緊張する。タイヤがどこを向いているのか、インフォメーションが少しとぼしいからだ。
タイヤについては、“クラストップの燃費を狙う”という意図があって、転がり抵抗の低いダンロップ製の155/65R14というサイズが選ばれている。ホントに細くて、スペアタイヤを履いているんじゃないかな? と、私は思ったほどだ。
で、燃費は前輪駆動で、リッターあたり21.2km。室内がものすごく広いトールボーイスタイルのパッケージで、この燃費はたいしたものだと思う。こんなところにもメーカーのこだわりがある。
こうした各所への“こだわり”こそ、スペーシア・ベースの最大の美点であり、魅力だというのが、私の総括だ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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そのサイズは、軽乗用車の標準的なサイズだ。