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フォルクスワーゲンが世界最新の風洞設備を新設 激化する空力性能競争

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フォルクスワーゲンが世界最新の風洞設備を新設 激化する空力性能競争

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2017年11月にフォルクスワーゲンは、ウォルフスブルグ本社の敷地内に、世界で最新の風洞システム「風洞エフィーシェンシー・センター(WEZ)」をオープンしたと発表した。現在ではほとんどの自動車メーカーが自社内に実車テスト用の風洞設備を所有しているが、フォルクスワーゲンの新風洞試験設備は、間違いなく世界最新のシステムだ。

■フォルクスワーゲンの空力開発の歴史

もちろんフォルクスワーゲンはこれまでも大規模な風洞設備を所有していた。その風洞設備は50年以上前の1960年代に建設されている。

戦後の経済成長につれて、クルマは驚くほどのスピードで普及し、より高性能、高効率のクルマであることが求められた。当時のフォルクスワーゲンのハインリッヒ・ノルトホフCEOの時代にビートルの累計生産台数は1000万台を超えていたが、ノルトホフCEOは次世代のフォルクスワーゲンのクルマは一段と高性能化、高効率化すると予測していた。

そして次世代のクルマを開発するために、フォルクスワーゲンは1965年にウォルフスブルクに巨大な風洞実験設備を建設した。この風洞は2.6メガワットの定格出力を持つ直径8mの送風ファンにより、最高速150km/hで実験することができた。

さらに、ウォルフスブルクには砂漠地帯の酷暑環境から北極地帯の酷寒環境までを再現できる-35度~+45度まで、湿度は5%~95%の気候を作り出す熱環境風洞試験設備も追加している。

こうした実験設備を駆使することで、クルマの快適性や信頼性の向上に大きく貢献し、1960年代のカルマンギヤ・クーペは、空気抵抗係数Cd値は0.39を実現した。ちなみにこの頃の風洞試験では、空気の流れを観察するためにウールの毛糸をボディ表面に貼り付けて使用していたが、後にはスチーム流が使用されるようになった。

そして風洞試験を繰り返すことで、クルマに働く空力性能に関する知見も徐々に蓄積され、さらに1960年代にはコンピュータによる空力シミュレーションという新しい解析技術も開発されている。

1970年代に世界的な石油危機を迎えると、燃費性能と連動する空力性能が大きくクローズアップされる時代になった。VWビートルのCd値は0.46であったが、ゴルフ1は0.41と進化し、その後のゴルフ2は0.34、ゴルフ3は0.30にまで改良が進んだ。

また1985年にはウォルフスブルクに第2熱環境風洞も完成。この頃には次世代のクルマにふさわしい新しい空力コンセプトの研究も行なわれるようになった。もちろんスーパーコンピュータを駆使した空気の流れの理論解析の精度は高められたが、やはり風洞での実車試験も不可欠であり、フラット形状のアンダーボディ、新しいドアマウント式バックミラー形状、ガラス面のフラッシュサーフェス化などが生み出されていった。

フォルクスワーゲンの空力性能の金字塔となるのが、2002年に公表された1Lカー(1.0Lの燃料で100kmを走行できるという意味)の「スタディL1」だ。超軽量ボディ、燃費を極限まで追求したエンジンに加え、幅狭ボディの全幅1250mmで、Cd値は0.159を達成している。このプロトタイプのL1は、2013年に「XL1」の名称で、250台限定で市販されている。ちなみに、この市販モデルではCd 値は0.189となっていた。

しかし2000年代になると開発車種も増大し、従来の風洞試験の設備は限界に達し、より効率の良い新しい風洞設備が必要と考えられるようになった。そして2014年に全く新しい風洞設備の建設が決定されたのである。

■50車種以上の新車開発に必須の設備

今回新設された新しい風洞システムは、乗用車ブランドの過去最大ともいえるニューモデル開発&技術攻勢を支えるために建設されている。フォルクスワーゲンは2020年までに主要セグメントの50車種以上のニューモデルを投入するための開発プロジェクトが現在進行中だ。

こうしたニューモデルラッシュに効率的に対応するために、最新の風洞設備導入を決定し、建設には3年半を要している。コンクリートは1万立方メートルが使用され、基礎のコンクリート・アンカーが地中に200本以上打ち込まれた巨大な建造物になっている。

そしてこの風洞は、業界の最も新しい技術やスタンダードを取り入れ、WLTP(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)の測定基準となる設備であるという認証を受けている。

この施設の空力性能・騒音性能実験用の風洞は、直径8mの大型ファン(出力3.1メガワット)で風を生み出し、空気抵抗の計測はもちろん、燃費や排ガスレベルを低減するためのリアルワールド同様の試験環境を実現しており、最高250km/hの風速でテストを行なうことができる。また世界各地の酷寒地の-30度C~熱帯地域の60度Cの気候を再現する走行シミュレーションも可能になっている。

技術開発担当のフランク・ヴェルシュ氏は、「この新センターは、今後主要な開発分野である空力性能、キャビンの低騒音性能だけでなく電動駆動車での走行距離を向上させるためにもとても有効です」と語っている。

この風洞には、テスト車両のタイヤ接地部に、回転するフラットベルトが4輪独立で配置され、実際の公道での走行と同様にホイールが回転する。また装置に組み込まれたカメラシステムを使用して、完全自動で車両のポジションをテスト走行用に整えることができる。これまでの風洞施設ではテスト車両の位置を決めるために30分も要していたが、自動化されたこの新システムでは5分以内に完了できるという。

また、この新風洞は優れた遮音性を備え、世界で最も静かな風洞のひとつであり、風速160km/hでの騒音は65デシベル(普通の会話の音量レベル)に押さえられ、これは驚異的な静かさといえる。

熱環境試験用のサーマル風洞では、試験運用後からは、日射の強弱や雨を降らす、雪を降らすなどの環境機能を加え、リアルワールドを再現した試験パターンが可能になる。

また、オンロード走行のさまざまな条件を再現できる全輪駆動用テストベンチは、この新センターの最も重要な機能のひとつだ。

全輪駆動テスト用のシャシーダイナモは、出力1360psまでのクルマに対応し、ブレーキテストやエアコンテストも同時に行なうことができる。熱環境試験用の風洞のファン直径は4.5mで、定格出力は2.1メガワットだ。

この熱環境試験用の風洞と、全輪駆動シャシーダイナモを組み合わせてテストすることで、これまではアメリカ・アラバマ州のデスバレーや、アラスカや北欧の酷寒地など、遠く離れた地域で行なわざるを得ない走行試験の工数や費用を大幅に削減できるわけだ。

またこの施設は、中央にワークショップエリアを設けており、ここで集中的に作業することでデザイン部門、騒音対策部門、快適性能部門など多様な技術開発部門同士の協力体制が取りやすく一層効率的な開発が可能になる。

風洞は車両の認証や数多くの改良のために欠かすことのできない存在である。なぜならば、例えば風洞なら約20分で測定できる空気抵抗値が、コンピュータ演算で定めようとした場合、スーパーコンピュータを使用して何日もかかってしまい、実際の風洞実験のほうが効率的なのである。

日本では、2013年に導入されたトヨタの新世代の風洞設備が新しい風洞設備とされる。スバルの風洞実験設備は川崎重工製で、最高速180km/h、4輪独立のムービングベルト+床下ムービングベルト式となっている。

一方、日本でも1960年~1970年代に風洞設備を導入しているが、2013年に導入された最も新しいトヨタの新風洞設備は、1969年に建設した従来の風洞実験設備に取って替わるもので、最高速度250km/h、4輪独立式ムービングベルトを設置している。ファンの直径は9.0m/8000kWと世界でも最大級の規模を誇る設備である。

フォルクスワーゲンの例でも明らかなように、これからの電気駆動車、EVではさらなる空力性能の追求が求められ、自動車メーカーにおける空力性能開発の競争は一段と激しくなると予想されている。

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