欧州連合(EU)はこのほど、2035年にガソリン車の新車販売をすべて禁止するとしてきた方針の転換を表明した。合成燃料「e-Fuel」を使うエンジン車の新車販売は2035年以降も可能になるが、今後グローバルの流れはどうなっていくのか?
文/桃田健史、写真/ベストカー編集部、トヨタ、ボルボ、AdobeStock
日本お得意の「ハイブリッド車」は生き残る!? EUが「2035年」以降もエンジン車販売OKとしたワケとは?
■2035年以降ガソリン車、HV&PHVはNGの流れが一転……
ドイツが「2035年以降もe-Fuelの使用を認めるべき」と、法案の一部修正を要請してそれが認められたことで事態は一転する(studio v-zwoelf@AdobeStock)
「やはり、日本の主張が正しかったのではないか!?」
『欧州連合(EU)のCO2規制が方針転換』というニュースを知って、そんなコメントが日本のユーザーの間から漏れてくる。
EUが2019年に立ち上げた欧州グリーンディール政策の政策パッケージ、『Fit for 55』。これは欧州域内で販売する乗用車について、CO2排出量を2030年時点で1990年比55%減、また2035年時点で小型商用車を含めて同100%と規定した。
事実上、2035年以降、EV(電気自動車)または燃料電池車となり、ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車はNGという解釈だった。
ところが、事態は急変する。
Fit for 55実施に向けて、欧州議会で投票が行われ、その結果が可決となったにもかかわらず、ドイツが「2035年以降もe-Fuelの使用を認めるべき」と、法案の一部修正を要請し、それが認められたと報じられたのだ。
■SDGs と関係の深いESG投資の争奪戦
欧州で重視される「ESG投資」は、E(環境)、S(社会性)、G(企業統治)を重視した投資のこと(Montri@AdobeStock)
Fit for 55がEUで議論されるようになった最大の理由は、2010年代後半からグローバルで吹き荒れたESG投資にあると言えるだろう。
ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、E(エンバイロンメント:環境)、S(ソーシャル:社会性)、G(ガバナンス:企業統治)を重視した投資のこと。日本でもすっかりおなじみになった「SDGs」(国連の持続可能な達成目標)とも深く関係する。
EUとしては、ESG投資を欧州における新たな成長ドライバーだと早くから認識していた。
■VWのディーゼル不正問題が2015年に社会問題化
VWは2015年のディーゼルゲート事件でイメージを失墜することに(※写真はイメージ:kucheruk@AdobeStock)
時代を少しだけ振り返ると、2010年代半ばにVWグループなどドイツ自動車メーカーや自動車部品メーカーで、エンジン排気ガス検査に対する不法ソフトウェアを使用していたことが大きな社会問題となった。
この影響で失墜したブランドイメージをV字回復するため、まずはVWグループが早期のEVシフトを宣言し、それに伴う巨額投資を表明した。これが欧州グリーンディール政策の「前振り」になったと言える。
ただし、VWグループのEVシフトに対して、当初はメルセデスベンツとBMWが完全には相乗りせず、「内燃機関は、これまでどおり持続させる」という姿勢を示していた。
ボルボはガソリン車やPHVを販売していたが、すでにEV専業へのシフトをアナウンスしている
ところが、欧州グリーンディール政策がグローバルにおけるESG投資を煽るような形となり、2020年代に入ってボルボやジャガーのようにEV専業メーカーへの転換を打ち出したほか、メルセデスベンツは「社会環境が整えば」という条件付きとして「2030年代に新規導入するモデルはすべてEV」(燃料電池車を含む)という中長期事業戦略を公表するに至った。
長年に渡って世界自動車産業を特に技術面でリードしてきたメルセデスベンツの条件付きEVシフト宣言は、日本メーカーを含めて世界に衝撃を与えた。結果的に、テスラという企業価値を高めたとも言えるだろう。
見方を変えると、メルセデスベンツが「社会環境が整えば」と条件付きとしたのは、欧州EVシフトがあまりにもEUのよる政治主導であり、ドイツ自動車産業界の総意だと言い切っていない、という裏付けでもある。
今回のFit for 55の「どんでん返し」は、ドイツの「ちゃぶ台返し」のように報じられることが少なくないが、ドイツ自動車産業界としては「ある程度の選択肢を設けることが、現実的」という解釈が大筋として変わっていなかったように思える。
■ESG投資争奪戦には日本も本格的に参戦の流れ
ESG投資の争奪戦が今後始まる。欧州、アメリカ、中国で激化し、そこに日本も本格的に参戦へと筆者は見る(AllahFoto@AdobeStock)
では、欧州や日本を含めて、世界での電動化の流れは今後どうなるのか?
基本的には、日本自動車工業会が平素から主張しているように「国や地域によってエネルギー状況や社会インフラなど社会事情が違うため、電動化の進展にも差が出る」と考えるのが妥当だろう。
そのうえで、ESG投資の争奪戦が今後も、規制や投資呼び込み政策などによって、欧州、アメリカ、中国で激化し、そこに日本も本格的に参戦する。
その結果、ハイブリッド車が主流の国、EVシフトが進む地域など、さまざまなケースが生まれることになる。
また、e-Fuelについては合成燃料やカーボンニュートラル燃料との解釈の違いを明確化できていない状況だ。製造コストも、化石燃料由来燃料に比べて現状ではかなり割高だ。
今後、こうした次世代燃料を内燃機関に使用するためにも、燃料関連事業者による早急な技術開発、そして水素など新たなサプライチェーンの構築など、課題は山積している状況だ。
■米国ではエタノールを含むガソリンが販売されているが……
米国などで販売されているエタノールは現時点ではe-fuelには当たらないのだという(ferkelaggae@AdobeStock)
また、2000年代から2010年代にかけて、北米などで量産化が始まったエタノールを含むガソリンで、エタノール含有率を記した「E●●」という商品が出回っているが、これは現時点でいうe-Fuelの仲間ではない。
e-Fuel、合成燃料、またはカーボンニュートラルと現時点で呼ばれている燃料は、「排気ガスには通常のガソリンなどと同等のCO2を排出している」(自動車メーカーの次世代エンジン開発エンジニア)という説明だ。あくまでも、製造工程でCO2排出量を大幅に削減しているので、理論上CO2排出量が相殺されるという考え方である。
EUがCO2規制の方針転換となった今、カーボンニュートラルについて、改めて地に足をつけた議論が進むことをユーザーは望んでいると思う。
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