ASTON MARTIN DB11
アストンマーティン DB11
レンジローバーのトップレンジ「SV オートバイオグラフィー」が表現するプレミアムSUVの世界観 【Playback GENROQ 2017】
上質な刺激をもたらすグランドツアラー
早くも日本上陸を果たしたアストンマーティンの最新作、DB11。608ps&700Nmという獰猛なV12ツインターボを搭載するものの、あくまでもジェントルに終始するグランドツアラー仕立ては見事だ。ジェームズ・ボンドよりもひと足先に全印象をお伝えする。
「獰猛さを匂わせながらも野蛮ではない。それでも高揚感を与える絶妙なGT」
英国人の血脈には、新作であっても文化性を継承しつつ新たな独創性を合わせるのが流儀である──。
アストンマーティン DB11は、まさにそれの“極み”かもしれない。GT=グランドツアラーとしてのコンセプトを受け継ぎながらも新世代らしくエクステリアのテーマを一新し、エッジを際立たせた彫刻的なラインと伝統的な曲面を組み合わせて優雅さの中にも絶妙な緊張感を与えている。しかし、これまでとは決定的に違うことが一点ある。それは“刺激”。しかも、上質な刺激である。これは、もはやDB11を語る上でもっとも強調しなければならない、ある種の発見であり、新生アストンマーティンの狙いでもある。
エンジンスタートボタンを押した途端に目覚めるV12ツインターボユニットなど、その象徴だろう。初代ヴァンキッシュや実質的に先代となるDB9とは一線を画す。獰猛さを匂わせながらも決して野蛮な類ではなく、かといって控えめでもないという極上のサウンドを発し、ドライバーに高揚感を与える。しかも、その刺激はアクセルを踏みこむ度に感動に変わっていく点もこれまでとは違う。この加速感は独特だ。608ps&700Nmを誇るパワー&トルクは、ターボ化を理由にダウンサイジングされているとはいえ、だからこそ手にした新感覚アストンの流儀を生み出したと言っていい。
「走行面において、ここまでの品格と動質を両立したGTはDB11だけだろう」
まさに空を切り裂く加速だ。突進というよりも突破するほどの勢いがある。DB9比で65mmほど延長されたホイールベースと見事なトレッドの設定により直進安定性は抜群かつ、タイヤとの接地感を常に伝えるだけにドライビングのリアリティも高い。それでいて乗り心地は快適に終始するのも美点だろう。GTモード(ノーマル)はもちろん、その上のスポーツモード、さらに上のスポーツ・プラスでも上質な乗り味を維持することに成功している。だから高速での移動では、疲労感を抑える効能も備わるとあって長距離でも苦にならない。つまり、これこそ“DB”である証しだ。あくまでもグランドツアラーを貫く姿勢は、むしろ高く評価すべきで、通り一遍のスポーツだけを謳っているわけではないのが彼らの主義であり、主張である。
旅先でのワインディングでも速さばかりを押し付けない、絶妙な加減でペースを維持させる。これは決して遅いというわけではない。DB9から比べれば、はるかに旋回速度は上がっているのは間違いない。優れたトルクベクタリングやトルクコントロールを備えていることもあり、安定した姿勢でコーナーをクリアしていくものの、しかしながら積極的に攻めさせるように促すことをしないのが、DB流。むしろ先のデバイスは確実性を保持するために備わっているように思えるほどで、断じてコーナリングスピードだけを求めて装備しているわけではないのである。無論、ブレーキ性能もDBのコンセプトらしいタッチとフィールを体験できるのが素晴らしい。フロントに400mmという巨大なローター径に6ピストンキャリパーを備えているにも関わらず、スーパースポーツカー的な設定ではないのも見事だ。
これこそ上質な刺激に他ならない。走行面において、ここまでの品格と動質を両立したGTはDB11だけだろう。距離を伸ばす毎に心底そう思ったのは紛れもない事実である。
「都市部では極めてジェントルに終始。日常使いになんの躊躇もいらない」
美しい──。夜の都会でDB11を眺めた瞬間、素直にそう思えた。部分的に彫刻的なフォルムを与えたその佇まいは、映り込むライトによって、より一層エッジを際立たせ、見る者を魅了する。実際この撮影時、通りすがる際に多くの人々が手持ちのスマートフォンで撮影し、去っていったことこそ、その証しだろう。パワフルでありながらもエレガント、そして上品な仕上がりながらも斬新で挑戦的なこの風格は、意識せずとも直感的に惹かれる世界観が創出されている。
もちろん、こうした都市部で乗るにも気遣いはいらない。存在感こそ強いものの、扱いやすさは、まさにGTのそれ。エンジンスタートボタンを長めに押せばサイレントモードとなるだけに、本来もつ野生的なエキゾーストノートは抑えられ、比較的静かにスタートすることが可能だから今の時代に見合っている。ましてやアイドリング・ストップやシリンダ・オン・デマンド(低負荷時に片バンクを停止させるほか、触媒の低温防止策として20秒間隔でバンクをスイッチする機能も備える)など、環境保全に対する策まで設けられるなど、他社のラグジュアリーモデルと比較しても一歩抜きん出ているからさすがだ。
走り出しもスムーズ極まりない。パワフルなV12ツインターボエンジンを搭載するものの、従来のトルコン式8速ATを組み合わせているからゴー&ストップの多い都会でもDCTのようなシフトショックとは無縁。極めてジェントルな走行フィールを味わえるとあって日常使いになんの躊躇もいらない。それにGTモード(ノーマルモード)であれば高揚感も抑えられるから、せっかちな世代でもストレスを覚えることはないだろう。もちろん、いざ! という時にはパドルを引けばその期待に応えてくれるのは言うまでもない。
「J・ボンドだけに乗らせておくのはもったいない」
インテリアの作り込みも新世代らしくこれまで以上の仕上がりを見せている。ドアを開けた瞬間からその世界観に引き込まれるようで、妙な緊張感を与えないのが魅力だ。インフォテイメントシステムとその操作に関しても、定評あるダイムラー社から譲り受けているだけに使い勝手は過去とは比較にならないほど向上している。ステアリングに設けられたスイッチに関しても配慮が行き届いており、先のインフォテイメントを操作できるほか、ドライブモードやダンパーの変更ができるうえ、電話のハンズフリーにも対応。慣れてしまえば、ほぼ手を離すことなく大方の操作ができてしまう。
無論、スペース効率も優秀だ。ホイールベースを65mm延長しているほか、フロントの頭部は10mm高くなり、リヤシート周りに関してもヘッドルームで54mm、レッグスペースに至っては87mmほどDB9より拡大されているから快適性も上がっているし、+2シートとしての役目も以前に比べれば使える範囲に近づいたと思う。ラゲッジスペースも今度はゴルフバッグを2セット搭載できるようにするなど、実用性の向上が著しい点もDB11の魅力だろう。
それほど劇的な進化が見られるのは確かだ。アンディ・パーマー新CEOの狙いは的確だった。それに私が海外で初テストした時よりも、今回日本に上陸したこの個体の方がはるかに出来が良いところを見ると、今のアストンマーティンはクオリティ・コントロールにも抜かりはないようだ。次作で使われるかどうかは不明だが、J・ボンドだけに乗らせておくのはもったいない・・・。
REPORT/野口 優(Masaru NOGHCHI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
アストンマーティンDB11
ボディサイズ:全長4739 全幅1940 全高1279mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1770kg
前後重量配分:51/49%
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc
圧縮比:9.3
最高出力:447kW(608ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前400×36 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前255/40ZR20(9J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:322km/h
0-100km/h:3.9秒
車両本体価格:2380万円
※GENROQ 2017年 1月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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