スバルの前身は「中島飛行機」。技術主導の企業風土の原点
何ごとにも伝統を重んじるSUBARU(スバル)は、先進的な技術を見いだすと、それを長い時間をかけて磨き上げ、改善していく傾向が強い。すべてのスバル車に採用されている水平対向「ボクサー」エンジンは1966年デビューのスバル1000で初搭載。以来、何度か存続の危機を迎えながらも、これまで60年間近く進化させながら作り続けられてきた。
シンメリトリカルAWDの名で知られる4WDの初採用は1972年。こちらも誕生から半世紀が過ぎている。アウディ・クワトロのデビューが1980年だったから、その先進性には驚くしかない。
SUBARUレヴォーグのSUVバージョン「レヴォーグ レイバック」が先行予約を開始
技術の先進性を重視する思想は、スバルの前身、中島飛行機から引き継がれたものといっていい。かつて日本最大の航空機メーカーだった中島飛行機は戦後、12社に分割解体される。このうちの5社が出資して1953年に富士重工業を設立。5社を1社にまとめたことから、そのシンボルには六連星の星団、昴(すばる)がふさわしいとされ、それがいまでは社名としても採用されている。
こんなところにも彼らの伝統を重んじる姿勢が表れているが、スバルのクルマ作りは「人を中心に考え、安全を追求する」のが基本。これもまた、安全性が極めて重要となる航空機メーカー時代から受け継いだ伝統ある思想である。
安全性重視の姿勢は、2008年に誕生した運転支援システム、アイサイトとして結実する。その基本となる「ステレオカメラによる運転支援技術」の研究をスバルが始めたのは、実に1989年のこと。長年培ってきた安全思想と、長い歳月をかけて先進技術を熟成するスバルの伝統は、ここにも息づいていたといえる。
「人に優しいクルマ作り」象徴が全天候型GTワゴン=レヴォーグである!
スバルが得意とする走行安定性と安全性が最も光るジャンルがグランドツアラーだ。それを優れたパッケージングとともに商品化したモデルがツーリングワゴンである。「速く快適で道を選ばない全天候型ワゴン」をコンセプトに1989年に誕生したレガシィは、クルマで長距離を旅するファンに愛され、スバルのアイデンティティに成長したことはご存じのとおりだ。
レガシィはスバルのアメリカ市場を重視する経営方針から徐々にサイズを拡大。残念ながら日本での使い勝手がいいとはいいにくい状況になっていった。この手の事例は枚挙にいとまがないのだが、スバルはここで日本市場を切り捨てるのではなく、「日本の道にジャストサイズの新ツーリングワゴン」として2014年にレヴォーグを発売。瞬く間に好評を博すことになった。
2020年にリリースされた現行の2代目は、ボクサーエンジン、シンメトリカルAWD、アイサイトなどの技術を受け継ぎながら、さらなる高みを目指してクルマ全体を磨き上げた。その姿勢はいかにもスバルらしい。
とりわけアイサイトがアイサイトXになって、緻密な制御性と高度な機能を手に入れた点を評価したい。自動運転技術の区分けに従えばアイサイトXもレベル2であり、運転の責任は基本的にドライバーが負うことになる。しかし、その範囲内でドライバーの負担を最大限に軽減し、より高度な安全性を実現しようとする姿勢が、アイサイトXからは見て取れる。高精度マップとGPSや準天頂衛星「みちびき」からの情報などを組み合わせることで自車位置を正確に把握。おかげでアクティブレーンキーピングの動作は驚くほど滑らかになったほか、カーブ前速度制御や料金所前速度制御のように、従来のアダプティブクルーズコントロールでは実現が難しかった「危険が迫る前に減速する」動作が可能になった。自動車専用道路における渋滞時のハンズオフアシストやアクティブレーンチェンジアシストなども、アイサイトXで初めて紹介された機能である。
そうした先進技術の進化とともにぜひとも強調しておきたいのが、基本的な走行安定性と快適性の向上である。
2代目レヴォーグに試乗すると、なんとも滑らかな乗り心地に圧倒される。路面の細かな凹凸にもタイヤがスムーズに追従するその様子は、ソフトな乗り心地で定評があったフランス車さえ凌駕するほど。この驚くべき快適性は、サスペンションに組み込まれたダンパーのフリクション(摩擦)が極端に小さいことに起因している。
そしてこのダンパーの繊細な動きを可能にしているのが、スバルグローバルプラットフォームにフルインナー構造を組み合わせることで実現したボディ剛性の高さ。しかも、この優れたボディ剛性は静粛性の高さや走行安定性の向上にも貢献。スバル車の質感を見違えるように改善したのである。
レヴォーグの高い完成度は、いずれも伝統を重んじながら、それをつねに進化させていくスバルのフィロソフィーが生み出したもの。間もなくレヴォーグには、よりオールラウンドなキャラクターのクロスオーバーモデルが登場するという。そちらもスバルが長年磨いてきたSUV作りの伝統が生きているに違いない。期待が高まる。
【ルーツ物語】優れた基本性能を武器に全天候スポーツワゴンに発展
SUBARUのアイデンティティは、水平対向エンジンとシンメトリーAWDシステム。水平対向エンジンは、1000に搭載され1966年にデビュー。低重心でコンパクト性に優れる点を評価しての採用だった。なお、開発責任者は360も手がけた、元航空機技術者の百瀬晋六氏である。もう一方の4WDの誕生のきっかけは、1970年ごろ、東北電力から宮城スバルに持ち込まれた「送電線保守作業用に4WDのライトバンがほしい」という要望。宮城スバルは、鋭意開発に取り組み4WDの改造車を完成させ雪道などで走行実験を行う。その走りの実力に本社も驚き、1971年には技術本部内に専門の4WD開発チームが発足。初の市販型4WDは1972年9月のレオーネ・エステートバン。積極的な開発は続き、1990年2月発表の2リッターボクサーターボと4WDを組み合わせたレガシィ・ツーリングワゴンGTは「全天候型スポーツ」として一世を風靡した。
SUBARUレヴォーグ 主要諸元
グレード=STIスポーツEX
価格=8CVT 434万5000円(写真はマイナーチェンジ前モデル)
全長×全幅×全高=4755×1795×1500mm
ホイールベース=2670mm
トレッド=フロント:1550/リア:1545mm
車重=1580kg
エンジン=1795cc水平対向4DOHC16Vターボ(レギュラー仕様)
最高出力=130kW(177ps)/5200~5600rpm
最大トルク=300Nm(30.6kgm)/1600~3600rpm
WLTCモード燃費=13.6km/リッター(燃料タンク容量63リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路:10.0/14.5/15.3)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:ダブルウィッシュボーン
ブレーキ=フロント:リア:ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=225/45R18+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=5.5m
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