フィアットの新型「600e」に、小川フミオが乗った。新しいイタリアンSUVの乗り味はいかに?
走りは実にスムーズ
ステランティスジャパンが、ピュアEV(電気自動車)のフィアット「600e」を2024年9月10日に発売、すかさず東京都内を中心に試乗した。全長4200mmと市街地で使いやすいボディサイズにくわえ、一充電あたりの航続距離493kmの性能とキュートなルックスでキャラがたったモデルだ。走りも軽快である。
フィアット600と600eは23年に発表されたクロスオーバーで、従来のフィアット「500X」の後継モデルだ。全高は1595mmで、タワー式駐車場は使えるところこそ限られるものの、一方で、余裕あるヘッドルームが乗員には嬉しい。
ホイールベースはややコンパクトな2560mm。既発のフィアット製ピュアEV「500e」より240mmも長く、全長も570mmも長い。4ドアボディなので、600eのほうが使い勝手がよい、と、感じる人も少なくないのでは。
駆動用バッテリー容量は54.06kWh。基本ドライブトレインを共用するプジョー「e-208」の50kWhより少し大きい。パワーを比較してみると、e-208が100kWの最高出力と260Nmの最大トルクであるのに対して、600eは116kWと270Nmとなる。
600eにしても、数値だけみると、そんなにパワフルとは思えない。アウディ「Q4 e-tron」を例にとってみると、150kWと310Nmだ。しかし、実際に600eを操縦した感覚を 一言で表現すると、スムーズ。スルスルっと加速して、交通の流れだってリードできる。
比較的コンパクトなボディサイズと、駆動用バッテリーの容量をちょっと控え目にし、車重を1580kgに抑えたバランスの取り方が、奏功しているようだ。加速時は軽快感をおぼえるほど。
ちょっと楽しいインテリア乗り心地は快適。フロントはマクファーソン・ストラット、リヤはトーションビームというシンプルな形式のサスペンションシステムだけれど、姿勢はフラットだし、路面からのショックも上手く吸収してくれる。ステアリングはややスローで、印象としてはソフト。誰でもすぐ慣れる操縦感覚だ。
シートは合成皮革(フィアットはエコレザーとよぶ)で、そこに“FIAT”という文字をパターン化した模様が並んでいるのが、なんとなくユーモラス。1970年代や80年代のフィアット車に時々見られた、ちょっとオフビートでシャレのきいたデザイン感覚を連想させて好ましい。
エコレザーシートは、すべりにくく、少なくとも前席は長距離でも疲労感は少なさそうだ。後席は175cmの人間がふたり並んで座ると、ぎりぎり。レッグスペースに大きな余裕はない。でも座っていられるだけのスペースが確保されている。
もうひとつ、600eの良いところは、日本規格の急速充電システムのCHAdeMOに対応している点だ。ただし、同じパワートレイン搭載のプジョーe-208とe-2008では、問題なく使えるのはCHAdeMO1.0とされているので、600eも同様かもしれない。メーカー発表の充電時間の目安は「50kW急速充電時に80%充電に約50分」(ステランティスジャパン)だそう。
快適装備は充実600eの車名は「セイチェント・イー」と読むそうだ。かつて55年に発表された600がボディデザインのイメージソース。
オリジナルの600は4気筒エンジンをリヤに搭載したコンパクトモデルで、ストロークがたっぷりあるリアサスペンションなど、設計者ダンテ・ジアコーザの自信作だった。アバルトをはじめ、当時イタリアに多くあった零細メーカーは、600の車台とエンジンを使ってスポーツカーを作っていた。
現代の600eは「500eに100個の魅力を追加する」(ステランティス)とされ、衝突被害軽減ブレーキ、アダプティブクルーズコントロールや360度パーキングセンサーといった安全運転支援システム搭載。さらに、7インチのインフォテインメントシステム用ディスプレイ、オートハイビーム、運転席パワーシート、前席シートヒーター、ハンズフリーテールゲート、キーレスエントリーなど、日常的にあって嬉しいものが揃う。
ヘッドランプの上の部分にパネルを設けて、瞼のようにしているのも、面白い。しかもヘッドランプのケース周辺を、強いアイラインで“囲み目メイク”を思わせるブラック系の輪郭線を強調していたり、その下のエアインレット周辺にくぼみを作って唇を思わせたり、遊んだデザインだ。
価格は¥5,850,000。プジョーe-208は¥5,124,000からだが、価格差には理由がある。ホイール外径が18インチになるのは600eのみだし、先述の安全運転支援システムなど装備は、フィアットの方が充実している。ダッシュボードの使い勝手なども、個人的には600eのほうが好ましかった。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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