当初の計画に比べると普及が遅れている燃料電池車だが、2019年から三菱ふそう、トヨタ&日野、ホンダ&いすゞといった、乗用車&トラックメーカーが燃料電池トラックの開発を続々と発表している。
EVトラックは、重量物を長距離輸送するには大容量の蓄電池が必要となり、蓄電池自体の重量や体積、コスト面で課題がある。対してFCVは、車両内で発電するので、燃料となる水素を多く積めば燃料電池自体はそれほど大きくする必要がなく、航続距離もEVに比べて長く現実的だと考えられている。
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将来、ハイブリット車にとって代わる車両として開発が進む燃料電池トラック。日本の輸送業界に、大きなFCV化の波がやってくるのか? 現在の状況と、将来の普及のための懸念材料などについて、モータージャーナリストの御堀直嗣氏が考察する。
文/御堀直嗣
写真/三菱ふそう、日野、編集部、テスラ、Adobe Stock
【画像ギャラリー】三菱ふそう、トヨタ&日野が開発する燃料電池トラックを詳しくチェック!!
■国産メーカーが開発を進める燃料電池トラック
2020年3月末に、三菱ふそうトラック・バスが、燃料電池トラック「eキャンターF-CELL」を発表し、年内に量産を開始するとした。これは、2019年の第64回東京モーターショーの会場で公開されたもので、1回の水素充填で300km走行できる。eキャンターF-CELLの車格は、7.5トンで、積載荷物は4トンだ。
生産財であるトラックの場合、総重量に占める動力など機械部分が重くなると、積載重量を減らさなければならず、運送効率が下がる懸念がある。この点、eキャンターF-CELLは、ディーゼルエンジンの4トン積みと同等になるとのことである。
三菱ふそう「eキャンターF-CELL」。最大出力135kW。燃料電池の出力は75kW。バッテリーは110kWとなっている。水素充填は5~10分ほどで、1回の充填での航続距離は300km
2020年3月には、トヨタと日野自動車が共同で大型の燃料電池トラックの開発を行うことを発表した。日野の大型トラックである「プロファイア」をベースに、トヨタが「次期MIRAI」として2019年の東京モーターショーで公開した燃料電池車(FCV)の新しいスタックを搭載することにより、1回の水素充填で600kmを走行できる性能を目指す。車両総重量は25トンで、ディーゼル車との比較は明記されていない。
トヨタと日野が共同開発する燃料電池大型トラック「プロファイア」。次期MIRAIと同じFCスタック2基と、新規初の大容量高圧(70MPa)水素タンクを数本搭載することで、都市間・市街地混合モードでの航続距離約600kmを目指す
2020年 夏登場予定とされるトヨタ「次期MIRAI」。駆動方式はこれまでのFFからFRに変更されている。水素タンク容量のアップにより、航続距離は初代モデルの約30%アップ、約850kmを目標に開発が行われている
大型トラックの場合、少なくとも東京~大阪間の500kmほどは燃料補給することなく走破できることが必要であろう。これを、電気自動車(EV)で実現するのは難しいかもしれない。というのも、eキャンターF-CELLのところで述べたが、トラックの場合、総重量の中に動力や機械部分がどれほどの重さを占めるかで、積み荷の重量が決まってしまうからだ。EVでは、距離を伸ばそうと思うとバッテリー量を増やすことになり、その兼ね合いが求められる。
燃料電池車(FCV)は、水素をどこで充填するかが利用上の最大の課題だ。2019年12月時点での水素スタンド件数は、いまだ112カ所にとどまっている。これでは、いくらFCVの性能が向上したり、魅力的な車種を開発したりしても、普及するわけがない。ことに乗用車は難しい。
一方で、物流を担うトラックや、一定の道筋を往復する公共のバスであれば、行く先がほぼ定まっており、それによって走行距離も読める。限られた水素充填施設でも、定められた場所で燃料補給できれば運用できないことはない。
三菱ふそうトラック・バスを傘下にもつダイムラー社は、世界で最初にFCVの開発を公開した自動車メーカーだ。またトヨタも、ほぼ同じ時期にFCVの開発をはじめてきた。世界で最初にFCVを量産化し、2015年に販売したのもトヨタだ。この両社は、燃料電池技術はもとより、利用への知見も豊富に持つはずである。そして行き着いたのが商用車ということだろう。
長距離トラックであれば、トラックターミナルに水素充填所を併設すれば、荷物の積み降ろしと同じ場所で燃料補給できる。また水素充填所は、安全上、上に建物を建てられず青天井でなければならないが、トラックターミナルは郊外である場合が多く、土地の有効利用の視点からも問題は少ないはずだ。
■懸念材料の残る水素ステーションに関する技術
それでもなお、懸念材料は残る。いずれのFCトラックも、1充填での走行距離を確保するため70MPa(メガパスカル=約700気圧)の水素タンクを搭載するはずである。これだけの高圧水素ガスをタンクに充填するには、水素スタンドでは80MPaの高圧で水素ガスを貯めておく必要がある。その水素ガスを圧縮する過程で、ポンプで加圧するわけだが、高圧にすればするほど水素ガスが温度を高め、膨張する。
温度が上がると膨張する特性は、気体である以上当然の現象だ。たとえば、自転車のタイヤや空気で膨らませる遊具など空気入れを手押しで使った場合、ポンプが熱を帯びることを経験したことがあるのではないか。そして気体は、温度が上がれば膨張する。ポンプで圧縮したいのに、逆に膨張したのでは70~80MPaの高圧水素ガスは貯められない。
一般社団法人 次世代自動車振興センターのまとめでは、現在日本全国に112カ所の水素ステーション(定置式、移動式)がある。法整備は徐々に進んできたが、まだ技術的な課題も多い
そこで、いずれの水素ステーションでも、プレクールと呼ばれる冷却工程がある。つまり、圧縮しても温度が上がり過ぎないよう冷やしながら加圧しているのである。
ポンプとプレクールを併用する水素ガスの加圧過程は、圧縮と冷却というふたつの工程で膨大なエネルギーを必要とする。本田技術研究所の試算では、70MPaの水素タンクでFCVを走らせようとすると、かえって二酸化炭素(CO2)排出量を増やしてしまいかねないとしている。
ホンダは、2008年からリース販売したFCXクラリティでは35MPaのタンクを搭載した。35MPaであれば、プレクールの工程が不要だからだ。しかし、次のクラリティ・フューエルセルでは70MPaタンクを用いた。理由を尋ねると、世界の水素ステーションが70MPa用の基準で設置されたため、やむを得ない措置であるとのことだ。そのうえで、FCXクラリティ時代に70MPaではCO2排出量を増やしかねないという課題を解決できたわけではないとも述べている。
■環境だけでなく運転者にも恩恵のある大型車のEV&FCV化
大型トラックでの物流において、海外ではトラクターヘッドのEV化も行われており、ドイツでは、スカニアのEVトラクターヘッドに電車のようなパンタグラフを取り付け、架線から電気を得てアウトバーンを走る実験が行われている。バッテリーも搭載しているので、架線を離れてもある程度の距離は走行し続けられる。
かつて日本でも、戦後にトロリーバスといって架線から電気を得て走る路線バスがあった。もちろん、架線の保守点検をどのように行うか課題もある。鉄道と違い、24時間クルマは走るからだ。一方で、新幹線のように300km/hを架線からの電気で実現する鉄道技術もあるので、基本的に80km/hで走行車線を走行することを前提とする大型トラックやトレーラーの場合、バッテリーや燃料電池スタックの搭載量を減らせられるので、積載荷物の重量制限への懸念が縮小される可能性もあるだろう。
米国のテスラも、トラクターヘッドのEVを開発していると2019年に報道された。一充電走行距離は、約480~800kmと報じられた。その後のニュースはまだ届いていないが、物流分野での電動化は着実に進む可能性がある。EVかFCVかは、これからの判断となっていくだろう。またトラクターヘッドであれば、総重量から積載荷物の重量を決められてしまうトラックより、バッテリーを多く搭載できることにもなるだろう。
テスラが開発しているEVトレーラー「セミ」。一充電走行距離は、約480~800kmとされているが、詳細がわかる続報がなく本当のところは不明だ
いずれの場合も、電動化は運転者に嬉しい時代となるのではないか。ディーゼルエンジンに比べ圧倒的に快適性は向上し、動力性能はディーゼル以上に低速トルクが大きいので、アクセル操作への応答もよく、さらに、ワンペダルでの加減速を活用すれば、運転を楽に、かつ安全性も向上する。
アクセルペダルを戻せば回生が働き、素早く減速に入れるからだ。運転支援機能の導入がトラック/バスでも進んでいるが、アクセルペダルを素早く戻した際に働く強い回生は、危険回避のための初速を下げ、またモーターであればタイヤの滑りも抑えながら速度を落としていくことに役立つ。
電動トラック/バスの本格的な導入に際しての課題は、何より車両価格と、運航経費である。商用車は、商売で儲けを出さなければならない生産財であり、消費財として消費者の価値観(性能やデザインなど)で価格に対する判断に幅があるのとは違うからだ。明らかにディーゼル車と比べ安くならなければ、運送業者は手を出しにくいだろう。
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みんなのコメント
内燃機関も電気駆動も一長一短があり使用目的に応じて最適な方法を選べばいい。
とにかく選択肢が増えることは将来の為になると思う。