メルセデス・ベンツのフラッグシップとなるSクラスの最強モデルのメルセデスAMG S63 Eパフォーマンスがようやく日本へ上陸した。最新のF1テクノロジーを採用し、S63として初のPHEV。そのハイパフォーマンスぶりを堪能した。(Motor Magazine 2024年4月号より)
Sクラスが手に入れた「鮮烈な感覚と快感」を味わう
きっと世界中で多くの人がそのデビューを待ちわびていた新しい「SクラスのAMG」は、Sクラスの刷新から実に3年という時を経て、ようやくの登場となった。その名はメルセデスAMG S63 Eパフォーマンスである。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
長年のファンにとって一番のニュースはおそらく、スターマークを中央に戴くAMG専用フロントグリルがついに採用されたことだろう。そして、もうひとつが電動化。そう、S63 Eパフォーマンスは初めてPHEVとなったのだ。
メルセデスAMGが目下、電動化へ邁進しているのは、必ずしもCO2排出量の低減だけが目的ではない。背景には、電気モーターがもたらす高出力と優れたレスポンスも、その動機の大きなところを占める。言い方を変えれば、電動化という潮流を口実に、新しい走りの歓びを実現しようと彼らは企んでいるのである。
「Eパフォーマンス」と名付けられたPHEVは、まさにそのために生まれた。S63 Eパフォーマンスは、エンジンにお馴染みのV型8気筒4Lツインターボユニットを用いる。
BSGと高出力モーターで精密無比にアシスト
そのスペックは単体でも最高出力612ps、最大トルク900Nmと超強力。このアウトプットはAMGスピードシフトMCT9G、AMG 4MATIC+により4輪に伝達される。
そこに電気の力でパフォーマンスをアドオンするのが、まずはベルトドライブ式スタータージェネレーターのBSG。エンジン始動のほか、空調などへの電力供給を担う。そして主役が、リアアクスル上にマウントされる最高出力190ps、最大トルク320Nmの高出力モーターである。
こちらは2段ギアボックスとともにエレクトリックドライブユニットとしてコンパクトにまとめられている。
これらを総合したシステム最高出力は実に802ps、最大トルクは1430Nmとされる。0→100km/h加速はこの巨体にして実に3.3秒に過ぎない。
ここまで読んで、つまりメルセデスAMG GT63S Eパフォーマンスからの流用だとわかった人も多いだろう。基本的に、それで正解。しかしながらモデル特性に合わせての、いくつか興味深い違いも見つけることができる。
F1チームと共同開発した高性能バッテリーを搭載
まず出力。車名の末尾に〝S〟が付くだけに、GT63Sはシステム最高出力843ps、最大トルク1400Nm以上とさらに強力だ。そしてバッテリー容量と航続距離。GT63Sが容量6.1kWhでEV航続距離12kmなのに対して、S63は容量が倍以上の13.1kWhとなり、37kmまでEV走行が可能になっている。
このAMGパフォーマンスバッテリーは、メルセデスAMG F1チームと共同で開発されたもので、とくに冷却性能とレスポンスが重視されている。
GT63Sでは、あくまで目的はパフォーマンスの向上だとしてEV航続距離を割り切ったが、さすがに12kmではSクラスのオーナーは満足しないと踏んだのだろう。出力を含めて最適化が、しっかり行われたわけだ。
これほどのパワートレーンを得たら車体の強化も当然必須となる。全長5335mmのロングボディは、エンジン下にアルミニウム製の補強プレートとサスペンション取り付けポイントのクロスブレースを装着。
リアには補強用のアルミニウム製ストラット、CFRP製ラゲッジコンパートメントリセスを追加するなどしてボディ剛性を強化している。
操舵力は軽め。なのに路面との対話は濃密だ
シャシは、2チャンバー式のエアスプリング、伸び/縮みの減衰力を個別に制御する電子制御アダプティブダンパーを用いたAMGライドコントロール+エアサスペンションに、可変スタビライザーのAMGアクティブライドコントロールサスペンション、最大3度の操舵角を持つリアアクスルステアリングを組み合わせる。
説明だけで、ここまで来てしまった。そろそろ皆さん、ウズウズしている頃だろう。それは私も同様である。細かな部分は途中で触れていくことにして、走り出そう。まずはダイナミックセレクトは「Comfort」を選ぶ。
充電状態に余裕があれば、走行はまず電気モーターにて行われる。スペックのとおり日常域で力不足を感じる場面などなく、高速巡航も余裕でこなすことができる。
室内はひたすらに静かで、乗り心地も滑らか。さすがに乗り心地は多少はコトコト、コツコツという当たり感を伝えてくるが、サスペンション自体は柔らかく、総じて十分以上に快適と言える。
操舵力は軽めなのにフィーリングは饒舌なステアリングのレスポンスの鋭さは目を瞠るほどで、とくに街中ではクルマの大きさを忘れられる。もちろん、それはリアアクスルステアリングに拠るところも大きいに違いない。
至高のV8サウンドを、生に近い感覚で堪能できる
アクセルペダルをより深く踏み込むとエンジンが始動する。エンジンに電気モーターが、ではなく電気モーターにエンジンが加勢してくる感覚が新鮮で、何度も試したくなるが、さすがにこの動力性能を使い切るのは難しい・・・と感じた頃に、ちょうどワインディングロードに到着した。
「Sport+」にセットして、少しだけペースアップ。すると、ここで大いに唸らされることになった。意のまま感というのか手の内感というのか、アクセルに足が触れた瞬間に反応が返ってくるような感覚が、とにかく鮮烈なのだ。
もともとのV8ユニットも満足度は高かったが、S63のこの躍動感は何だろうか。後輪を主体に蹴り出す電気モーターが瞬間的にトルクを立ち上げるおかげで、右足ひとつで自在に姿勢をコントロールできる、この体躯にして・・・。ここには間違いなく快感がある。
車両重量は実に2730kg(*)。外寸も重さもスポーツカー的な世界とは180度反対にいそうなものなのに、絶対的な質量感を良い意味で保ちながら、エンジンは軽やかに、何のストレスも感じさせずに回転数を高めていく。
しかもサウンドがまた良い。あまり低音を炸裂させるのではなく、音量が適度なおかげで却ってV8らしい息吹を、生に近い感覚で堪能できるのである。
コーナリングも、ますます引き締まった感触を示す。ターンインから旋回に入り、リアの横力が出てくるタイミングが絶妙で、クルマとの一体感が半端じゃない。
じっくり観察すると、操舵に対してロールを抑え込み過ぎず、アウト側が絶妙に沈み込ませながら曲がり始めている。ここで得られた安心感のおかげで躊躇なくハンドルを切り込めるのだ。
見えてきた実力の片鱗。後席で過ごすだけではもったいない
立ち上がりでアクセルペダルを踏みつければ、リアが沈み込みながらクルマが前に進んでいく。そして、もうじきスキール音が鳴り出すかという、まさに良いタイミングで駆動力をフロントに寄せていって、結果としてS63はオーバーでもアンダーでもない絶妙な姿勢で立ち上がるのである。
高出力モーターはリアアクスルに搭載されているが、その力は後輪だけでなく、必要とあればドライブシャフト、トランスファーを経由し、前輪にまで伝達される。逆に回生も4輪で行われるわけで、その効率の良さ=速さにも十分納得できた。
ただし、そのブレーキは回生との協調にわずかに難があり、踏み込んだ後にペダルがさらに奥に入り込んでしまいがちだ。ここまで来たらもう一歩の進化を望みたい。
正直に言うと今回は、都心を走らせただけでは気づけなかったS63 Eパフォーマンスの本当の実力を知ることができた。どれだけのユーザーがそういう走りをするのかはわからないが、是非一度、最新技術によって彩られ、改めて魅力が浮き彫りになったV8に、鞭を入れてみてほしいと思わずにはいられない。
普段はもっぱら後席という方も、時にはドライバーズシートへ・・・そう誘う1台なのだ。(文:島下泰久/写真:永元秀和)
メルセデスAMG S63 E パフォーマンス 主要諸元
●全長×全幅×全高:5335×1920×1515mm
●ホイールベース:3215mm
●車両重量:2680kg(2730kg*)
●エンジン:V8 DOHCツインターボ
●排気量:3982cc
●エンジン最高出力:450kW(612ps)/5500-6500rpm
●エンジン最大トルク:900Nm(91.7kgm)/2500-4500rpm
●燃料・タンク容量:プレミアム・76L
●WLTCモード燃費:8.6km/L
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:140kW(190ps)/4450-8500rpm
●モーター最大トルク:320Nm(32.6kgm)/150-4000
●システム最高出力:590kW(802ps)
●システム最大トルク:1430Nm(71.3kgm)
●駆動用バッテリー種類:リチウムイオン
●駆動用バッテリー総電力量:13.1kWh(グロス値)/10.5kWh(ネット値)
●EV時走行距離:37km(WLTCモード)
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:前 255/40R21、後 285/35R21
●車両価格(税込):35,760,000円
[ アルバム : メルセデスAMG S63 E パフォーマンス はオリジナルサイトでご覧ください ]
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