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【ヒットの法則366】アウディRS4とA6のエンジンはとびっきり先進的で精巧なものだった

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【ヒットの法則366】アウディRS4とA6のエンジンはとびっきり先進的で精巧なものだった

2007年、アウディのパワーユニットは変わりつつあった。それまで高性能で高効率の一辺倒から、官能といった要素も持ち始めていた。Motor Magazineは2007年10月号の特集「パワーユニット戦略の焦点」の中で、アウディRS4アバントとA6アバント2.8FSIクワトロの試乗をとおして、興味深い検証を行っている。ここではそのレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年10月号より)

変わり行くスタイルはエモーショナル
アウディのパワートレーンは今、一大変革期にある。そう言っても過言ではないはずだ。

●【くるま問答】ガソリンの給油口、はて? 右か左か、車内からでも一発で見分ける方法教えます(2020.01.21)

まずは特性の変化。彼らの送り出すエンジンは、ここに来てパフォーマンスのみならず、フィーリングという点においても、特筆すべき資質を身につけつつある。そして環境性能の深化。欧州ではTDIによってブランドイメージを引き上げたアウディは、ガソリンエンジンに関してもFSIの名の下にいち早く直噴メカニズムを導入し、今ではそれにターボを組み合わせたTFSIにまで手を広げている。そこに彼らは、さらなる新技術の投入を行おうとしているのだ。

まだまだそれだけではない。エンジン単体の話に留まらずクルマ全体のパッケージング面でも、今のアウディには大きな変化が訪れようとしている。

ひとつひとつの要素を抜き出せば、それは変革というほどのものではなく、進化の一過程とでも捉えておくべきものかもしれない。しかし、同時にこれだけの変化が起きようとしているのだ。それは、やはりアウディのパワートレーン戦略に、ひいてはクルマづくりの姿勢に、大きな変革が起きようとしていると捉えるべきではないか。

ここでは、それぞれのテクノロジーが目指す方向を整理することで、パワートレーンに留まらない「アウディのこれから」を推察してみたいと思う。

昨年2006年、登場するや瞬く間に当初予定台数を売り切るという人気を見せつけたアウディRS4は、開発こそ子会社であるクワトロ社ではあるが、実質的にはアウディの持てる技術の結晶と捉えていい。つまり、その姿にはアウディが今後目指していく境地が透けて見えていると言うことができる。

その走りに感銘を受けまくり、個人的に欲しいクルマのひとつとして常に頭の中にあるこのRS4。何より心を揺さぶったのはエンジンである。

V型8気筒4.2L FSIユニットのキレっぷりは、まさに凄まじいの一言。何しろ、この排気量のV型8気筒にしてレブリミット8250rpmという異例の高回転型に仕立てられ、それによって最高出力も420psと、自然吸気でありながらリッター当たり100psを達成しているのだ。

実際のフィーリングも期待を裏切らない。回転数を高めていくに従って加速度的に勢いを増し、それとパワーアウトプットを完璧にリンクさせながらレブリミットまで澱みなく吹け上がる様は、まさに圧巻。重低音から澄んだ高音へと移ろうサウンドの変化も扇情的で、つい夢中になってアクセルを踏み込んでしまう。この快感は、今あるV型8気筒ユニットの中でも、一、二を争うものだ。

今までアウディのエンジンに、これほどまでに気持ちを昂らせるものはなかった。このRS4との出会いこそが、アウディが変わりつつあるということを強く意識させたのである。

同時に登場したS6、そしてS8を見ても、彼らの中で何かが変わったという思いはますます強くなる。何しろその心臓は、ランボルギーニ・ガヤルドのそれをベースとするV型10気筒。パワー、トルクが十分以上なのは当然として、過敏とも評せる一歩手前の鋭さのアクセルレスポンスや、いかにもV型10気筒らしい特徴的なエンジンサウンドなど、そこには乗り手を刺激する要素がふんだんに盛り込まれている。

ひと世代前のSモデルと言えば、S4などひたすらにパワフルかつトルクフルな一方で、およそ官能性といった要素とは無縁の(不思議なことにそれが逆に魅力でもあったが)V型6気筒ツインターボを搭載していたのだと考えると、まさに隔世の感有りだ。

いずれにせよアウディがここに来て、速さ、彼らの流儀で言えば、いついかなる時も乗り手の意思を最大限に汲み取る愚直なまでにリニアな走りっぷりだけでなく、実際の速度以上のドライブ感をもたらすエモーショナルなエンジンであることを明確に志向し始めている。それは確かなことだろう。

一方でエンジンの高効率化、つまりは環境性能の向上に関して言えば、アウディはライバル達の中でも抜きん出て早くから着手していたブランドであると言える。その果実のひとつがFSI。最初に搭載されたのは2003年7月日本デビューのA3だから、すでに4年も経つことになる。さらに彼らは、FSIにターボを組み合わせたTFSIも投入。今やラインアップのほとんどを直噴エンジンとしている。

BMWも2003年に760Liで直噴エンジンを導入しているが、量販モデルの直噴化は2006年登場の335iまで待たなければならなかった。メルセデス・ベンツについては、本国でも直噴エンジンを積むのは現時点ではCLS350CGIの1車種だけで、本格的な展開はこれから、という状況だ。

普及させるための新技術はシンプル構造
そんなアウディだが、FSIの進化の途を止めるつもりなど毛頭ないらしい。2007年8月に発表されたA6 2.8FSIクワトロに、新たに「アウディバルブリフトシステム」を搭載した新エンジンを採用したのである。

これは吸気側カムシャフトにリフト量の異なる2段階のカム山を設け、そのカム山部分を電磁アクチュエーターを使い軸方向にスライドさせることでリフト量を切り替えるというもの。

要するにバルブリフトの2段階可変機構なのだが、世にある同種のシステムのようにカムシャフトとバルブの間に構成部品を追加するわけではないシンプルな構成のため、フリクションロスや可動質量の増大といった問題を回避できるのが、その特徴と言える。

リフト量は高い方が11mm、低い方が5.7mmと2mm。部分負荷用の低リフト側は2つの吸気バルブの開き方をずらすことで燃焼室内にタンブル流を発生させることが可能となり、これによって吸気ポートからは抵抗となるタンブルフラップが取り払われている。

このシステムによって燃費は最大7%の向上が可能になるという。しかもこの2.8Lユニットは、クランクピンやメインベアリングの径の縮小、ウォーターポンプの小型化などによってフリクションロスを低減することで、エンジン全体では従来の2.8Lユニットに対して燃費を10%改善したと謳われているのだ。

最高出力210ps/5500~6800rpm、最大トルク280Nm/3000~5000rpmを発生する、この新しい2.8L FSIユニットを積んだA6。アバント、それもアダプティブエアサスペンション付きということで車重1860kgにも達すると考えると、出足には軽快感がある。ただし、それは巧みな制御の恩恵でもあるのだろう。その先では決してパワフルとは言えないのだが、トルクの出方自体はフラットなため、とても扱いやすい。回転の緻密さも印象的で、アウディに期待する上質感をひしと感じることができる。

しかも、それだけでなく高回転域で気持ちの良い伸びまで味わわせてくれるのだから嬉しくなる。これは3.2Lと同じボア84.5mmに対してストロークを92.8mmから82.4mmに縮小したディメンジョンに拠るところも大きそうだが、とにかくアウディのエンジンは変わってきたのだな、と思わせる出来映えである。

確かに、それを実現するための手立ての凝り具合はともかくとして、これを単なる2段階可変バルブリフトだと評することはたやすい。直噴システムがBMWやメルセデスがすでに採用しているスプレーガイドではなく従来通りのウォールガイドであることも突っ込みどころかもしれない。その代わりにアウディはこのシステムを特別なものとせず、普及モデルで展開している。

今回、アウディバルブリフトシステムが搭載されるのは2.8Lだけだが、来年導入予定のA5では3.2Lにもこれが導入される。つまり今後、この技術はアウディの標準となっていくはず。こうした考え方は大いに評価すべきであるはずだ。

基礎となる確固たる技術、優位性の幅広いアピール
さて、こうしてエンジンも進化の途を辿っているアウディだが、同時にハンドリングの考え方も、近年大きく変わりつつある。それを如実に感じさせたのは、やはりRS4。前後トルク配分を40:60に改めたクワトロによって、これまでないほど「曲がる」アウディに仕立てられていたのである。

そして、その方向は今後、パワートレーンレイアウトの面からも追求されることとなった。先に記したA5では、これまで縦置きエンジン、ギアボックスに次いで配置されていたディファレンシャルをエンジンのすぐ後ろに移し、あわせてエンジン自体の搭載位置を後退させることによって、フロントオーバーハングの短縮とフロントヘビーな前後重量配分の改善を行っている。その効果は甚大で、FFモデルの前後重量配分は何と52:48という数値を実現しているのだ。

このレイアウトに関しては、特にFFモデルの場合、前輪荷重の不足を憂う声もある。しかし、実はこのパッケージングはすでにA8でも採用されているものであり、そのFFモデルの走りには問題ありとは聞かない。そしてクワトロモデルで試した限りでは、A5のフットワークはこれまでにないほどステアリング操作に対するリニアリティに富んだ、素晴らしく気持ちの良いものに仕上がっていたから、心配は無用のはずである。

重要なのは、このA5のプラットフォームが、間もなくデビューするであろう新型A4にも採用されるということだ。将来的には、A6もこの流れに乗るはず。つまり、これも今後のアウディのスタンダードとなるわけだ。

こうして見ていくにつれて明らかになってきた、アウディがパワートレーンの刷新によって目指す境地。それは、より開かれた走りの世界と呼べるものではないだろうか。

かつてのアウディには、まさに「技術による先進」を掲げるブランドらしくテクノロジーオリエンテッドな部分が色濃く、もちろんそれがアウディならではの魅力を形づくってきたという側面がある一方で、やや独善的とも言える世界の構築にもつながっていた。

古くは、効率的ではあるが官能的とは言えなかった直列5気筒エンジンもそうだと言えるし、あるいはFFは前輪荷重が大事だからとエンジンをフロントオーバーハングに積むレイアウトだって、その中に括ることができるだろう。しかし今のアウディは違う。

普遍的に誰もが思う気持ち良い走りの世界をも見据えるようになっている。それは簡単に言えば、気持ち良く吹け上がるエンジンであったり、思いのままに曲がるシャシであったりという話だ。それでも、アウディは世間にすり寄っているわけではないし、その他大勢と似たクルマになってしまったわけでも断じてない。

なぜなら、その背景にはこれまで培ってきたアウディならではの技術という確固たる裏付けがあるからだ。エンジンに関して言えば、ベースには精緻な設計や高い生産クオリティ、そしてFSIに代表される環境対応技術があり、シャシについては、長年のクワトロの歴史が有形無形に反映されていることは明らか。あくまでも、それらが確固たる基礎としてあった上で、むしろその優位性をより広くアピールするべく表現方法を変えてきている。そう解釈するのが正しいのかもしれない。

アウディに乗ると、もちろん時代による変遷はあるとは言え、それでもやはり彼らにしか出せない走りの味を濃厚に感じることができる。きっと、それはここまで見てきた通り、他ブランド以上に強いと言っても過言ではないパワートレーンへのこだわりが反映されているのだろう。言うまでもなくパワートレーンはクルマの心臓であり技術の粋。そこにも貫かれているのは、やはり「技術による先進」という哲学に他ならないのである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2007年10月号より)



アウディ RS4アバント 主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1830×1445mm
●ホイールベース:2645mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:420ps/7800rpm
●最大トルク:430Nm/5500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:4.8秒
●最高速度:250km/h(リミッター)
●車両価格:1017万円(2007年)

アウディ A6アバント2.8FSIクワトロ(エアサス装着車)主要諸元
●全長×全幅×全高:4935×1855×1475mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1860kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2772cc
●最高出力:210ps/5500-6800rpm
●最大トルク:280Nm/3000-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:4.8秒
●最高速度:232km/h
●車両価格:686万円(2007年)

[ アルバム : アウディ RS4アバント、A6アバント2.8FSIクワトロ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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