「リーフ ニスモの試乗会があるんッスけど、来ますか?」
担当編集者Kから、そんなメールが届いたのは先月のこと。もちろん、ニスモと聞いて試乗を断る理由はない。二つ返事で快諾したことは言うまでもない。
かつて日産の追浜はワークス開発部隊が…今ではちょっとゆるいテストコースに!|木下隆之の初耳・地獄耳|
とはいうものの、試乗車の情報がない。担当編集者Kのいつもの手抜きなのか、あるいは日産の情報統制なのか。詳細を明かされず、試乗会場に行ってみて初めて全貌を知る、なんとことも少なくない。詳細な仕様やコンセプトが曖昧なのはそのパターンなのかとも思った。
そんなだから、試乗会場に向かう足取りも重い。まあ行ってみればわかるわい…となかば投げやりだったのだ。
●2018年モデルから2020年モデルへの移行で、見た目で変わったのはシャークフィンアンテナの採用
かくして会場で待機していた試乗車も特別なオーラがない。リーフは日産の主力モデルである。環境車として、日産のイメージを牽引する使命を担う。しかも、2020年仕様として走り味を大幅に変えているという。だというのに、外観にはまったく変化はなく、新鮮味もないのだ。
さらに言えば、試乗に先立って行われるプレゼンテーションも淡白なもの。先の2018年仕様を繰り返しつつ、2020年モデルとして手を加えたパーツをあっさりと告げるだけなのだ。
「これ、なんか違うんッスか?」
編集担当のKは、拍子抜け気味である。
「興味ないですね」
アシスタント女史は、今にもアクビをしそうだった。
「これ、どこ撮ればいいですかねぇ」
カメラマンも写欲がわかないようだ。
とはいうものの、走り出して言葉を失った。特設コースに乗り入れた瞬間から、目を見張るほどの変化が襲ってきたのだ。ハンドリングフィールに劇的な躍動感が加わったことに、腰を抜かし掛けたのである。
ステアリングギア比は超クイックに改められていたから、微小な舵角からでもグイグイとくる。ダンパーは減衰力が高められ、スプリングレートも大幅にアップしている。バンプラバーまでウレタン製に変更されている。高速レーンチェンジでは強烈なGを見舞うのである。2018年モデルとはまったく別次元の走り味なのである。
その様子は本誌(8月20日売り)の記事でも、あるいは僕のYouTube「木下隆之 channelCARドロイド」でご確認ください。
●木下隆之、YouTubeやってます
「これゃ、レーシングカーの作り込みッスね」
「そりゃそうだ、ニスモはレース屋だからな」
「バンプラバーだなんて、久しぶりに耳にしましたッス」
「レース用語に近いからな」
●なぜ外観を変更しないのか、その理由としてはもちろんコストもあるが、現時点で空力的にベストバランスだからだ
「それにしてもですね、こんなに走りが違うのに、外観でアピールしないんッスか?」
「それがニスモらしさなのかもしれないぞ」
「レース屋だからッスか?」
これほどまで中身に違いがあるのに、それを外観でアピールしないのが不思議である。
●強烈な横G。体を支えるために、新たにレカロシートが設定された
たしかに足まわりの進化は、想像するほどコストがかかっていない。ダンパーやスプリングの変更は、比較的簡単にできる。だが、エクステリアの意匠変更は、型から製作せねばならず、「それではガラリと変えましょうか…」とはならないのだ。生産性の問題もある。だが今回は中身のみに手が加わったのだと推察するのだ。
ニスモのそんな控えめなところが嫌いじゃないなぁ。ニスモのそんな不器用さが好きです。だから応援したくなっちゃうのだ。
「レース屋って、面白いッスね」
「質実剛健なのだよ」
「キノシタさんとは違うッスね」
「うるさい…怒」
※以下は、2020年モデルでのおもな変更点
〈文=木下隆之〉
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