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グッドウッド・リバイバル・ミーティング2019に見る、ヨーロッパ自動車文化の奥深さ

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グッドウッド・リバイバル・ミーティング2019に見る、ヨーロッパ自動車文化の奥深さ

Goodwood Revival Meeting 2019

グッドウッド・リバイバル・ミーティング2019

グッドウッド・リバイバル・ミーティング2019に見る、ヨーロッパ自動車文化の奥深さ

1960年代にタイムリープするヒストリックイベント

250人のアクター&アクトレス、250人のスタッフ、280人のウェイター&ウェイトレス&バトラー。彼らのための衣装は1万着以上。広大な敷地の30ヵ所以上に1960年代風のバー、タバコ屋、タクシー乗り場、電話ボックスなどを設置し、その雰囲気を盛り上げるために、数多くのヒストリックカー、バイク、自転車などの小道具を配置する。

これは映画の撮影でも、どこかのテーマパークの話でもない。毎年9月にイギリス・チチェスターにあるグッドウッド・モーターサーキットで開催されるヒストリックカー・レース“グッドウッド・リバイバル・ミーティング”に用意される要素のほんの一例である。

クルマ以外に場の雰囲気を味わう

日本をはじめ世界各地でサーキットを舞台にしたヒストリックカー(&バイク)レースは頻繁に行われているが、グッドウッド・リバイバルほどレース以外の要素に力を入れているイベントは存在しない。

サーキット周辺の道路はホテルからVIPを送迎するロールス・ロイス・シルヴァークラウドIIや、チチェスター駅との間をピストン輸送するクラシック・バス、さらに観客たちが乗ってきたヒストリックカーで渋滞が起き、一歩サーキット内に足を踏み入れるとオフィシャルはもちろん、警官、軍人、ロッカーズ、ミュージシャン、ダンサーなど様々な役柄に扮した人々が出迎え、会場全体が1960年代のイギリスにタイムスリップしたような光景となるのである。

ほとんどの観客もそれに倣って、男性はハット、ジャケット、タイを、女性はドレスやスーツを着用する。もちろん我々メディアも正装していないとパドックやピットに立ち入ることすら許されない。

なぜそこまでする必要があるのか?

それは自動車好きとして知られていた第9代リッチモンド公爵が1948年にウェストハムネット空軍基地の跡地を再利用して開設したこのサーキットが、騒音や安全上の問題で1966年に閉鎖されて以来温存され、1996年に当時の姿のままレストアされたという世界的に見ても珍しい経緯を持っているからだ。

そうした素晴らしい“器”が用意されているからこそ、グッドウッド・リバイバルには世界中から名だたるヒストリックカーとレジェンド・ドライバー、VIPたちが集まってくる。近年はクラシックとは縁のない現役のBTCCドライバーたちもこぞって参加(彼らの繰り広げるバトルはBTCCより面白いと言われるほど!)していたのだが、今年はBTCCとスケジュールがバッティングして参加できないと知るや否や「せっかく楽しみにしてたのに!」と彼らから大ブーイングが出たというエピソードからも、いかにこのイベントが多くの人々を魅了しているかが伺える。

15カテゴリー・17のレースを中心に進行

22回目となった今回も3日間にわたり、子供たちによるペダルカー・レース“セットリントン・カップ”をはじめとする15カテゴリー、17レースが開催されたのだが、その他にもスペシャル・フィーチャーとして60周年を迎えたBMCミニのパレード、同じく60周年を迎えた1959年グッドウッドRAC TTレース、英国コンストラクターの草分けであるクーパー・カー・カンパニー、そして一昨年に公式の場での引退を発表したサー・スターリング・モス所縁のマシンのデモラン、さらには75周年を迎えたノルマンディ上陸作戦のパレードなど、様々なプログラムが行われた。

これだけ沢山のトラック・イベントがありながら、例年より余裕があるように感じられたのは、開催時間が例年より延長されていたためだが、レース中のクラッシュでタイヤバリアの修復に時間が掛かるのを見計らい、急遽プログラムの入れ替えを行うなど臨機応変な運営体制に拠る部分も大きい。こうした手際の良さが参加車の導線の確保や、事故の処理、各所の清掃など隅々にまで行き渡っているのも、グッドウッド・リバイバルの凄さである。

現代と過去をつなぐ見事な演出

個人的にもこのイベントに魅せられ、通い始めるようになって今年で9回目となるのだが、週末を通じて改めて感じたのは、その現代と過去を繋ぐ演出の見事さだった。

例えば1959年RAC TTのデモランでは、走行途中でピットから大々的に黒煙が上がったのだが、これは当時のレースでスターリング・モスのアストン・マーティンDBR1が大火災を起こした故事(モスはロイ・サルヴァドーリのクルマに乗り換えて優勝する)に倣ったもの。

またミニ60周年を祝しアールズコート・モーターショーの会場にsky cinemaの協賛で映画『ミニミニ大作戦』の名シーンを再現したコーナーを作ったりと、知らない世代にはわかりやすく、マニアには「そうそう」と思わず膝を打つような歴史の紹介が所々に盛り込まれているのだ。

時代を感じる旧車エンターテインメントの白眉

一方、コース上では戦前から1960年代のマシンたちが各々のクラスで迫真のコンペティションを繰り広げ、往年のスピードとサウンド、そしてレースの迫力と面白さを伝えてくれる。

そう、ここには観客として“参加”することで、クルマ単体だけでなく、それらが活躍していた時代の雰囲気までも味わえる“旧車エンターテインメント”の世界が成立しているのだ。目の肥えた(そして口うるさい)彼の地の観客が3日間で188ポンド(約2万5000円)もするチケットを買い(しかもすぐにSold outになる!)15万人も押し寄せる理由がお分かりいただけただろうか?

TRACK PARADE:MINI

偉大な大衆車BMCミニの誕生60周年を祝って行われたパレードには、1959年から1968年までのいわゆるMk1モデルが150台以上(中にはレンハム製リムジンやツインエンジン・ミニなんて変わり種まで)も集結。しかも先頭を走る伝説のモンテカルロ・ラリー・ウィナーカー“33EJB”をパディ・ホプカークとラウノ・アールトネンがドライブするという豪華っぷりだった。

TRACK PARADE:D-Day Commemoration

今年でノルマンディ上陸作戦から75周年ということで、第二次大戦中の軍用車両による壮大なパレードが行われた。これも戦時中はウェストハムネット空軍基地として供出され、バトル・オブ・ブリテンや、D-DAYを戦い抜いたグッドウッドの歴史の一部である。

Barry Sheene Memorial Trophy

1966年までのGPマシンによって競われる45分のセミ耐久レース、バリー・シーン・トロフィー。リバイバルの中では唯一の2輪によるレースなのだが、今年のトピックは何と言っても元WGPホンダ・ワークスのダニ・ペドロサがノートン・マンクスで参戦したこと。優勝こそならなかったものの、上位争いを繰り広げた。

St Mary’s Trophy

1950年代のサルーンカーにエマニュエル・ピロ、トム・クリステンセン、リチャード・アトウッド、ロマン・デュマら新旧ル・マン・ウィナーをはじめとするレジェンド・ドライバーたちが乗り込むセント・メアリーズ・トロフィーはリバイバルの花形レースのひとつ。

優勝はスチュードベーカー・シルバーホークに乗った元F1ドライバーのカール・ヴェンドリンガー。今回はNo.1のジャガー・マーク1にリッチモンド公爵の息子、チャーリー・マーチ卿が乗ったのもトピック。ここでも歴史を受け継ぐ準備が始まっている。

Whitsun Trpphy

1966年までの大排気量スポーツ・プロトタイプによって競われるウィットスン・トロフィー。カルン・チャンドック、ダレン・ターナーといったプロドライバーに混じり、日本から唯一参加の久保田克昭氏は、愛機ロータス30S2で7位に食い込む大健闘! 先日のF1イギリスGPのサポートレースでも優勝しているだけに大きな注目を浴びていた。

Adrian Newey

ウィットスン・トロフィーには久々にレッドブルF1のデザイナー、エイドリアン・ニューイも自身の所有するフォードGT40で参加。「素晴らしいクルマたちがコンペティションを繰り広げるのがこのイベントの魅力。今日の調子? まずまずかな?」と語り、序盤は8番手を走っていたがマシントラブルでリタイアに。

TRACK PARADE:Cooper Car Company

ミニにあやかってか、戦後のイギリスを代表するレーシング・コンストラクター、クーパー・カー・カンパニーのトリビュートが行われ、1947年のクーパー・オースティンMk1から1968年のクーパーBRM T86B F1まで50台以上の歴代マシンが集結。先頭を走るのは1964年のクーパーT72F3に乗るジャッキー・スチュアート。「これは私が1964年にグッドウッドで最初に乗ったマシンだよ」とか。

Settrington Cup

1947年から1971年までBMCの工場で3万台以上が生産されたオースティンJ40ペダルカー。イギリスの子供達に馴染み深いこのペダルカーを使ったセットリントン・カップもリバイバルの名物のひとつ。レッドブルF1代表のクリスチャン・ホーナーの子息など、世界のセレブの子供達が参加することでも有名。今年は日本代表として久保田克昭氏の愛娘、麻莉ちゃんも参戦した。

Kinrara Trophy

金曜の夕方に行われるキンララ・トロフィーのスタートシーン。1963年までのGTスポーツが対象のセミ耐久レースで、これにもアンドレ・ロッテラーやダリオ・フランキッティなどプロたちがオーナーと組んで参戦する。優勝はカルロス・モンテベルディ/ゲリー・ピアソン組のフェラーリ250GTO/3851GTだった。

BMW Group Booth

全てが1960年代の世界に統一されるとあって、各自動車メーカー、用品メーカーのブースも1960年代風に統一。中でもグッドウッドにロールス・ロイスの本社工場を有するBMWグループの力の入れようは別格で、本拠地Moosacher Strasse66を模した建物に、各ブランドのクラシックを展示。さらにレースにもワークスチームを送り込んでいる。

Earls Court Motor Show

K) 会場内の展示施設、アールズコート・モーターショーの中にはsky cinemaプレゼンツの『ミニミニ大作戦』の数々のセットが。物語の鍵を握るベッドフォードVAL14バス(中にはもちろん金塊が入っていた)には乗って記念撮影もでき、長蛇の列ができていた。

Press Room

ちなみにここがプレスルーム。インフィールドの野営テントの中には食堂やWiFiも完備。ご覧のように各国から集まったメディアもちゃんと“正装”で参加するのが、暗黙のルール。

Attraction

1959年グッドウッドRAC TTレースのトリビュートの最中にピットから上がった黒煙。当時のレースでトップを走っていたモスのアストン・マーティンDBR1が給油中に出火し全焼した事件を再現したもの。そこまでする!? と思うところだが、そこまでする!のがグッドウッド流。

TEXT&PHOTO/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)

PHOTO/藤原功三(Kozo FUJIWARA)

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