アップデートされた新しい「レンジローバー・スポーツ」のディーゼルモデルは、素晴らしきラグジュアリーSUVだった。今尾直樹がリポートする!
アンダーステイトメント
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レンジローバー・スポーツの、2024年モデルにちょい乗りする機会を得た。諸般の事情により、一般道しか試せなかったけれど、筆者は大いに感動した。レンジローバーではなくて、あえてこちら、レンジローバーの弟分を選ぶのも贅沢である。なんてことを夢想した。
レンジローバーのファミリーにあって、本家レンジローバーよりもグッとスポーティで、だけど価格はお求めやすい。というのがレンジローバー・スポーツである。現行型は2022年登場の第3世代で、いわゆるプラットフォーム、ジャガー&ランドローバーの用語だとアーキテクチャーはレンジローバー用とおなじ、MLA-Flexを使っている。2995mmのホイールベースと、前1700/後1705mmのトレッドが共通なのはその証左といえる。
ただし、ボディサイズはレンジローバー・スポーツのほうが若干小さい。筆者も今回、この第3世代を屋外の駐車場で間近で見て、案外小ぶりなんだ、と、感じた。試乗車がオプションの23インチホイールを装着していたこともある。ボディとタイヤの関係が生み出す美しいプロポーションと完璧なバランスがクルマを小さく見せるのだ。
実際、全長は、レンジローバーが標準ホイールベース型でも5065mmもあるのに対して、レンジローバー・スポーツは4960mmと5.0m以下に収まっている。とはいえ、あと40mmで5.0m。全幅はほぼ2.0m、全高は1820mmもある。
乗り込む前に感動したことは、この第3世代のレンジローバー・スポーツのハイテクぶりだ。レンジローバー同様、キーをもって近づくだけで、格納型のドア・ハンドルが音もなく飛び出して乗員を待っている。ドアを開ければ、オプションのサイドステップが瞬時にボディのフロアから出てきて、ここに足をかけなさい。と、助けてくれる、その動きのスムーズなこと。開けたドアはバタンと閉める必要はない。手動で軽く閉じれば、自動でそ~っとエレガントに閉まるのだ。こういう装備はほかの高級ブランドでも実現しているから、目新しくはないものの、その所作、動きが美しい。
2024年モデルでは、ダッシュボードのテレインレスポンスのスイッチが整理され、タッチスクリーンに集約されている。より室内がスッキリし、シンプル&モダン、洗練度を増した。いささか地味に思えるほど、抑制が効いている。これみよがしの見せびらかしではない。アンダーステイトメントというイギリス流の高級に筆者なんぞは、ちょっと物足りないと思いつつ、惚れ惚れする。
シート表皮には「Ultrafabrics(ウルトラファブリックス)」という人工皮革、ポリウレタン・レザーが用いられている。ちなみにウルトラファブリックスをネットで検索してみたら、創業25年の日本の会社らしい。知りませんでした。これ、見た目もソフトな手触りも高級レザーそっくりで、もしも牛革が環境に悪いのだとしたら、ますます注目されるにちがいない。
夢のクルマパワーユニットはマイルド・ハイブリッド(MHEV)を組み合わせた3.0リッター直6のガソリンとディーゼル、それにPHEVの3種類があって、試乗車はMHEVのディーゼルで、この直6ディーゼルが素晴らしい!
排気量2993ccの本体にターボ過給することで、最高出力300ps/4000rpmと最大トルク650Nm/1500~2500rpmを発揮。発進・加速時には48V規格の電気モーターが13kW(18ps)/5000rpmと42Nm/2000rpmでもってエンジンをアシストする。
モーターの助っ人ぶりがはっきりわかるのはゼロ発進時で、ギヤのセレクターをDレインジに入れてアクセルをゆっくり軽く踏み込むと、音もなく動き出す。徐(しず)かなること林の如く。風林火山の一節を書きたくなるほど、静かに。
走り出して印象的なのは、第1に容量の大きな2チャンバーのエアサスペンションがもたらすストローク量の大きそうな、だけど、タイヤのあたりとホイールの存在をとりわけ低速では感じる乗り心地である。ゴツゴツ揺れるけど、ガッツンという衝撃とは無縁の、オフロードでも快適そうな乗車フィールである。第2に、ディーゼルとは思えないほど静かなことだ。もちろん筆者も最近のディーゼルがガラガラ音とも振動とも無縁なことは知っている。だけど、これほど静かだとは、ちょっとビックリした。
第1については、オプションの23インチ仕様だから、ということもあるだろう。タイヤサイズは前後とも285/40という極太低扁平のピレリ「スコーピオン・ゼロ」。これはSUV用高性能タイヤである。おそらくこのタイヤのトレッドが硬い。いや、オールウェザーだから深いサイプが刻んであるはずで、そうするとタイヤというよりは23インチという大径ゆえの重さに起因しているのか? 車重2480kg(車検証)のスーパーヘビー級で、上屋もさぞ重いだろうけれど、ホイールにも上屋を揺らす質量があると考えられる。いずれにせよ、凸凹路面でタイヤとホイールがよく動く。これを大容量のエアサスペンションが懐深く受け止め、ガツンというショックを乗員に伝えない。たとえ岩場でも空気のバネで快適な乗り心地を実現していそうな、そういう感じ。堅牢なボディも貢献しているはずだ。MLA-Flexの採用で、ボディのねじり剛性は先代比35%高くなっているという。
静粛性については、オプションのMERIDIANシグネチャーサウンドシステムの働きが大きいと思われる。このシステムは、ノイズキャンセリングサウンドも含んでいる。シートのヘッドレストに仕込まれたスピーカーが音を打ち消す音を発することで、人工的に静寂をつくり出している。ただただ静か、というわけではない。直6ディーゼルは極めてスムーズに回り、2000rpmを超えると、ガソリンV8のようなドロロロロッというスポーティなサウンドを控えめに発する。このサウンドも、音響システムが人工的に強調している。音の領域でもデジタル・テクノロジーは大いに進歩している。
レンジローバー・スポーツはレンジローバーとほぼおなじくらいの技術内容を備えつつ、レンジローバーよりグッとスポーティで、レンジローバーよりグッとお求めやすい。試乗車の車両価格が1533万円と知ったとき、安い! と、思っちゃったほどである。
筆者にとっては夢のクルマだが。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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