昭和は遠くなりにけり…だが、昭和生まれの国産スポーティカーは、日本だけでなく世界的にもブームとなっている。そんな昭和の名車たちを時系列で紹介していこう。今回は、昭和46年発売のスズキ フロンテクーペだ。
2スト37psを搭載した、軽初の本格的2シータークーペ
スズキ フロンテクーペ:昭和46年(1971年)9月発売
世界でもっともコンパクトなスポーツクーぺが、鈴木自動車工業(現・スズキ)が送り出したフロンテクーぺだ。
運転免許証番号、12桁の意味。最後の一桁であれがわかっちゃう!
昭和45年(1970年)10月、スズキは好評のフロンテをモデルチェンジし、リアエンジン/リアドライブとしては2代目になるスティングレイ・ルックのフロンテ71を発売した。
同じ時期、ホンダはそれに先駆けてスペシャリティ・ミニのホンダZを世に放った。
このホンダZから遅れること約1年の71年9月、スズキは満を持してフロンテクーペを発表した。ベースとなったのは水冷エンジンを積むフロンテ71Wだが、スタイリングはまったく異なる。これがフロンテクーペの最大のアピールポイントであり、大きな魅力となっている。
低いノーズに角型ヘッドライトを組み合わせ、フロントピラーやリアピラーも傾斜が強い。とても全長2995×全幅1295mmの軽自動車とは思えないほど、スタイリッシュかつスポーティなルックスは、わずか1200mmという全高が大きく貢献している。
また、細部のデザインも凝っていた。ベルトラインは美しいコークボトル・ラインになっており、それがリアクオーターウインドーを経てルーフへとつながる。リアエンドも大胆にカットされ、そこにタテ長のリアコンビネーションランプを組み込んだ。
また、リアクオーターピラーのベンチレーションルーバーやエンジン用のエアインテークも、スタイリングを引き締める大きな要素となった。
スタイリングを手掛けたのは、軽ワンボックスのキャリイをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロだと言われている。
しかし、レンダリング段階では1.5ボックスのワゴンとしてデザインされ、生産モデルとの共通点は見出せない。これをスズキの若手デザイナー達がリファインしてスポーツクーペに仕立てた、というのが真相だろう。
デビュー時点では2シーターモデルだけが発表された。シート後方にわずかなスペースがあるが、これはラゲッジスペースだ。キャッチフレーズも“ふたりだけのクーペ”と、スポーツカー感覚を謳っている。
2+2モデルが投入されたのは半年後の72年3月のことだ。エマージェンシー用のリアシートだったが、発売されるや人気が集中し、2シーターモデルは生産が打ち切られた。
インテリアも軽自動車離れした斬新なレイアウトである。フルスケール1万rpmのタコメーターと140km/hスケールのスピードメーターを中心に、燃料計、水温計、電流計、時計の6連メーターを誇示した。ステアリングもウッド調のスポーティな3本スポークを奢っている。シートもバケットタイプのスポーツシートだ。
パワーユニットもフロンテクーペのセールスポイントのひとつである。フロンテ71Wに積まれている軽快なLC10W型水冷2ストローク3気筒エンジンをリアに搭載した。ボア52.0×ストローク56.0mmのロングストロークだが、吸気系にリードバルブを採用し、騒音とパワーロスを最小に抑えるためにデュアル ラジエターを採用している。
性能的にも群を抜く。わずか356ccの排気量ながら、3連キャブを装着して最高出力は37ps/6500rpm、最大トルクは4.2kgm/4500rpmを発生する。
これにクロスレシオの4速ミッションを組み合わせ、0→400m加速は19.47秒を叩き出した。最高速は120km/hとされていたが、フルスロットルを与えれば130km/hを軽々とマークするだけの実力を秘めている。
サスペンションは前がダブルウイッシュボーン/コイル、後ろがトレーリングアーム/コイルの4輪独立懸架だ。ハードに固められたサスペンションと、39.5対60.4の前後重量配分によってRR方式ならではの小気味良いハンドリングとコーナリングを披露した。
フロンテクーペは、押し寄せる排出ガス規制に飲まれ一時的に姿を消すが、77年にセルボの名で復活する。これは、そのスタイリングがいかに素晴らしかったかの証明と言えるだろう。
フロンテクーペ GX 主要諸元
●全長×全幅×全高:2995×1295×1200mm
●ホイールベース:2010mm
●重量:480kg
●エンジン型式・種類:LC10W型・直3 2ストローク
●排気量:356cc
●最高出力:37ps/6500rpm
●最大トルク:4.2kgm/4500rpm
●トランスミッション:4速MT
●タイヤサイズ:5.20-10-4PR
●価格:45万5000円
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