グループBマシン、ラリー037を復刻
キメラ・エボ37。これほど色々な思いを抱かせるクルマは、過去にあっただろうか。
【画像】キメラ・エボ37 最新の技術で蘇る 名クラシックは他にも 全111枚
すでに走行距離は7000kmを刻む開発車両の車内には、接着剤の匂いが残っている。シャシーのチューニングを詰める目的で、塗って間もない部分もあるらしい。美しいフォルムのボディは、ディティールまでしっかり仕上げられている。
雰囲気は紛れもなく、肉食動物。同時に整然としていて、上品さすら感じさせる。クルマ好きでなくても、思わず見惚れてしまうのではないだろうか。
いわずもがな、キメラ・エボ37の着想の元となっているのは、1980年代にピニンファリーナのスタイリングで仕上げられたグループBマシン、ランチア・ラリー037。ミドシップのラリー・モンスターだ。
筆者がいるのは、イタリア・ピエモンテ州のブスカ国際カートサーキット。まだ43歳だという、キメラ・アウトモビリ社の代表で開発を率いたルカ・ベッティ氏へ話を伺う。「現代の技術でラリー037を生み出したかったのです。同じ個性や魅力を持つクルマを」
オリジナルは、世界ラリー選手権が最も過激だったグループB時代で、最後に優勝した後輪駆動のマシンだ。だがエボ37は、いわゆる一般的なレストモッドとは少々異なる。
ラリー037たランチア・ベータ・モンテカルロをベースとしつつ、ほとんど部品を共有していなかったことと同じく、エボ37も多くが新調されている。ボディシェル以外、すべてが。
ボディサイズはラリー037とほぼ同等
設計自体はオリジナルの037に準じている。サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーン式で、クロモリ鋼のパイプで組まれたサブフレームに取り付けられている。
エンジンはコクピットの後ろ。ベータ・モンテカルロが横置きだったのに対し、こちらは縦置き。実際、ラリー037でも縦置きだった。トランスミッションの整備や修理の作業性を高めるため、かつてのエンジニアが選んだレイアウトだ。
ボディパネルの内側、シェルが同じということで、サイズもラリー037とほぼ同じ。しかしアグレッシブなフェンダーラインはわずかに広く、左右のタイヤの間隔、トレッドもワイド。ホイールベースも少し伸ばされている。全長は同じだという。
マツダMX-5(ロードスター)と同等の全長だが、全幅はBMW 5シリーズに近い。全高はアルピーヌA110より低いそうだ。こんなプロポーションは珍しい。
エンジンを観察できるウインドウの付いた、リアのクラムシェルを持ち上げる。スタイリングから受けた興奮が、さらに高まる。
ベッティはエボ37が公道を走れるロードカーだと説明するが、リアのダンパーは片側に2本付いている。オーバースペックに思えるものの、ランチアがラリー037に与えた仕様として、ここでも再現されている。
フロントアクスル側はダンパーにコイルがかぶさったコイルオーバー・タイプ。リア側は、ダブルウイッシュボーンを支えるスプリングの左右で、オーリンズ社製の精巧なダンパーがシャシーと結ばれている。美しい眺めだ。
ロンバルディ氏が再設計した2.2L直4
サスペンションは2種類から選べるそうだ。1つはこのオーリンズ社製を用いた、公道とサーキットを両立させた仕様。もう1つは、よりサーキットに軸足を置くTTX社製を用いた仕様。どちらを選んでも、減衰力と車高は手動で調整できる。
リアバンパーの直前には、大きなサイレンサーが付いたマフラーが鎮座する。ステンレスが熱できれいに染まっている。大きなターボチャージャーから太いパイプが導かれ、円錐形のエンドパイプへ続く。こちらも037からインスピレーションを受けている。
クラムシェルの内側でセンターを飾っているのが、4気筒エンジン。これには、フェラーリのF1チームを率いていた過去も持つ技術者、クラウディオ・ロンバルディ氏が関わっている。
彼はランチアで技術開発の責任者を務めていた時、ラリー037のパワートレイン開発に携わった。その後フェラーリへ移り、3.5L ティーポ043と呼ばれるF1用V型12気筒エンジンの開発を率いている。
それから20年後、ロンバルディはベッティに招聘され、2.2L 4気筒エンジンの再設計を依頼された。スチール製ブロックを制作し、最終的なセットアップまで面倒を見てくれたそうだ。
エンジンには鋭いアクセルレスポンスを叶えるために、電動式のスーパーチャージャーも組まれている。エボ37を力強く推進させるため、ターボチャージャーと共存している。
ツインチャージャーで420ps以上
オリジナルのラリー037は2.1L 4気筒スーパーチャージャーで、300馬力以上を発揮した。より過激なデルタS4は1.8Lのツインチャージャーで、500馬力以上を絞り出したといわれる。
このエボ37の場合、ターボブースト圧は1.5barと低い。ベッティによれば2.0barで700馬力は簡単に引き出せるというが、2万kmのテストの結果、充分にパワフルで信頼性も担保できることから、この値に留めているという。
今回、試乗を許されたエボ37の最高出力は420psに制限されていた。先代のBMW M2 CSとほぼ同じ馬力で、車重は1050kgと、それより約500kgも軽い。不足はない。
まずはベッティによるデモラン。筆者は助手席でハーネスを締める。サウンドも匂いも、本物感が強い。
アイドリング時でも、エンジンはメカニカルノイズと燃焼音が入り混じった轟音を放つ。現代のターボエンジンとは異なる音色だ。エンジンオイルが燃えた匂いが鼻を突く。このまま市販されるのかはわからないが、むしろ、このままが良いだろう。
ウォームアップが終了すると、ベッティは容赦ない。彼は2度ほど世界ラリー選手権へのエントリー経験があるそうだから、ホイールベースの短いミドシップ・マシンを思うままに振り回せることもうなずける。
ブレーキを引きずりながらのコーナリングをクルマが望んでいるかのように、機敏に動く。しかも速い。カートサーキットということで、ツインチャージャーの2.2Lエンジンを回し切れる時間はほんの僅か。直線での加速には息を呑む。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
夢のような世界ですね。