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競技でも「トヨタ流」を発揮!? 大盛況の「ラリー北海道」 現場で見えた今後の課題とは

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競技でも「トヨタ流」を発揮!? 大盛況の「ラリー北海道」 現場で見えた今後の課題とは

■活況を見せた「ラリー北海道」

 北海道・十勝エリアの5都市(帯広市、陸別町、音更町、足寄町、池田町)で9月8日から10日に開催された全日本ラリー選手権(JRC)第7戦「ラリー北海道2023」。
 
 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)代表のヤリ-マティ・ラトバラ選手の参戦、新井敏弘選手がドライブするスバル「WRX S4」のデビュー、“モリゾウ”こと豊田章男TGR-WRT会長と4回のWRC(FIA世界ラリー選手権)王者であるユハ・カンクネン氏のデモランなど、いつも以上に大きな注目を集めました。

【画像】今年は豪華すぎる! 「ラリー北海道2023」の様子を画像で見る(33枚)

 結果はヤリ-マティ・ラトバラ/ユホ・ハンニネン組が初参戦で初優勝を飾り、2位は勝田範彦/木村裕介組と、「GRヤリス・Rally 2」が1-2フィニッシュを達成。

 3位はヘイキ・コバライネン/北川紗衣組(Rally Team AICELLO)で、同時に今期の全日本ラリーJN1クラスのチャンピオンも確定しました。

 筆者(山本シンヤ)はラリーの前日(7日)と初日(8日)のみの取材でしたが、結果だけではない様々な収穫がありました。

 TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は2023年シーズンの全日本ラリーに2台の開発車(GRヤリス・Rally 2/GRヤリスDAT)を用いて参戦を行なっています。

 目的は「人材育成」と「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の実践です。そのため、チームメンバーは監督/エンジニア/メカニック共にトヨタ自動車の社員で構成されています。

 これは様々なメディアで報告されているのでご存じの方も多いと思いますが、今回の注目はそこではなくモリゾウ選手&ユハ・カンクネン氏のデモランにありました。

 筆者(山本シンヤ)は陸別町でデモランの事前練習を取材しました。

 2台のWRCマシンの運用・整備はトヨタ自動車の社員の手により行なわれています。気にせず見ていると普通の光景ですが、実はこれはかなり画期的です。

 これまではレーシングカー/ラリーカーなど特別なモデルのデモランは専任スタッフが対応と言うのが一般的でした。実際にトヨタも以前はフィンランドのTGR-WRTのメンバーがイベントの度に来日して対応していましたが、その間は彼らの本業が止まる上に手間やお金の問題も。

 そこに疑問を持ったのは豊田章男氏でした。

 豊田氏は「世界で戦うWRCマシンにトヨタ社員がもっと身近に触れることができれば、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりに必ず役に立つ」と直感し、トヨタ社員をフィンランドのTGR-WRTに短期留学させ、WRCマシンの整備や走らせ方を含めた運用方法を学ばせました。

 今回デモランを行なった2台のWRCマシンはトヨタ自動車が所有するテストカーですが、「GRヤリス・Rally 1」は実戦を戦うマシンと同様のアップデートが行なわれていますが、その作業もトヨタ社員の手で行なわれています。

 GRヤリス開発責任者の齋藤 尚彦氏に話を聞くと、「WRCマシンの整備を行なっていると、限られた時間で確実かつ正確に整備を行なうための知恵/工夫に驚かされます。整備性の高さはラリーカーも市販車も同じですので、ここの学びは市販車のGRヤリスにも一部盛り込んでいます」と教えてくれました。

 8月、TGR-WRTとトヨタモビリティ基金(TMF)はフィンランド ユバスキュラ市とカーボンニュートラル達成と持続可能な社会の実現を目指し、人と自然が調和した街づくりを通じた幅広い取り組みを推進するパートナーシップ構築のための基本合意書を締結しました。

 筆者(山本シンヤ)はこの発表が「トヨタがラリー活動をやめない!」と言う宣言に聞こえましたが、豊田氏にその感想を伝えると、「やめると言うのは経済的/マーケティングでやっている場合です。我々がラリーに参戦する目的は『もっといいクルマづくり』と『人材育成』。その目的があるから、経済がどうであれ続けられる。逆にそれをやめたら、トヨタを否定することになります」と教えてくれました。

 デモラン時の何気ない光景ながらも、筆者はラリーを通じて「もっといいクルマづくり」と「人材育成」が確実に前進している事をより強く実感した瞬間でした。

 続いて、愛国のサービスパークに向かうと、TGRテントの向かいSUBARU TEAM ARAIのテントが。

 同チームはラリー北海道からスバル「WRX STI」(先代モデル・VAB型)に代わり、ニューマシンとなるWRX S4(現行モデル・VBH型)を投入。

 つまり、トヨタとスバルの「最新スポーツAWD」の戦いがスタートしました。興味深いのはTGRのGRヤリスが「DAT」、SUBARU TEAM ARAIのWRX S4が「MT」と市販車とは逆のトランスミッションを搭載している点でしょう。

 すでにS耐では「スバル VS トヨタ」のガチンコ勝負が行なわれていますが、全日本ラリーでも同じような戦いを期待したいところです。

■スバルがWRC復帰の可能性も? 豊田章男氏は「盛り上げ役」に

 そんなタイミングで一部のモータースポーツメディアから「スバルがWRCへ復帰する可能性が浮上」「FIA会長が、スバル復帰に向けた話合いがスタートした事を公言」「豊田氏が架け橋に」と報道されました。

 それならば、噂の張本人(豊田章男氏)に聞いてみようと言う事で直撃。豊田氏はこのように答えてくれました。

「私はFIA評議員をしていますが、以前からスレイエム会長と『ラリー1が3チームじゃ少ないよね』という話はしています。

 現在ラリー2は盛り上がっていますが、やはりWRCの頂点のラリー1を盛り上げるためには、参加者を増やす必要があります。

 スバルとは今も仲良くやっており、話し合いはいつもしています。実はラリーフィンランドにスバルの中村会長を誘いました。

 この時はスケジュールの関係で実現しませんでしたが、ラリージャパンにもお誘いしています。とはいえ、最後は『世の中の応援』だと思いますよ」

 今回のラリー北海道の模様は、トヨタのオウンドメディア「トヨタイムズ」が生中継しています。

 陸別町には豊田氏のプライベートチームであるルーキーレーシング所有の大型トレーラーを配置し、ここを拠点に放送が行なわれました。その規模はテレビ中継並みといっても過言ではない様子でした。さらにネットには事前にこのような広告も流れました。

「ラトバラがラリー北海道に出るらしい! あれっ!? その日はギリシャでWRCじゃないの!? チーム代表いないって大丈夫なの? モリゾウがギリシャにいって代行するの!? いや…モリゾウもラリー北海道でデモランするらしい! トヨタのラリーはどうなってるんだ? 大丈夫なのか!?」

 ラリー北海道が行なわれた週は、ギリシャでWRC第10戦「アクロポリス・ラリー・ギリシャ」、そして静岡県の富士スピードウェイでWEC富士6時間レースも行なわれました。

 TGRにとってはどちらも大事なカテゴリーですが、なぜ、ラリー北海道にそこまで力を入れたのでしょうか。豊田氏の答えは単純明快で「全日本ラリーを盛り上げるため」でした。

 TGRのラリー活動は「WRC」「全日本ラリー」「ラリーチャレンジ」となります。WRCはいわば頂点の戦いに対して、ラリーチャレンジはこれまでラリーに参戦したことのないユーザーでも気軽に参加でき、いわばラリーの裾野を担う戦いになります。

 WRCの人気は言わずもがなですが、ラリーチャレンジも毎戦規定台数を超えるエントリーがある人気イベントに成長しています。そんな中、全日本ラリーは国内最高陣のラリー選手権にも関わらず、人気・知名度となるとまだまだ課題はあります。

 つまり、現時点ではラリーのピラミッドがいびつな形になってしまっているのが事実です。豊田氏はそれを健全な形に戻したいと考え、今回は自身が盛り上げ役として人肌脱いだと言うわけです。

 この辺りはトヨタが持続的な復興支援のために東北に拠点を設けた事や、ラリーを通じた持続的な社会の実現を目指すべくTGR-WRT/トヨタモビリティ基金(TMF)/フィンランド ユバスキュラ市のパートナーシップにも通じるものがあります。

 ただ、そうは言ってもWRC/WECは大丈夫なのでしょうか。豊田氏に聞くと笑いながらこう答えてくれました。

「トヨタの強みは『現場力』ですから」

 もちろん、情報はすべて共有されていると思いますが、一般的な会社とは違って上司の判断ではなく「現場の判断で動く」、ただし「責任は上司が取る」と言うスタイルなのがトヨタです。

 豊田氏は常日頃から「情報が現場にある、現場が今どうなっているかを大切にしたい」と語っていますが、トヨタのモータースポーツ活動はそれが実践できているのです。

 このようにモータースポーツを通じて様々な事を考えさせられた取材でしたが、今回より理解できた事は、豊田氏の行動全てに意味があり、その本質は自分のためではなく誰かのために行動する「Youの視点」である事。

 自分も今まで以上にそれを心掛けて仕事をしていこうと、今回の取材を通して改めて思わされました。

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