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F1ドライバーがプレイする“椅子取りゲーム”──【連載】F1グランプリを読む

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F1ドライバーがプレイする“椅子取りゲーム”──【連載】F1グランプリを読む

実力があってF1ドライバーになる者がほとんどだが、金でシートを買ってドライバーになる者もいる。モータージャーナリストの赤井邦彦がF1ドライバーのシート争奪戦を解説する。

F1ドライバーという“夢”

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F1グランプリのシートは20席しかない。現在F1グランプリに参戦が許されているチームは10チーム。1チーム2台のクルマを走らせているので、全部で20台のクルマでF1グランプリは争われている。つまり、20人のドライバーが戦っていることになる。そしてそれぞれのドライバーは1年を通してチームと契約を結んでおり、20人のドライバーの顔ぶれは1年を通して変わらない。事故や病気で走れなくなるドライバーが出れば、交代要員にリザーブ・ドライバーが起用されるが、それは希なことだ。つまり、F1グランプリを戦えるのは20人のドライバーということだ。

しかし、F1グランプリを走りたいドライバーは星の数ほどいる。F1がモータースポーツの頂点である限り、そしていかなる理由であれレースを始めた人であれば、ほとんどすべての人がF1グランプリに参戦したいと思っている。希望として。しかし、レースを始めると直ぐに現実に直面するからだ。夢と現実はそもそも異なるのだ。

まず、自分より速い奴らがワンサカいる現実を突きつけられる。友人達と遊びでレースを始めても、ほんの数人のグループの中でさえ、自分より速い奴が何人かいる。そして、夜ベッドの中で考えるのだ。自分達が参加したようなグループは世界中にいったいいくつあるんだろう、と。両手の指を何度も折って数えても、とても追いつかない。そうか、絶望的だな、と自覚する。こうやって初期の段階からF1ドライバーになれない輩はふるい落とされていくのだ。だが、もし小さなグループの中で一番速ければ、F1ドライバーへの道は開けるかもしれない。そのグループで一番速く、次に集まったやや大人数のグループでも一番速く、さらにその次のグループでも速く……という具合に階段を上っていくことが出来れば、次第にF1ドライバーの夢は現実に近づいて来るはずだ。

現在、F1グランプリに参戦しているドライバーは誰もがこうしたステップを踏んできた。もちろん簡単な道ではないけれど、もともと実力のある者はステップアップをはかっている間にさらに力を付けることになり、いよいよF1ドライバーが現実になる。だが、最後の関門が待ち受けている。それが、F1グランプリのシートは20席しかないという、もうひとつの現実だ。例えば、今まさに幕が降りたばかりの2020年F1グランプリ・シーズンから2021年シーズンに向けての動向を見ると、厳しい現実を目の当たりにすることになる。

いくら速くても意味がない

例えば、いま現実に起きていることを見てみよう。2021年に向けて所属したチームを離れるドライバーは例年になく多いが、そのほとんどがチーム間の移籍で、20席あるシートに空きが出るのは僅かだ。移籍組を見ると、セバスチャン・ベッテルがフェラーリからレーシングポイント改めアストンマーチンへ、ダニエル・リカルドがルノーからマクラーレンへ、カルロス・サインツJr.はマクラーレンからフェラーリへ、セルジオ・ペレスはレーシングポイントからレッドブルへという具合。

Formula 1 Testing in Abu DhabiPeter Foxアレックス・アルボン(レッドブル)、ダニール・クビアト(アルファタウリ)、ロマン・グロージャン(ハース)、ケビン・マグヌッセン(ハース)の4人はシートを失うことになり、F1以外からの新参組はその僅か4つのシートを奪い合うことになった。12月20日時点で決定しているのはアルファタウリに角田祐毅、ハースにニキータ・マゼピンとミック・シューマッハ、そしてルノー改めアルピーヌへはフェルナンド・アロンソが加入する。アロンソ以外はFIA-F2で活躍したドライバーばかり。彼らも数年前にはF1ドライバーを夢見ていた若者だった。F2にはまだ何人かF1グランプリでも通用するドライバーがいるが、座るシートがなければいかに速くても無理な相談だ。

金でシートを買う?

20人のなかには、順当に速さを持ってやってきたドライバー以外にも、金でシートを買うドライバーもいないことはない。ハースのマゼピン、ウィリアムズのニコラス・ラティフィ、アストンマーチンのランス・ストロールらはその類のドライバーだが、ストロールは今年速さを見せつけ、マゼピンはF2で実績を残している。ラティフィはウィリアムズに所属しているせいで本来の力を証明できていない気がする。なぜなら、同じチームのジョージ・ラッセルがウィリアムズでは最後尾に甘んじるのに、新型コロナウイルス陽性となったルイス・ハミルトンの代役としてメルセデスに乗った途端トップを走る力を見せつけたからだ。ゆえに、単純な見方でドライバーの力を評価すべきではないという教訓を残した。そのことから、まだラティフィの実力は測れないでいる。ただ、ウィリアムズがラティフィを乗せたのは、明らかに彼が多額の金を持ち込んだからだ。この現象で理解出来るのは、持参金を持って参入して来たドライバーの最初のシートは、活動資金に乏しく、よって高性能なクルマの開発が困難なチームということになる。

F1 Grand Prix of SakhirMark Thompson20席しか用意されていないF1ドライバーのシートだが、そこには既得権も働いており、速く経験のあるドライバーはなかなか若いドライバーにそれを譲らない。かつては事故で命を落とすドライバーが多く、若いF1ドライバーが今より頻繁に誕生していた時代があった。しかし、今は安全性が高まり事故で命を落とすドライバーはほとんどない。それだけ、新人の参入は難しくなったといえるが、それだけに実力派ドライバーが増えてきて、レースはより激しさを増してきたように思える。F1グランプリのためにはそのほうが歓迎されるべき状況かもしれない。

Formula 2 Championship - Round 9:Mugello - Feature RaceBryn LennonF1 Grand Prix of Abu DhabiPeter FoxF1 Grand Prix of Abu Dhabi - PreviewsPoolPROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)

1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。

文・赤井邦彦

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