フェラーリはシャルル・ルクレールとの契約を延長、そのちょうど1日後にはマクラーレンもランド・ノリスとの契約を延長したことを発表した。いずれのドライバーもそれぞれのチームの重要人物であり、契約を延長したことは驚きでもなかろう。むしろ、彼らが他チームに移籍することになった方が、衝撃が走ることになったはずだ。
ただ今回このタイミングでふたりのトップドライバーの契約延長が発表されたことは、昨年ゆっくりとしたスピードで始まった”椅子取りゲーム”の新たな一歩にすぎない。
■10チーム全て出揃った! 2024年F1新車発表会日程まとめ
2024年シーズンのドライバーラインアップは、2023年の最終戦の顔ぶれと全く同じである。全ドライバーが前年と同じままという状況は、長いF1の歴史の中でも初めてのこと……これは嵐の前の静けさであり、2025年に向けては多くの動きが見られるのは必至であろう。
これから先、およそ20ヵ月の間にドライバー市場で起きるすべてのことは、2026年を見据えたモノだ。2026年からはテクニカルレギュレーションが一新され、パワーユニット(PU)が全く新しいモノとなる。
この2026年に挑むPUメーカーは全部で6つ。そのうちどのメーカーが優位に立つかは、蓋を開けてみるまで誰にも判断できない。中でも新規参入のアウディとフォード/レッドブル・パワートレインズの見通しは、まったくの未知数であると言える。
そんな状況で全てのドライバーは、ルイス・ハミルトンがメルセデスに移籍した時と同じようなことを実現しようと狙っている。ハミルトンはマクラーレンに所属していた2012年の9月に、2013年からメルセデスに加入することを決断。その後2014年に現行のPUレギュレーションが導入された際、圧倒的な優位性を持っていたメルセデスPUを武器に、チャンピオンを6回獲得した。ハミルトンはレギュレーション変更を見据えたチーム移籍で大きな成功を手にしたのだ。誰もがこの再現を狙っている。
さて今回契約延長が発表されたルクレールとノリスは、”新時代”とも言える2026年以降までまたがってチームと契約を結んだ3人目と4人目のドライバーである。
ひとり目はマックス・フェルスタッペンで、レッドブルと2028年までの超長期契約を結ぶことを決めた。ふたり目はオスカー・ピアストリで、マクラーレンと2026年までの契約を交わしている。
ただ今回ドライバーとの契約延長を発表した2チームは、その契約期間を明確にしていない。フェラーリはルクレールについて「あと数シーズン」在籍すると明かし、マクラーレンは2025年までとなっていたノリスとの契約を「複数年」延長するとしている。
とはいえいずれも、2027年末までの契約は結ばれているはずで、それ以降に関するオプションもしっかり用意されていると考えて間違いない。
その他のドライバーを見てみると、来季の契約を既に結んでいるのは、メルセデスのハミルトンとジョージ・ラッセルのふたりだけという状況だ。このふたりは、チームと2025年末までの契約を結んでいる。
それ以外の全てのドライバーとチームでは、2025年以降に向けてまさに椅子取りゲームが始まっている。その中には、レッドブルという”特等席”も含まれている。
チームとドライバー側は、お互いに意見を交換し合い、2025年だけでなく新レギュレーションが導入される2026年以降についても、シートが埋まる前に適切な契約を確保しようと躍起になっている。そしてそれをめぐる憶測とゴシップが、今後続々と噴出してくることだろう。
■安定を勝ち取ったマクラーレン
前述の通り、ノリスとマクラーレンの契約は2025年シーズンについても契約を結んでいたため、将来を確定することを急ぐ必要はないはずだった。しかし両者とも、今が契約をさらに延長する適切なタイミングだと考えたようだ。
レッドブルの首脳陣が、ノリスを獲得し、2026年からフェルスタッペンのチームメイトに据えることを考えていたのは周知の事実である。マクラーレンは、ノリスを誘惑するあらゆる話を阻止するため、早々に契約を発表したのだろう。
マクラーレンが苦戦していた昨年前半には、ノリスを囲い込むような動きはありそうもないと思われた。むしろ競争力のない体制に、ノリスがいつまで耐えられるかということが話題の中心だった。
しかし2023年シーズン中のマクラーレンのアップデートが大成功し、一躍レッドブルに次ぐポジションまで上昇してみせた。それを考えれば、今のマクラーレンは良い立ち位置にいるようにも思える。
そしてマクラーレンは、メルセデスとのPU供給契約を2030年まで延長。このことは、ノリスが契約を延長する上で必要だった最後のピースだったのかもしれない。
これでマクラーレンは、ノリスとオスカー・ピアストリを抱えることになった。このことは、世代最高レベルもドライバーが、チームに対して信頼を寄せているということを外部に発信するメッセージとなった。
「チームで働いていて、そこにドライバーがいる時、彼らが他のチームと繋がっているのが分かる……それはおそらく決して簡単なことじゃない」
ノリスはそう語った。
「おそらく人々は、それを疑問に思うだろう」
「だから僕は、ここマクラーレンのみんなに少しでも安堵を与えたいと思うし、それはチーム全体に対する信頼の表れでもあるんだ。それが最も重要なことだと思う」
「彼らは今、僕がチームに全力を尽くし残留する、そしてフェラーリやレッドブル、メルセデス……そういうチームを差し置いてマクラーレンを選んだことに、安堵感を抱いているはずだ。それは僕自身というよりも、彼らのためだと思う」
ノリスはさらに、今のマクラーレンは良い位置にいると考えていることを明かした。
「今後数年間は、あまり心配したくないことだ。僕たちの将来については、常にこういう議論が行なわれてきた」
「そして今は、とても、とても良い時期だと思う。特に、他のチームの全ての契約や、チームを移籍する可能性のある人たちなど、状況がもう少し混乱し始める数年後を考えるとね」
「2026年から新しいレギュレーションの時代に突入するが、そのような重要な数年間で、僕やチームが考えたり、集中したり、時間を費やしたくないことなんだと思う」
■ライバルチームはどんな選択肢を選ぶのか?
一方でフェラーリは、マクラーレンのような長期の安定性をまだ半分しか手に出来ていない。ルクレールとの契約延長は、フェラーリに不満を覚え、チーム移籍を目論んでいるとも言われていたひとりのドライバーを獲得するチャンスを、ライバルチームから奪い取ることになった。
しかしルクレールのチームメイトであるカルロス・サインツJr.の将来はまだ未定のままだ。昨シーズン中にサインツJr.は、2024年シーズンが開幕する前に将来を確定させたいと明言していたが、現時点ではまだ不透明なままだ。今後数週間のうちに契約延長が発表される可能性もあるが、サインツJr.に他チームからの興味が集まり、決心が揺らぐ要因となってしまう可能性もある。
メルセデスは、2025年のドライバーラインアップは決まっているものの、それも2025年のみ。新レギュレーションが導入される2026年には、ルイス・ハミルトンは41歳になる。彼がその先もキャリアを続けるかどうか、それ次第で状況は大きく変わってくることだろう。
またレッドブルのセルジオ・ペレスの将来にも、今後注目が集まることになるだろう。ペレスはシートを確保し続けるためには、今シーズン大きな飛躍を遂げなければならない。
レッドブルのマシンは、現時点では実に魅力的だ。しかし、フェルスタッペンのチームメイトを務めるというのは並大抵のことではない。そしてレッドブルが2026年から使う、自社製のPUにどれほどの競争力があるのかは、誰にも分からない。
■2026年新パワーユニットの出来を、見通せる者は誰もいない
同様の疑問符は、全てのPUサプライヤーにまつわるモノだ。しかし新規参入の2メーカーよりも、既存の4メーカーの方がより強力なポジションからスタートする可能性が高いのは、間違いないところだろう。
アウディのワークスドライバーとなることは、もちろん実に魅力的なことだろう。しかしF1で最初のシーズンにどんなパフォーマンスを発揮できるかは分からない。
また正式には復帰という形となるホンダは、2026年からアストンマーティンを新たなパートナーに迎える。しかし、今と同じような最高クラスの体制を築けるかどうかは分からない。
ルノーは前回のレギュレーション変更で躓いたが、今回は当時よりも良い仕事をし、アルピーヌに幸先良いスタートを切らせることができるだろうか?
ドライバーとそのマネージャーは、現在アクセスできる状況が限られている。その状況で決断を下さなければいけない。一方でドライバーが決まっていないチームは、現在のエントリーリストの外も含めて候補を探していくこととなる。
「2026年を見通せる水晶玉は存在しない」
レッドブルのチーム代表であるクリスチャン・ホーナーは、昨年の段階でそう認めた。
「誰が競争力を手にするのかは誰にも分からない。まったく新しいシャシーのレギュレーションと、完全に新しい空力の哲学が導入されるため、シャシーが重要な役割を果たすことになる」
「電動化と燃焼に二分化されるエンジン(PU)は重要な役割を果たすことになるが、燃料も同様に重要な役割を果たすことになる。したがってゼロから始める我々にとって、そのことは最大のリスクでもあり、最大のチャンスでもある」
「これは興味深い旅路になるだろうし、全てのPUメーカーが信じられないほど一生懸命働いていると確信している」
「新しいメーカーが参入してくる。アウディもそのひとつだ。でもこれは、現在のPUのレギュレーションにおける課題とは、大きく異なるモノなんだ」
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