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RBとアルピーヌ、マシン改良で別れた中位勢の明暗。スタートでノリスに感じた人間性【中野信治のF1分析/第10戦】

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RBとアルピーヌ、マシン改良で別れた中位勢の明暗。スタートでノリスに感じた人間性【中野信治のF1分析/第10戦】

 スペイン・カタルーニャ州バルセロナに位置するカタロニア・サーキットを舞台に行われた2024年第10戦スペインGPでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季7勝目、自身通算61勝目を飾りました。

 今回はアップデート投入も苦戦したRB、アップデート未投入もダブル入賞を果たしたアルピーヌ、そしてランド・ノリス(マクラーレン)とフェルスタッペンの戦いなどについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

角田裕毅「何かがうまく機能しておらず苦戦した」懸命な調整でも解決せず「アップデートへの期待が外れた週末」とチーム

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 スペインGPではノリスがキャリア2回目のポールポジションを獲得し、今季2勝目の可能性も十分にありましたが、戦略の違いもありフェルスタッペンが勝利を飾りました。トピックスの多い一戦となりましたが、なかでも、前戦までトップ5チームに次ぐ、中段勢トップにつけていたRBの苦戦は意外でした。

 フロントコーナー、コーク/エンジンカバー、サイドポッド・インレット、フロアボディ、ビームウイング、リヤウイング(DRSトラブルに伴いフリー走行2回目以降は旧型を使用)にアップデートを投入したRBでしたが、今回は完全に迷路にハマっていたように見えました。アップデートが機能できず、ダニエル・リカルドが15位、(角田)裕毅が19位と、2台揃って入賞することが叶いませんでした。

 カタロニア・サーキットは高速コーナーも多く、ストレートも長めのコースです。そのため、セットアップをコーナリング重視にするのか、それともストレート重視にするのかが悩ましいコースだったりします。

 ただ、ストレートがある程度速くなければタイムは稼げないというところがあり、おそらく最終的にはダウンフォースを削り気味にしたセットアップで臨んだと思います。ですが、それによって決勝のペースに苦しみ、クルマそのものも乗り辛そうな動きを見せていました。

 前戦カナダGPまでの良さが失われた要因が今回のアップデートによるものなのか、それともクルマそのもの、プラットフォーム自体の問題なのか、それともスペインGPに向けたセットアップの最適化ができなかったのかは、外から見ているだけではその答えはわからないというのが正直なところです。

 おそらく、チームもスペインGPの週末のうちには原因がわからず、それゆえに迷路にハマってしまったのではないでしょうか。そのため、RBはスペインGPで投入したアップデートの効果について、次戦のオーストリアGPでもう一度確認する必要があるのではないかと思います。オーストリアGPはスプリントもありますから、2台でセットアップを分けたりして、スペインGPでの苦戦の原因を素早く確認し、答えを導き出していく方法しか取れないのかなと思います。

 私が見る限り、スペインGPでのRBのマシンは曲がらない、アンダーステアなクルマになっていました。曲がらないからこそ、オーバースピードでコーナーに入ってみたり、ブレーキの使い方を変えたりとアンダーステアを消すための試行錯誤し、その末にオーバーステアまで出てしまうという状況で、マシンにまとまりがありませんでした。その様子を見るに、アンダーステアに悩まされたというよりも、全体的にグリップが不足していたように感じました。

 一方で、スペインGPでアップデート未投入のアルピーヌが、ピエール・ガスリーが9位、エステバン・オコンが10位とダブル入賞を果たしました。アルピーヌのクルマは飛び抜けた部分こそありませんでしたが、よく曲がり、ストレートでもそこそこの速さを見せていました。カタロニア・サーキットは路面のミュー(摩擦係数)が高くてグリップするコースですので、セットアップの最適化もうまくいった結果、本来のマシンパフォーマンスを引き出すことができたというふうに感じますね。

 アルピーヌは、スペインGPでこそアップデート投入はありませんでしたが、それ以前に苦戦するなかでも細かなアップデートを投入していました。スペインGPではそれまでのアップデートやセットアップの最適化が活きたのではないかと感じます。それだけに、次戦のオーストリアGPでも今回のような速さを見せるかどうかは別の話かもしれません。

 ただ、マシンの動きを見る限り、カタロニア・サーキットのようなクラシックなクローズドコースであれば、トップ5チームに食い込む走りを発揮する可能性は今後もあると思います。

 前回や前々回のコラムにて、スペインGPは「本当の意味での勢力図を知ることができるグランプリ」と書かせていただきましたが……意外な結果になりました。今のレギュレーションの車両は一筋縄では行かない、今までと同じ物差しでは測れないのだなと感じましたね。

 スペインGPで速かったマシンが、翌週のオーストリアGPでも引き続き速さを見せるとも限りませんので、改めて、スペインGP、オーストリアGP、そしてイギリスGPの3連戦を、じっくりと見てみようと思います。

 さて、勢力図といえばマクラーレンとレッドブル、ノリスとフェルスタッペンの戦いです。予選ではノリスがポールポジションを獲得し、決勝でも単純なマシンの速さだけを見れば、明らかにマクラーレンの方がレッドブルに優っていたと思います。

 マクラーレンのマシンはステアリングの舵角も少なく、小さなコーナーでも速さが際立っていました。高速コーナーではレッドブルの方が少し安定感があり、“踏めている”と感じましたが、タイムを出しに行くという部分ではマクラーレンの方がぜんぜん楽にタイムを出せるクルマになっていました。

 それだけに、スタートでジョージ・ラッセル(メルセデス)にトップを奪われ、3番手に後退したこと。そして1回目のピットストップを前にしたファーストスティントを長めに取った戦略が悔やまれます。

 ピット戦略に関してはレース後、マクラーレンのチーム代表のアンドレア・ステラは「リードしていても、まったく同じ戦略を取っただろう」と、コメントしていましたけど、実際はどうだったのかは疑問が残るところです。私が思うに、ノリスもファーストスティントを引っ張ることなく、ライバル勢と近い戦略を採っていたら、もっと違った展開になっていたと思います。

 また、スタートでラッセルとフェルスタッペンに競り負けたというのも、大きな敗因です。たとえラッセルに先行を許しても、フェルスタッペンだけはなんとか抑えるべきだったのではないかと思います。競り合いはクリーンでしたが、あの場面ではノリスの優しさと言いますか、そういう一面が少し出ていたのかなと感じますね。

 そして、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が3位に入り、今季初表彰台を獲得しました。タイヤの使い方を含め、カタロニア・サーキットのようなクラシカルなコースに来ると、ハミルトンの良さや上手さが出てくるなと感じます。ここから続くレッドブルリンクや、シルバーストン・サーキットなどもクラシカルなコースですので、ハミルトンの強さが発揮されるのではないかと思います。

 次戦オーストリアGPの舞台レッドブルリンクは1周の距離も短く、タイム差がないので大接戦になると思います。ストレートの長さもそこまで長くはないので、DRSが使えても際どい抜き方が多くなるコースでもあります。それゆえに接触も少なくはないのかなとも思ったりします。

 昨年もトラックリミット違反の多発が大きな話題となりましたが、レッドブルリンクはタイムを出そうとすると、飛び出しやすいコーナーが多いレイアウトだったりします。そのため、今年もトラックリミットに悩まされるドライバーは少なくはないと思います。一発のタイムを刻む際、そして決勝中タイヤが厳しくなった際はコントロールが非常にシビアになります。そのような難しさもあるなか、各ドライバーがいかに走り、戦うのかは注目です。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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