ヤリスクロスはヤリスベースのコンパクトSUVで、2020年8月31日から販売を開始した。すでに年内納車が難しくなるほどのバックオーダーを抱えている。
クルマは魅力的な商品が出ると必ず既存の車種にも影響が出る。それは同じクラスのライバルだけでなく、クラスを超えたクルマにまで影響は及ぶことも珍しくない。
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また、同一メーカーのモデル、ヤリスクロスの場合はトヨタのほかの車種にも必ず影響が出てくる。
ヤリスクロスの登場により影響を受けるクルマについて、渡辺陽一郎氏が考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、NISSAN、MAZDA、平野学、池之平昌信、ベストカー編集部
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ライバルに比べて安い価格設定が魅力
ヤリスクロスは全長4180×全幅1765×全高1590mmで3ナンバーサイズとなるが、SUVとしてはコンパクトだから日本での使い勝手も悪くない
2020年8月31日に発売されたヤリスクロスが注目されている。売れ筋のコンパクトSUVで、価格も割安に設定したからだ。
最も安価なノーマルエンジンのX・Bパッケージは179万8000円。
このグレードは、Xから衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能を省いた仕様だが、価格は9万8000円しか下がらない。安全装備を省くのは、レンタカーやカーシェアリング向けの低価格仕様としても論外だ。従って推奨できないグレードだが、価格の安さを訴求する効果はある。
各種の装備を充実させた最上級のハイブリッド2WD・Zは258万4000円だから、ライバル車のキックスX(275万9900円)、ヴェゼルハイブリッド2WD・Zホンダセンシング(276万186円)に比べて約18万円安い。この価格差も話題を呼んだ。
キックスはハイブリッドのe-POWERのみの設定と割り切ったため、ライバルに対して価格が高めに映ってしまう
ヤリスクロスはライバルに比べてもかなり割安な価格設定となっている
コストを抑えて最大限の変化を実現
ヤリスクロスの価格がライバル車よりも約18万円安い背景には、複数の理由がある。
まず前述のライバル車への対抗だ。コンパクトカーのエンジンやプラットフォームを使ってSUVを造った場合、一般的には価格が35万~40万円高くなる。そこをヤリスクロスでは約18万円の上乗せに抑えたから、価格がライバル車よりも安くなった。
ヤリスをベースにして共有パーツを増やしながら、見事にSUV化してイメージチェンジ。このあたりにトヨタのうまさが光る
価格を安くできた理由は、ヤリスクロスとヤリスを比べた時の違いがライバル車よりも小さいからだ。
ボディパネルは異なるが、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)はヤリスクロスになっても10mmしか拡大されず、インパネの基本レイアウトもヤリスと大差ない。そのためにヤリスクロスは価格の上乗せを抑えられた。
インテリアはヤリスに比べてサイズアップしているが、基本レイアウトを変更していないことがコストダウンにつながっている
トヨタのSUVラインナップの価格的バランス
トヨタが用意するSUV同士の価格バランスに配慮した結果でもある。ノーマルエンジンを搭載する2WDの場合、ライズZの価格は206万円、ヤリスクロスZは221万円、C-HR・S-Tは241万5000円だ。
このようにトヨタ車同士が重複しない価格を実現するには、ヤリスクロスを抑える必要があった。
C-HRは車格、性能の割りに価格設定が安めだったが、これがヤリスクロスの価格設定にも大きく影響。ユーザーにとってはかなりラッキーだ
仮にヤリスクロスZの価格をライバル車と同じく18万円高めたら、C-HR・S-Tとほぼ同額になってしまう。C-HRの全長はヤリスクロスよりも約200mm長く、直列4気筒1.2Lターボの動力性能も1.8L並みだから、ヤリスクロスの直列3気筒1.5Lよりもパワフルだ。
この2車種の価格が同等だと、ライズやC-HRと比較された時、ヤリスクロスが割高になる。この問題を避けるためにも、ヤリスクロスはライバル車に比べて価格を安くする必要があった。
見方を変えると、もともとトヨタのライズやC-HRは割安で、その整合性を図るためにヤリスクロスも価格を抑えた。
さらにいえば、RAV4が割安だったり、ハリアーで最も安い2LのSを299万円に設定した背景にも、トヨタのSUVラインナップ全体に通じる価格バランスがある。
トヨタは日本メーカーで最大のSUVラインナップを誇る
将来の戦略を見越した価格設定
このほか今後のトヨタのコンパクトカー戦略も絡む。ヤリスのエンジンやプラットフォームを使った車種として、まずヤリスクロスが登場したが、今後も以前のファンカーゴに相当する背の高いコンパクトカーが加わる。
ダイハツが製造するルーミー(タンクは廃止された)は、背の高いコンパクトカーでも、直列3気筒1Lエンジンを搭載して価格は150~170万円前後が売れ筋だ。
今後登場するヤリスをベースにした背の高いコンパクトカーは、ルーミー&タンクよりも高い190万~200万円前後が中心的な価格帯になるだろう。
トヨタはかつてのファンカーゴのような、ルーミーよりも上級クラスで、ヤリスベースのハイトワゴンの投入が確実で、ヤリスクロスの価格はそのモデルともリンク
そうなるとノーマルエンジンの2WDで見た場合、ベース車のヤリスGが175万6000円、今後登場する背の高いコンパクトカーが190万~200万円、ヤリスクロスが202万~221万円となり、ここでも重複することなくヤリスシリーズの価格体系がキレイに並ぶ。
以上のようにヤリスクロスの割安な価格は、キックスやヴェゼルといったライバル車への対抗手段、トヨタSUVラインナップにおける価格の整合性、今後充実させるヤリスシリーズの価格バランスという3つのニーズに基づく。
そこにダイハツ製OEM車との価格区分も加えたから、相当に練り込んだ価格設定といえるだろう。
多大な影響を受ける同一クラスSUV
このようにヤリスクロスは複数のカテゴリーや車種を視野に入れて価格を決めたから、販売面でも数多くの車種に影響を与える。
他メーカー車では、コンパクトSUVのキックス、ヴェゼル、CX-30、CX-3が影響を受ける。
キックスとヴェゼルについては、前述のようにヤリスクロスよりも18万円高い。CX-30は2Lノーマルエンジンの2WD・20Sプロアクティブが261万2500円だから、排気量の違いもあり、ヤリスクロスZを約40万円上回る。
マツダCX-3は買い得感の高いガソリンモデルの15Sを追加したことで販売は上向き。今後ヤリスクロスの影響は少なからず出るハズ
CX-3は1.5Lエンジンの2WD・15Sツーリングが199万1000円だから、ヤリスクロス2WD・Gの202万円と同等だ。
CX-3の1.5Lは、同車の販売テコ入れのために設定され、価格を戦略的に安く抑えた。ヤリスクロスの価格は、その買い得感を強調したCX-3の1.5L車に近い設定だ。
CX-30とCX-3の売れ行きは少ないが、キックスは発売直後の新型車だから、ヤリスクロスの割安な価格は辛いだろう。
ヴェゼルは発売から7年近くを経過するため、ヤリスクロスの登場で、設計の古さと割高感が従来以上に目立ってしまう。
コンパクトSUVで販売好調のマツダCX-30。ヤリスクロスが安さ、走りの軽快感で勝負するなら、こちらは質感で勝負!!
ただしマイナス要素だけではない。ヤリスクロスのような売れ筋の注目車が発売されると、ライバル車にも目が向くからだ。
「小さなSUVといえば、ヴェゼルもあったよね」という具合。
このタイミングを見計らって注目される改良を行ったり、割安な特別仕様車を追加すると、ヤリスクロスの発売を効果的に活用できる。「ピンチをチャンスに変える」機動力を発揮できるか否かで、販売動向も変わるわけだ。
残価設定ローンの逆転現象
ヤリスクロスが身内のトヨタ車に与える影響も大きい。今ではトヨタの全店(4600店舗)で全車を購入できるから、人気車は売れ行きを大幅に伸ばす。その代わり顧客を奪われる車種も生じる。
全店が全車を売ることで、系列という垣根が実質的に取り去られ、トヨタ車同士、トヨタ系販売会社同士の競争が激しくなっている。
そうなるとトヨタ車では、ヤリスの売れ行きが影響を受ける。ヤリスとヤリスクロスの価格差は、装備の違いを補正すると実質18万円前後だから、予算に余裕があると、外観に存在感があって荷室も少し広いヤリスクロスを選ぶだろう。
トヨタの全店全車種扱いになった弊害がモロに出ているのがアルファード/ヴェルファイア。ヴェルファイアの苦戦は今後も続きそう
特に今は残価設定ローンが普及した。5年間の均等払いにした場合、ノーマルエンジンを搭載するヤリスクロス2WD・Zの月々の返済額は3万2500円、ヤリスはアルミホイールを装着して条件を合わせると3万3000円だ。
残価設定ローンでは、ヤリスの月々の返済額がヤリスクロスを上回ってしまう。
こうなる理由は5年後の残価(残存価値)だ。ヤリスクロスは新車価格の37%となる81万7700円と高額だから、この金額を除いた返済額を安くできた。
対するヤリスの5年後の残価は、新車価格の25%と平均的だから、割賦元金が安くても月々の返済額は増えてしまう。
ヤリスとヤリスクロスは残価設定ローンを使うと、リセールバリューの関係で車両価格の高いヤリスクロスのほうが月々の支払い額が少なくなる逆転現象
残価設定ローンを利用する場合、リセールバリュー(中古車として再販売する時の価値)の高い車種が有利になるため、残価設定ローンの返済額が価格の順列と逆転する現象も起こり得る。
そして販売会社にとって、新車価格が高く、なおかつ中古車になっても高値で流通する商品は魅力的だ。
そのために販売店では、「ヤリスとヤリスクロスで迷われるお客様には、リセールバリューの高いクロスのほうが有利だと説明している」という。そうなるとヤリスクロスの登場で、今後ヤリスの売れ行きが影響を受ける可能性は高い。
好調なライズも影響を避けることはできない
同様のことは、ほかのトヨタのSUVにも当てはまる。
今まで価格が200万円台の前半で買えるSUVはライズのみだったが、今はヤリスクロスも加わった。ライズは5ナンバー車で、悪路向けのSUVに似た雰囲気も備えるから商品の性格はヤリスクロスと異なるが、それでも影響を受けるのは避けられない。
デビュー以来販売絶好調で何度か1位を獲得しているライズ。ライズも安いがヤリスクロスはさらに買い得感があるため影響は出るハズ
C-HRは都会的なSUVだから、雰囲気がヤリスクロスに似ている。従来ならC-HRを選んだユーザーが、今では割安なヤリスクロスを購入することも考えられる。
この数年間の国内販売状況を見ると、1年間に500万~520万台の横這いが続く。そうなるとヤリスクロスが登場して好調に売れれば、トヨタ車、他メーカー車を問わず、いろいろな車種が影響を受ける。
そこで販売下降を抑えるために、ほかの車種が改良を行ったり、割安な特別仕様車を追加すれば、ユーザーのメリットも高まる。
ヤリスクロスは、コンパクトSUVの世界にいい刺激を与えてくれるだろう。
ヤリスクロスの登場により、コンパクトSUVに注目が集まれば、そのほかのクルマも思わぬ恩恵を受けることもある
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