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ジル・ビルヌーブ事故死から40年。関係者の秘蔵インタビューから紐解く知られざる素顔、ピローニとの関係

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ジル・ビルヌーブ事故死から40年。関係者の秘蔵インタビューから紐解く知られざる素顔、ピローニとの関係

 1982年5月8日、ひとりのレーシングドライバーが天に召された。フェラーリのジル・ビルヌーブは、ゾルダーで行なわれたF1ベルギーGPの予選中、ヨッヘン・マスと接触したことによりハイスピードでクラッシュし、息を引き取ったのだ。

 ビルヌーブの事故死に関しては、前戦サンマリノでチームメイトであるディディエ・ピローニとの確執が生まれたことや、そのピローニも後に大怪我を負ったことなども含め、その波乱に満ちたエピソードが何度も語られてきた。しかし、当時フェラーリでチーフデザイナーを務め、チームのコンストラクターズタイトルに貢献したハーベイ・ポスルスウェイトの証言は、今日までほとんど表に出ていない。

■儚くも散った天才、ジル・ビルヌーブの生涯(1):「ティフォシのニューヒーロー」

 1999年に急逝したポスルスウェイトはその3年前、筆者に対してあのシーズンの出来事、ビルヌーブとピローニの複雑な関係について語ってくれた。その音声を収録したカセットテープは、20年以上使われることなく、箱の中で眠っていたのだ。

 同世代のデザイナーであるパトリック・ヘッドと同様、ポスルスウェイトもドライで感傷に浸るようなことはしない人間であった。しかし、ビルヌーブという男に対しては数多くの思い出があるということは確かだった。

「ジルは完全に狂った男だというイメージを持たれていた」

 ポスルスウェイトはそう語っていた。

「狂った、というのは正しい表現ではないかもしれないが、マシンに乗ればとにかく速くて、無鉄砲で……そんなところだ。しかし実際はそうではなかった」

「彼はドライビングに真剣だった。ただ何事も限界まで攻めるのが好きだったんだ。そして1周1周が、前に走ったラップと同じ速さかそれ以上でありたいと思っていた。それが彼の限界への攻め方だったのだろう」

「彼は人々が思っている以上に明るかったし、狂った人間ではなかった。世間では(その逆の)イメージが日に日についていたが、私は彼が真面目で明るい男だと思っていた」

「彼は政治的な面はなく、マシンのことをシンプルに、明確に話してくれた。その点は非常に評価されていたと思う。ただ彼が驚くほど速かったのは間違いない。彼は歴代で最も速いレーシングドライバーのひとりだろう」

 ビルヌーブは1977年の終盤からフェラーリに加入したが、ポスルスウェイト曰く、御大エンツォ・フェラーリはその時からビルヌーブに好印象を抱いていたという。

「フェラーリは今よりもずっと政治色の薄いレーシングチームだった」

「とはいえ、誰かの仕事に首を突っ込んで気分を害してはいけないという風潮はあったが、ジルはそんなことを気にしなかった。マシンが良くないと思えばそう言うし、それによって人を怒らせていたが、彼は気にしていなかった」

「でも、オールドマン(エンツォ・フェラーリ)はそんな彼を気に入っていた。彼らには共通言語がなく、お互い辛うじてフランス語で話せる程度だったが、あれほどまでにエンツォ・フェラーリと親しくしていた人はいなかったと思う」

「それはジルが他の誰にもできないことをやってのけたからだろう。ミハエル・シューマッハーのように、ベストではないであろうマシンを誰よりも速く走らせることができたんだ」

 一方で、ピローニは異なるタイプの人間だったとポスルスウェイトは語る。

「彼(ピローニ)とフェラーリで働くまで、彼のことは全く知らなかった。彼はそれほどオープンな人間ではなく、彼のことを知るのは難しかった。でも彼も速かった」

「ジルはどこでも速く、特にツイスティな低速コーナーでは驚くほど速かった。一方でピローニは高速コーナーで非常に速かった。勇敢でアクセルを緩めないからだ。面白いことに、彼らはお互いを補完し合っていたんだ」

 そんなビルヌーブとピローニは固い友情で結ばれていたが、それが崩壊してしまう出来事が起こった。1982年サンマリノGP、ビルヌーブが事故死するひとつ前のレースだ。

 このレースではイギリス系チームのボイコットにより出走台数も限られており、ルノー勢が戦線離脱してからはフェラーリ2台の独壇場となった。2台がランデブー走行する中で、首位のビルヌーブはレース前の取り決め通り、このままポジションをキープしてゴールすることになると思っていたが、ピローニは最終ラップにビルヌーブの前に立つと、ポジションを譲ることなくトップチェッカー。レース後、ビルヌーブはピローニと二度と口をきかないと誓ったのであった。

 ただポスルスウェイトは、この一件がフェラーリ陣営に与えた影響は世間が思うほど大きくなかったと考えていた。

「ふたりの間にあったとされる憎悪は誇張されていると思う」

「イモラで起きたことに対して、一時的に憎悪が生まれたかもしれない。しかしそれは誇張されていた。確かなのは、当時のチーム内では特にこれを問題視するようなことはなかった」

 それはつまり、イモラでの一件を咎められないほどに、ピローニがフェラーリ内で強い立場を築いていたということなのか? ポスルスウェイトはこう話す。

「彼(ピローニ)の立場がジルよりも強かったとは思わない」

「むしろ逆だ。フェラーリの内部政治を単純化することはできない。そしてオールドマンは起こったことの全てを把握していて、ふたりを連れて話をした。オールドマンはテストを視察するのが好きで、そこではドライバーとよく話していた。彼はよく状況を理解していたと思う」

 ビルヌーブはゾルダーでもなお、ピローニに対する怒りをあらわにしていた。そのため、ビルヌーブがゾルダーで事故死したのも、予選でピローニが出したタイムを上回ることに固執しすぎた結果の出来事だというのが通説となっている。

 しかしポスルスウェイトはそれを否定した。彼はその時マラネロに戻っていたため、現場での様子を実際に見た訳ではないというが、次のように語っていた。

「ジルは常に予選で誰よりも前に行こうと必死だった。レースでもそうだ。勝利への執念がすごく、どんな時も、誰であってもオーバーテイクする。それが彼のやり方なんだ」

「個人的には、イモラでの出来事がそのままゾルダーでの出来事に繋がったとは思っていない。これっぽっちもだ。良く出来た筋書きだが、私は何の関係もないと思っている」

 ビルヌーブを喪ったフェラーリは後任にパトリック・タンベイを起用。ピローニはオランダで2勝目を挙げると、混戦のチャンピオンシップをリードしていた。残り5戦、ピローニの9ポイントリードでホッケンハイムに向かった。

 ウエットコンディションで行なわれた土曜午前のセッションで、ピローニはルノーのアラン・プロストのマシンに激突し、宙を舞った。ビルヌーブの事故と酷似したシチュエーションにも関わらず一命を取り留めたピローニだったが、脚に重傷を負ったことでレースキャリアを終えざるを得なかった。

「一体何ができると言うのだ? それがモーターレーシングだろう? そういうことは起こり得るんだ」とポスルスウェイトは言う。

「そのふたつのアクシデントは非常に深刻で、それが1年の間に起きたというのは非常に悲劇的だった。そして多くの人々に影響を与えたと思う」

「今となってはその時の感情を思い出すのは難しい。面白いことに、ビルヌーブのアクシデントよりもピローニのアクシデントの方が記憶に残っている」

 ピローニは以降の5レースを全て欠場したが、最終的にウイリアムズのケケ・ロズベルグに次ぐランキング2位に。ドイツで勝利を収めたタンベイの貢献もあり、フェラーリはコンストラクターズタイトルを手にした。

 その後ピローニは1986年にAGSとリジェでテストに参加したものの、F1復帰は叶わなかった。そして彼はパワーボートでのキャリアをスタートさせたが、1987年のワイト島沖での事故で帰らぬ人となったのだ。

 ポスルスウェイトは、ビルヌーブは事故がなければ、1982年のワールドチャンピオンになっていただろうと考えていた。

「ジルは間違いなく、あの年のワールドチャンピオンになっていただろう。マシンもエンジンも良く、チャンピオンになれるくらいには優勝や表彰台を記録しただろう」

「個人的には速いドライバーが好きだし、彼も速かった。ジルはテレメトリーのない時代のスターだ。今はより科学的になってしまっているので、彼のような人間がレースに勝てるかどうかは分からないがね」

「あの後、彼が(生きていれば)どうなったのかは分からない。ただ、彼は何度かタイトルを獲得し、このスポーツにおける素晴らしいアンバサダーになっていただろうと信じたい」

「彼は素晴らしいキャラクターの持ち主だった。イタリアのファンは速いドライバーが好きだし、彼は他のドライバーができないようなことをやってのけた。彼はヘリコプターに乗って、それを一回転させる……言わばそんな人間だった。当時はそれが評価されていたんだと思う」

 最後にポスルスウェイトは、ビルヌーブとピローニの関係についてこう語った。

「個人的に、あの件が大げさに取り上げられるのは好きではない。誇張されていたと思う」

「ドライバーたちの間で何が起きていたのか、確執はあったのかどうかということについて様々な噂が流れ、中には真実もあったが、それらは誇張されていた。私はふたりのことをよき友人として覚えている方がずっと良いと思うし、実際コース外では良い友人関係を築いていたと記憶している」

「彼らはふたりとも素晴らしいドライバーで、非常に速かった。そんな彼らがふたりともアクシデントで命を落としたのは悲劇としか言いようがない」

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みんなのコメント

1件
  • F1のチームを競馬の厩舎に例えるなら、馬にあたるのがナンバーワンドライバーだ

    ディディエ・ピローニ
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