自動車評論家であり、プロドライバーでもある国沢光宏氏が、本誌『ベストカー』にてクルマ界の様々な事象に毎号舌鋒鋭く切り込む連載「クルマの達人」。数ある執筆記事の中から、ボルボの衝突試験の取材を通して考えたことについての記事をプレイバック!(本稿は「ベストカー」2013年10月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:国沢光宏
ボルボの衝突試験取材から考える 国産メーカーの「物足りなさ」【復刻・クルマの達人】
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■ボルボの衝突試験の取材を通して考えたこと
2013年8月登場のS60 T6 AWD(マイナーチェンジ)。4000カ所以上にも及ぶ細部の改良ポイントとともに、ミリ波レーダーなどで前方走行中の自転車を捉え、追突を回避、または軽減する「サイクリスト探知機能」の採用が大きなトピックだ
10年ぶりにボルボ本社の衝突試験センターの取材をしたら、思わずウナってしまった。以下、要旨をば。
日本の自動車メーカーの物足りなさは、国交省が決めた衝突試験以外のテストを行なわないことにある。
例えばオフセット衝突試験なら64km/hと決まっているため、それ以上の速度で衝突させる試験を行なわない。
ほかのクルマと衝突させる時の角度だって決まっており、それ以外の事故形態はコンピューター上でしかチェックしません。
いっぽう、実際に発生している事故を見ると、逆に「同じ形態」などあり得ない。
当たり前ながら事故の状況はひとつひとつ違う。なぜ日本の自動車メーカーは国交省が決めた試験しか行なわないのだろうか?
こちらもマイナーチェンジを果たしたV60 T4 SE
この質問、ほぼすべての自動車メーカーにしてみた。
皆さん共通して「ほかの試験をやらない理由」を熱心に説明してくれます。つまり「やろう!」という気持ちより「やっても意味なし」と思っている。昨今の「事なかれ主義」が衝突試験まで到達している?
ボルボの主張は明確かつ「そうでしょうね!」だった。
曰く「実際の事故を分析することによりクルマの衝突安全性を高められる」。
保険金が60万円以上(4500ユーロ)掛かる4万2000件/7万人の事故内容をすべて徹底的にチェックし、そのなかから年間20~30件について再現試験を行なっているのだという。
つまりデータの少ない事故形態が発生したら、そいつを再現させ、車体ダメージとダミーの状態を解析しよう、ということである。
今や走行中の車両と車両を衝突させる試験はどこのメーカーでも行なっている。
真正面だけでなく、角度を付けて衝突させる試験も行なう。しかしボルボとホンダを除き、衝突させる角度が決まっているのだった。
日産は5度きざみ。トヨタなんか15度きざみ。つまり実際の事故の再現を想定していない。
もちろん速度だって同じ。基本的にオフセットやクルマ同士の事故は64km/hで行なう。これまた実際だとあり得ないこと。
こちらは2020年の「ボルボ・カーズ・セーフティセンター」の衝突実験施設20周年を記念して作成された動画 ※新たに追加したものです。
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■IIHSのスモールオーバーラップ
スバルアイサイトのデモンストレーション
「達人コラム」で何度かアメリカIIHS(道路安全保険協会)が独自に始めた「スモールオーバーラップ衝突」を紹介してきた。
今までのオーバーラップより「衝突させる面積」を少なくした形態で、アメリカにおける重篤事故の典型例になっている。
この試験、今まで安全性の高さをアピールしてきたベンツやBMWなどドイツ勢すら次々と厳しい評価となり、トヨタに至っては試験を受けた全モデルがすべて落第(プアという厳しい判定)。通常のオフセット衝突とまったく違う結果になった。
慌てた日本勢は急遽アメリカ向けモデルだけボディ構造の変更まで行なう事態になっている。
今やアメリカ向けの車種の開発チームは、スモールオーバーラップ対応にテンテコ舞いしているのだった(大半はアメリカ仕様だけ安全性を強化してます)。
そんななか、ボルボは未対応のまま続々と最高評価を獲得している。
以前の達人コラムで紹介したとおり、10年前に取材した時からスモールオーバーラップの危険性を認識しており、対応していたからだ。
オーバーラップ率だけでなく、衝突速度の差も決定的な違いが出てくることだろう。
ボルボは64km/h以上での試験データもたくさん持っており、可能なかぎり対策してきたそうな。もっと意外だったのが乳幼児の乗せ方。実際の事故を分析した結果、日本の常識と大きく違う。
これについては次号で詳しく紹介したい。いずれにしろ日本の自動車メーカーもそろそろ次のステップを踏み出すべき時期を迎えたと痛感しました。
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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みんなのコメント
10年以上も経てば安全性は更に向上されているし、過去のこんな記事はなんの意味もない。