今シーズンナンバー1のマシンに乗るルクレールが、またもやチャンピオンから遠のいてしまった。運も実力のうちというのは、F1もしかりであるが……。ルクレールVSフェルスタッペン。そしてメルセデスのハミルトンが息を吹き返してきた。 フランスGPについて元F1メカニックの津川哲夫氏が振り返る
文/津川哲夫
写真/Ferrari,Mercedes,Redbull,Haas,McLaren
ポール発進のルクレールがまたしてもリタイア! そのスピンのワケと、正常進化してきたメルセデスを私的解説
マックスのプレッシャーに負けたのか? ルクレールが突然スピン!
またしてもルクレールは目の前のチャンスを失ってしまった。今回は本人も認める大きなミス。レッドブルのフェルスタッペンがアンダーカットを敢行。ルクレールより先にタイヤ交換を行い、ルクレールのピットインまでに差を縮める “追いつけ追い越せ”作戦だった。
ルクレールはこれに応え、自分のピットインを有利にするためにペースを目一杯上げた! つまり“プッシュ! プッシュ!”走行だ。
しかし激しいプッシュ走行は、既に大分くたびれてきているタイヤでは我慢が効かない。ミストラルストレートの終わり、高速ターン11で体勢を崩しスピン、そのままバリヤーへ突っ込みリタイアしてしまった。
レーススタート後のわずか18周目の出来事だった。2022年フランスGP勝者への興味はここで奪われてしまい、結果的にフェルスタッペンの一人旅。これでフェルスタッペンは7勝目だ。
アンダーカットを狙ったマックス。ルクレールは焦りがあったかスピンしてリタイア
メルセデス2台が上位2チームとほぼ同じペースで追撃!!
しかしルクレールが消えた後、フェルスタッペンの独走でレースが退屈になったのか? とんでもない、何といっても2台のメルセデスの頑張りが実に興味深いレース展開を見せてくれた。
メルセデスは英国GPでのアップデート投入から前回のオーストリアGP、そしてこのフランスGPまでに、まずは不振の元凶となっていたポーポシングを掌握。もちろんポールリカールサーキットの路面の良さも幸いしたのだろうが、実にスムーズかつハイスピードカーへと変身してきた。まだまだトップ2チームには及ばないが、確実に向上している。この開発ペースならシーズン終盤戦での1勝あるいは2勝の可能性はありそうな気配だ。現実にフェラーリの信頼性の問題、ルクレールの好不調・運不運などもあり安定感が足りていない。またレッドブルのペレスにも好不調の波がある。
調子の上がらないペレスに追いつくラッセル。VSCで出し抜きラッセルは3位獲得
こう考えればハミルトンとラッセルのメルセデスコンビにチャンスはあるはずだ。事実ハミルトンは4連続表彰台、ラッセルはポーポシングに悩んだ前半戦から連続入賞を続け、既に表彰台に4回。おまけに今回はメルセデス鉄壁の2-3位ダブル表彰台だった。今後へ期待が膨らむ。
マシンがよくなりハミルトンが台頭し、ラッセルはプレッシャーを感じている
今回のラッセルは若さゆえの荒さによるネガティブと、ベテラン的狡猾さというポジティブな両面が目立っていた。ラッセルは若手ではあるが既に4シーズン目の経験を持つ中堅、その才能は昨年までのウィリアムズ時代に十分に発揮されてきた。今シーズンからメルセデス・ワークスに移籍すると、走らないW13ながら開幕戦からポイントを取り続け、予選でも絶対的エースのハミルトンをアウトクオリファイする程の活躍だった。しかし、マシンが改善してくると徐々にハミルトンに遅れるようになっている。
それでも安定して成績は良く、今回もレッドブルのペレスとの素晴らしいバトルを展開。このバトル中ペレスを追い上げミストラルシケインで仕掛けたが、アウト側のペレスに閉められ接触寸前、ペレスはそのままインカットしてラッセルの前でコース復帰。ラッセルはこれに怒り、無線で大仰にアピールも、これはレーシングアクシデント的なインカット。それを造り出したのはラッセルと判断され、双方おとがめなし。しかしラッセルはその不平を無線で繰り返し、ついにはボスのトト・ウルフから「運転に集中しろっ!」と怒られてしまった。
クルマがよくなり、徐々に速さを取り戻したハミルトンは2位表彰台
ハミルトンといえばスタートダッシュでペレスをかわして3番手をキープ、ルクレールのクラッシュで順位を上げ、ドラマを作らず粛々とレースをこなし、全くミスの無い2位表彰台だった。それも暑い気候の中でドリンクボトルが働かず、ノードリンクでの完走2位はまさに王者の貫録。できる範囲の最大限を絞り出す、戦い方を心得た、目立たずも、見事なレースクラフトだ。ライバルに遅れをとっているメルセデスのマシンながらその最高値を引き出す技量と精神力はまさに王者の風格なのかもしれない。このチャンピオンの圧力はポイントで前をゆくラッセルにはかなりのプレッシャーになっているはず。ラッセルのメンタルが今シーズンどこまでこの圧力に耐え、立ち向かってゆくか、まだまだ楽しみは続きそうだ。
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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振り返るのは、シーズン終わってからにして欲しい。