2015年10月にマイナーチェンジを行なったクラウンシリーズ。中でもアスリートターボの変身ぶりには驚かされた。なんとライバルはBMW3シリーズやメルセデスベンツCクラスなどを挙げている。つまり走行性能に相当な自信があるということだろう。さっそく試乗インプレッションをお届けしよう
<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
試乗したのはアスリート G-Tで、2.0Lターボ搭載モデルの中でも533万円と最も上級仕様。さらにオプションのアドバンスドパッケージ(ミリ波レーダー式運転支援システム、ITSコネクト:10万円)、レザーシートパッケージ(25万円)、そして新設定のジャパンカラーセレクションパッケージ(30万円)装備というフル装備車だった。つまり約600万円というプレミアムカークラスの価格となっている。価格ではまさに真っ向勝負!
アクセルを踏み込むと、軽く加速が立ち上がる。特別な低速側でのトルク感はないが、回転の上昇に合わせてリニアで軽快なフィーリングだ。また滑らかさも4気筒の常識を上回るほどスムーズだ。またある程度回転が上がると聞こえてくるエンジン・サウンドにも迫力がある。これも今までのクラウンでは考えられないチューニングだ。
エンジン全体の評価としては、このエンジンの開発コンセプトである低回転から高回転まで途切れのない加速感は確かに達成されており、3.0~3.5L自然吸気エンジン相当のダウンサイジング・エンジンとしてポジションしているのは納得できる仕上がりといえる。
■インパクト十分なシャシー性能の向上
このエンジン以上にインパクトがあったのは、シャシーの仕上がりやステアリングの操舵フィーリングだ。クラウンで伝統的ともいえるうねり路面などでのリヤの上下動が消えており、うねり路面、舗装の継ぎ目などを通過してもフラットな乗り心地になっていた。
高速道路で荒れた路面を通過してもサスペンションがきちんとストロークして追従し、ボディはフラットに上下動するだけでピッチングが抑えられている。またワインディングでの走行シーンでは、コーナリングで横Gが強まってもロールはジワっと始まり、安心感があるのだ。欲を言えばボディ全体の剛性感、一体感がもっと欲しくなるが、これは次期型でおそらく実現されるのだろう。
中でもクラウンとして考えると激変したのはステアリングの操舵フィーリングだ。クラウン・シリーズは法人ユーザーが多く、ドライバーはステアリングと対話しながらコーナリングするのではなく、コーナリングに対応した舵角を切るという舵角対応タイプの人が多数派と考えられ、そのために操舵の軽さを重視した「なべ底特性」としていたのだ。
なべ底特性とは、ステアリングを切っても操舵力、操舵反力をほとんど立ち上がらせず、大舵角になってからようやく立ち上がってくるという特性のことを言う。しかしアスリート・ターボはドライバーズカーに徹するために、微小舵角からリニアに操舵力、操舵反力が立ち上がっていく特性に変更していた。
つまり舵角に応じた操舵フィールが感じられるのだ。この滑らかで自然で、気持ちよい操舵フィーリングは、ステアリングギヤの精度が大幅に高められたように感じるほどで、これでようやく大容量のラックアシスト式電動パワーステアリングの本来の実力が発揮されたと感じた。またタイヤもハイパフォーマンス系のポテンザRE050Aが装着され、操舵フィーリングの向上にも貢献しているはずだ。
高速でのコーナリングでもしっかり路面インフォメーションを伝え、同時にステアリングコラムなどの取り付け剛性も格段に向上しているように感じられ、安心感があった。
ところがエンジニアに確認したところステアリング系の剛性向上は特に行なっていないとのことで、結局、横Gが高く、うねりがあるような路面でこうしたフィーリングに感じるのは、リヤ・サスペンションがきちんとトーイン側に向いてグリップ力が高められ、それが操舵フィーリングにフィードバックされている結果だと説明する。
いずれにしても高速ワインディングを走った印象はBMW 3シリーズに匹敵し、乗り心地はランフラットタイヤを装着している3シリーズに勝るフィーリングで、アスリート・ターボの基本性能の高さは十分に評価してよいだろう。
こうした走りの進化は、トヨタ社内のTNGAを契機とした「もっといいクルマ」活動の成果であり、このアスリート・ターボで実現した操舵フィーリングが今後のトヨタ車のステアリングのベンチマークになっていくという。
気持ちよい走りで、唯一気になったのはブレーキのフィーリングだ。軽いブレーキからぐっと強めに踏み込んだ時に制動力が少し逃げる感じだった。こういう場面では踏力に応じたブレーキ力が欲しい。
クラウン・アスリートG-Tの印象は走りに関しては驚くほどレベルアップしており、ドライバーズカーとして覚醒したといってもよいだろう。しかしその一方で、600万円台のセダンとしては、いくつかの不満もある。
シートはかなりフィット感にこだわっているとはいえ、腰椎のサポートがちょっと物足りない。またドアの閉まり音はこのクラスとは思えないほど貧弱だ。それ以外では、メーターパネル中央のディスプレイ面積が小さく、そこに運転支援システムの表示が詰め込まれているため、視認性がいまいちだ。またセンターディスプレイの空調のコントロールなどの操作性や操作感もいまひとつ高級感に欠けるという感じだった。
もちろん今回はマイナーチェンジのため、こうした部分まで手が入れられないという事情は理解できるし、トヨタとしても十分認識しているので、次期型モデルでは100%解決されると見ていいだろう。
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