開発コンセプトに掲げた3本柱とは!?
『ジクサー250』譲りの油冷4スト単気筒エンジンを心臓部に、フロント19/リヤ17インチの足まわりをセットした『Vストローム250SX』。チーフエンジニアの鈴木一立さん(スズキ株式会社二輪営業商品部)によれば、3つの目標を掲げ開発されたとのこと。詳しく教えていただきました。
ニーゴーになぜ2機種!? 乗ってナットク「Vストローム250SX」の存在意義!!
■Vストローム250SXの開発目標3本柱
1.冒険心を掻き立てるスタイリングデザイン2.ツーリングでの使い勝手と快適性3.ツーリングでの走破性
アドベンチャーらしいスタイル
まず1つ目の柱「冒険心を掻き立てるスタイリングデザイン」について、鈴木さんはこう言います。
タフで機能的な外観を与えました。まず“クチバシ”です。一目でわかるシリーズ共通のクチバシデザインを採用しました。
ヘッドライトはスズキのアイデンティティである縦配列のLEDヘッドライトです。ナックルカバーを標準装備することで、高速道路や長時間運転時の指先・両腕の疲労を軽減します。
また、エンジンアンダーカウリングとオイルクーラーガードを標準装備。どちらも鉄製で、前輪からの小石や泥からエンジンをガードします。
ツーリングのための装備にこだわった
次に2つ目の柱、「ツーリングでの使い勝手と快適性」について。鈴木さんは「利便性」「積載性」「航続距離」「快適性」そして「視界」の5つの項目に沿って説明してくれました。
まず1つ目の「利便性」ですが、特にこだわったのはスピードメーターだと教えてくれます。液晶ディスプレイは背景が黒、文字が白のネガティブ液晶が採用されています。
すっきりと見やすいレイアウトで、スピード、回転数、ギヤポジション、燃料残量、距離、燃費、電圧等を表示。注目はメーター側面、左側です。USBソケットが標準装備されています。スマートフォンの充電に使用でき、イグニッションをオンにすると導光帯がブルーに点灯します。
『Vストローム250』もメーター左側に12V電源があり、DCソケットを備えています。『Vストローム250SX』では定格5V2AのUSBソケットに進化しています。
また、「スズキイージースタートシステム」を新採用。セルスイッチをいちど押せば、スターターモーターが数秒間回り、エンジンを確実に始動できます。
高い積載力で旅の相棒に
2つ目の項目「積載性」については、アルミダイキャスト製のリアキャリアを標準装備したことで、高いレベルで満たされています。鈴木さんはこう言って胸を張ります。
「リヤキャリアとリアシートの天面をフラットに繋げて、大型の荷物を載せやすくし、また、荷掛けフックの位置や形状は開発担当者が考えに考え抜いたものになっています」
リアキャリアはタンデム乗車時にクラブバーとしても機能し、しっかりと身体を支持できます。また、純正オプションでハードトップケース(高さ290×幅390×奥行400mm、容量27L、最大積載量3kg)も用意されました。
3つ目の項目は「航続距離」です。走り方や交通状況にもよりますが、WMTCモードでリッターあたり34.5km、燃料タンク容量12リットルを考慮しますと、約400kmの走行を可能としています。
そして、4つ目の項目が「快適性」。まず、ウインドスクリーンは視認性を確保しつつ、小さくても肩まで防風してくれるよう形状が作り込まれました。
前後サスペンションとタイヤは、最大限に乗り心地の良さを追求するため、「竜洋テストコースのハイウェイ周回路を全開走行しても破綻しない剛性を確保した」というから驚きを隠せません。クラスを超えた高速クルージング性能を持っているのです。
シートは前後分割式で、ライダーシートについてはフラット座面でポジションの自由度を確保し、ボリュームとグリップ性を持たせて長距離でも疲れにくい仕様としています。
ピリオンシートは座った瞬間、ふかふか感のあるシートとし、2人乗りでも快適な乗り心地となりました。
フットレストは『ジクサー250』のアルミ製から鉄製に変更され、強度を確保しつつ上面にラバーを装着して、ライダーの足に伝わる振動を軽減しています。
最後の項目である「視界」は、アップライトのポジションで高い視点でのライディングとなるため、他のカテゴリーでは味わえない景色を楽しみながらのツーリングが可能になりました。アドベンチャーモデルらしく、高い位置から遠くまで見渡せます。
3つ目の柱とは!
最後に3つ目の柱、「ツーリングでの走破性」です。ツーリングで遭遇する様々な道、舗装路、未舗装、市街地、高速道路、ワインディングといろいろとありますが、その状況を選ばず安心して走れるように『Vストローム250SX』は作り込まれています。
まず、未舗装路を安心して走行するため、ベースとなった『ジクサー250』に対してフロントホイールを19インチ化、ホイールをフロントフォークから前方に30mmオフセット。タイヤはセミブロック調パターンとしています。
さらにスイングアームが伸ばされ、『ジクサー250』と比較し、ホイールベースを95mm延長しています。
そして、最低地上高は205mmを確保。その結果、路面の凹凸の影響を受けにくく、安定した走りを実現できました。また、未舗装路での耐キックバック性を考慮して、幅広なハンドルバーを採用しました。
スリム軽量なショートストロークエンジン
市街地、高速道路、ワインディングを気持ちよく走行するためのエンジン仕様についても鈴木さんは説明してくれました。
エンジンは『ジクサー250』と同じ油冷SOHC4バルブエンジンですが、水冷DOHCエンジンに比べ、フリクションロスが小さいため低速域からトルクフルで、軽量・スリムであることもあいまって市街地でも乗りやすくなっています。
また、ボア・ストロークを76×54.9mmのショートストロークにし、ロッカーアームも軽量化することで限界回転数を上げています。
結果、高速道路でもワインディングでも楽しめるエンジン特性になりました。
弱点を克服した新油冷システム
エンジンは『ジクサー250』共通の油冷SOHC4バルブエンジンを使用。新油冷システムは、従来の油冷とは全く異なる冷却方式で、従来の油冷の弱点を改善していることを鈴木さんは教えてくれます。
まず、新油冷システムは冷やしたい高温部、具体的にはエキゾーストバルブシート周辺、燃焼室上壁面、シリンダー上部に、冷却用のオイル通路を張り巡らし、そこにオイルクーラーで冷やしたオイルを圧送し、高い流速で効率よく冷やします。
従来の油冷は燃焼室上壁面にオイルジェットを吹き付けますが、冷やせるのはその1ヶ所だけで、しかも表層のみです。新油冷システムでは、冷やしたい箇所を全て確実に冷やすことができるようになりました。
新油冷システムでは燃焼室上壁面に加え、さらにエキゾーストバルブシート周辺とシリンダー上部にもオイルジェットを吹き付け、効果的に冷やします。
さらに、冷却ファンをオイルクーラーに装着。規定油温を超えれば強制的に冷却し、油温を規定温度以下に管理することができます。
従来の油冷では、高負荷時に油温が高くなってしまい、効率的な冷却ができず熱だれや圧縮漏れを起こしていました。新油冷システムによって、エキゾーストバルブシートやシリンダー壁面の温度上昇を抑え、熱だれや圧縮漏れを解消しています。
小型軽量化にも貢献
新油冷システムとSOHCの組み合わせは、エンジンを小型軽量化するのに非常に相性が良いことも鈴木さんは教えてくれました。
DOHCではなくSOHCを採用することで、カムシャフト1本分の軽量化、およびシリンダーヘッドとシリンダーのカムチェーン室の小型化が図れます。
そして、水冷ではなく油冷方式を採用することで、ウォーターポンプの廃止、さらにその駆動ギアやシャフトの廃止、またコンダクション、サーモスタット、リザーバータンクが不要となり、シリンダーヘッドとシリンダーからフィンをなくすなど様々な方法によって軽量化を実現しています。
エンジンを小型軽量化することにより、車体も軽量化でき、相乗効果で燃費向上とともに軽快で扱いやすいライディングを実現しています。
さらにフリクションロスを減らすことと、吸入空気量を増やすことを達成しました。ボアを『GSX-R1000R』と同一の76mmとし、バルブの傘径を確保。76×54.9mmのショートストローク設計で、高回転のポテンシャルを持たせています。
走ってる間ずっと楽しい
実際、『Vストローム250SX』に乗ると、低回転からトルクフルで扱いやすいエンジンであることがわかりました。リニアなスロットルレスポンスで、高回転もスムーズに吹け上がり、街乗りからツーリングまで幅広いシーンでストレスのないパワーユニットになっています。
チーフエンジニアの鈴木さんにとっても会心の出来栄えで、「通勤通学はもちろんツーリング、走ってる間ずっと楽しいバイクに仕上がっています」と、自信満々です。
「入社以来、油冷のGSX-R750、水冷のGSX-R750に長年乗ってきましたが、それをついに手放してこのVストローム250SXを予約しました」(鈴木氏)
そう言って笑う鈴木さん。『Vストローム250SX』に乗っている姿を、どこか旅先で見かけることができるかもしれません。
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Vストローム400SXも作ってほしいのだ!